komaikaya

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11/6/2025, 2:05:06 AM

 円満離婚した元ダンナは、私の10コ上だった。
 そして、いまの私のカレシであるスバルくんは、私の10コ下。こんなの、もちろん狙ったわけじゃないんだけど。

 離婚前の私は。元ダンナと同じものが見たい、と年に似合わない背伸びをして、それで空回りばかりしていた。
 だからスバルくんが、私との年の差に、要らない焦りを感じている、その気持ちが、わかりすぎるくらいにわかってしまうのだ。

 でもね、スバルくん。私はあなたに、そんな無理はしてほしくない。彼に、そのままでいいよ、って言いたいけれど、それを伝えることの失礼さも重々承知している。

 なら例えば、神様にでも頼んで──スバルくんを待って、私の時だけが止まってしまう、そんなことが起これば、私たちはすれ違わずにいられるのだろうか?

「町中華特集かぁ。最近、多いなー」

 テレビのリモコンを片手に、スバルくんが言った。
 結局、今日もこうしておウチデートになってしまったのは、私が体のだるさを訴えたからで。20代のスバル君はまだ若いんだし、もっと外にお出かけしたいだろうなぁって思うんだけど。
 こんな私に付き合わせてしまって、いいのかな。テレビ画面に映る、中華屋さんを営む老夫婦を眺めながら、罪悪感と、それと真反対の、彼に想われ大事にされていることへの嬉しさが、私の内側でせめぎ合っていて……。

「12歳年上の姉さん女房。ふーん……」

 その姉さん女房なおかみさんのコメントを聞いたスバルくんが、言った。

「俺もこの境地に、早くたどり着かないもんかなぁ……出来れば、あと2年くらいで」
「んん? この境地、って?」
「このご夫婦さ、82歳と70歳で、でもそんな年の差があるなんてパッと見、誰もわかんないじゃん? いまの俺だとどうしても、ユウナさんと比べてガキでしかないから、」
「あと2年で、って……フフッ。アハハハハッ」
「なっ……笑わなくたっていーじゃんか!」

 スバルくんの、ムッとしたカオ。
 でも、ごめんね。だってさ……。

「やだ。そんな急に年とりたくないよー」
「や、だから、そういうことじゃなくて! ユウナさんはそのまんまで、俺がもっと、」
「それもやだ。スバルくんもそのまんまでいい、そんなにすぐに、オジサンにならないでよ」

そっか……そういうことなんだ。
 私とスバルくんはいつか、おばあちゃんとおじいちゃんになって、年の差が10コもあるなんて、誰にもわからなくなる。私とスバルくんの間に横たわる年月は、それこそ時間が解決してしまうってこと、じゃあ、それならば。

 神様にはやっぱり、『時を止めて』欲しい──私だけじゃなくて、二人一緒に。この瞬間、スバルくんがスバルくんのまま、そして私も私のままでいる、いまという時間を、もっと大事に、ゆっくりと味わいたいから──。

 ……なーんて、ね?
 でも実際のところ、アンチエイジングにはそこそこ必死にならないと、いろいろとマズいかもしれない。この美少年顔はきっと老けにくい……どうするよ、私?!


11/5/2025, 3:35:04 AM

「スバルくん、『キンモクセイ』の香りがするねー。どこで咲いてるのかなぁ」

 ああ……今年も、か。
 ユウナさんは毎年この季節になると、路地に漂うキンモクセイの香りにそわそわする。そんなに、うれしそうにして──ひょっとして、円満離婚したっていう元ダンナとの、いい思い出とか、そういうのがあったりするのだろうか?

 そうやって俺は、キンモクセイの香りに、その背後にいるかもしれない元ダンナ氏に嫉妬する。あーもう、なんか不毛だし、重症だし……。
 互いの部屋に泊まるような関係になってもう10か月も経つってのに、それでも俺は、まだ過去には勝てないんだよなぁ、などと独り勝手に打ちのめされて落ち込み、それで──結局。
 俺って本当、ユウナさんとの歳の差以上にガキくさい、我慢できずにこうして、ユウナさんに問い正してしまうんだ。
 
「え? キンモクセイをなんで気にするか、って……や、べつに、彼との思い出がどうこうって訳じゃないよ?」
「……そう、なの?」
「うん。単純に、そんな季節になったんだなーって思うだけで……」

 なんだそうだったのか、と俺が安堵したのも束の間、ユウナさんが「……ああ、でもね。……フフッ」なんて、思わせぶりに笑った。っ、なんだよ、やっぱりなにか……。

「いま気づいた。スバルくんだからだよ、キンモクセイのこと、口にしたの。だって彼とはそういう類の、例えば、空が高くなってすっかり秋の空だねぇ、なんていうぼんやりした話は、全然しなかったもの」

 ベッドの上、すぐ隣にいる彼女の、ひんやりした手が俺の頬に触れた。

「スバルくんにはそういう、もしかしたらつまんないかな? ってことでも、なんでか話せちゃうんだよねぇ。っていうかキンモクセイの思い出って言うなら、スバルくんと初めて会ったときのこと、思い出すよ? ウチの店に来てくれたのが、ちょうどこの時期だったな、って」

 半身だけ起こしたユウナさんが、しょうがないなぁ、ってカオして俺を見下ろし、それから軽いキスをくれる。
 あーあ、それって……キンモクセイなんかにも嫉妬する、ちっさい男でもいいよ、ってこと、ユウナさん?

11/4/2025, 1:40:03 AM

 あの男は、いつもそう。
 わたくしに永遠の忠誠を誓った騎士のくせに、わたくしより先にわたくしを見つけられない。

 遠ざかる足音──あの男の背を、わたくしはただ、見送ることしか出来ない。何度生まれ変わってもわたくしはちゃんとあの男を見つけるのに、ったく、あの男ときたら!
 そうやって、わたくしではない女に笑みを浮かべ、わたくしに背を向け──ああ、せめて文句を言ってやりたいのに、どうしてなのか、わたくしは声を出すことが出来ない。
 だからわたくしは、ただ願うしか出来ない──あの男の背に、わたくしを置いて『行かないでと、願ったのに』、そう強く願ったのに、それなのに、あの男は──!

「ああ、もう! わたくしに、気づきなさい!」

 そう叫んだ自分の声で、わたくし──わたしは、目を覚ました。
 ここは……そう、教室の、自分の席?

「あれ……夢、だった?」
「あー。やっと起きた」

 声のほうに顔を向ける。隣の席に座っていたのは──くされ縁の幼なじみでクラスメイトでもある、シゲタトキオ。教室に残ってるのはわたしとシゲだけで、それは日直の仕事があったからで……。

「ごめん、わたし……寝ちゃって、た?」
「うん。日直レポート提出しに行って戻ったら寝てて、すぐ起きるだろうって待ってたけど、なかなか起きないからどうしようかって思った。で、それで……なんの夢、見てたの?」

 シゲにじっ、と見つめられながらわたしは、夢の余韻を追おうとして──でも。

「えっと……わかんない。ぜんぜん思い出せないや」
「っ、なんだよそれ。あんなハッキリ寝言言ってたくせに……覚えてない、って?」

 そう言うとシゲは突然、ケラケラと笑い出し。わたしの頭はまだ半分くらい寝ぼけていて、でも段々と、夢の中の腹立たしさだけを思い出しはじめた。

「覚えてないけど、なんか、すっごくムカついたのは覚えてる……ねぇ、殴っていい?」
「はぁ? なんでそーなんの?」

 そしてわたしたちは、どちらからともなく立ち上がり、夕暮れの教室を後にした。
 駅までの道を、連れ立って歩きながら。シゲが呟いたことばを、わたしは上手く聞き取れなかった。

「悪かった……でも今回は俺が先だったね、我が君」
「えっなに? ごめん、なんて言ったの?」
「いや……ちゃんと待ってる俺って、エラいよねってハナシ!」
「あーハイハイ、お待たせしてどーもすみませんでしたー」
「なんだよその、謝る気のない言い方!」

 だって。なんならもっと待たせてやればよかったって、なんでかそう思うんだもの。
 胸がキュッとなるような、この気持ちは……なんなんだろう?


11/3/2025, 1:42:07 AM

『秘密の標本』の情景3篇

その1:

「先月に『秘密の箱』ってお題、ありましたよね?」
「ですねー。秘密シリーズ?笑」
「お題がまさかのシリーズ化笑。今月は『標本』……ってことは来月は、封印、風景、風船とか?」
「あーなるほど、そう来ますかー。いや風船て笑」
「で、さ来月は部屋かヘソクリ」
「うわー現実味あるー」


その2:

「先輩。この『秘密の標本』ってなんスかね?」
「なにも言うな。プロの引っ越し屋なら黙って運べ」
「でも全部の箱にわざわざ書いてあるのってのが、」
「中身が標本だってわかるだけ、まだマシだ。あと詮索はもういいから、黙って仕事しろ」
「あーこの箱の感じ。瓶と、なんか液体が入ってるっぽいんスけど……あっ。この研究室ってほら、両生類学の、」
「っ、言っとくがな! 俺はそっち方面のそういうのは大っ嫌いなんだよ! ついでにお前みたく思ったことなんでも口にする後輩も大嫌いだ、コンチクショー!」


その3:

「教授のクソ野郎……『新しい研究室はとっても広くてキレイだから見においで』って……」
「完っ全に騙された! これ全部ここにいるオレらだけで開けて棚に分類整理し直すとか、無茶ブリすぎるだろ?!」
「ってか梱包したの誰だよ? いくら部外秘だからって箱に『秘密の標本』しか書いてないって、おかしいだろ? 番号振って別でリスト作るくらいのこと、思いつけよ!」
「だって! 教授が私たち呼びつけたの、研究室退去日の2日前だったんだよ?! 」
「詰めるだけで精一杯だったっての!」
「その割に『秘密の標本』って、全部の箱にキッチリ書いてるのがウケるよな〜?」
「それは……引っ越し業者さんへの牽制になるから、って教授の指示だったの! そのほうがたぶん丁寧に運んでくれるからって……画数多いのに……っ、書くの、クッソめんどくさかった……」
「あー……悪かった、泣くな。とりあえず……教授にピザかなんかタカリに行ってくるから、な?」

11/1/2025, 1:16:22 PM

 『凍える朝』には布団の中で、ここにはない、自分以外の体温を恋しく思う。もしウチに猫チャンがいたらきっと、すっごくあったかいんだろうなぁ、ってね。

 SNSなんかで見る猫チャンたちは飼い主に寄り添って丸まって、それが羨ましくって。でも無理、生き物の命を預かれるだけの金銭的余裕も度胸も私にはないんだよねぇ……ハァ。

 その代わりに、というわけでもないんだけど、掛け布団はそこそこのお値段の羽毛布団を買ったし、それでも独り身女子の独り寝の体ってどうしてこんなにあったまんないのよ〜って日のほうが多いから靴下と腹巻き必須で……ん、でも今朝はなんだか、とってもあったかい……。

 寝ぼけまなこで布団の中の、適度に硬くて熱を持った物体を撫でる。これってもちろん、猫チャンじゃなくって……あれ?

「にゃー。くすぐったいです」

 その物体から低く、くぐもった声がした。

「先輩、おはようございますにゃー」

 その声は明らかに、成人男子のそれで。その耳覚えのある声のおかげで、昨晩の記憶が秒でよみがえって私の脳裏を駆け巡り……あああ! 酔っ払った勢いで後輩年下男子を部屋に連れ込んで、猫扱いして布団にも引っ張り込んで? でもお互い服もちゃんと着たまんまだし、でもでも添い寝って……マジかー。

 ……にしても。
 ああん、もう……すっごく、あったかいぃー!
 さっすが、人肌!

 羽毛布団の下で。猫って言うより、なんでも言う事聞いてくれるワンコな後輩の体が、私の体にピタリと寄り添っている。その熱の気持ちよさに、私はそっと目を閉じ、そしてそのまま、現実逃避も兼ねての二度寝を試みるとこにしたのだった。

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