結城斗永

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12/7/2025, 7:38:25 PM

タイトル『白い息』

 冬っておもしろい。はぁ〜って息を吐くと、口から煙が出たみたいに白くなる。ぼくはそれが魔法みたいで楽しくて、寒い日がちょっと待ち遠しかったんだ。
 でも先生が、それは空気が冷たいからだって言ってたのを聞いて、魔法じゃなかったんだって少しだけショックだった。

 とっても寒い日、ぼくは学校から帰る途中で、手袋が片方だけポツンと落ちているのを見つけた。小さな子ども用の手袋で、毛糸で編まれてるやつ。
 拾おうと手を伸ばしたんだけど、ぼくの前を通ったおじさんの足がその手袋をギュって踏んづけてった。おじさんは気がつかなかったみたいに、そのまま歩いて行っちゃった。おじさんの背中は冷たい空気に固められたみたいにクルンと丸まってた。
 地面に落ちてる手袋に黒い足跡がついてて、なんだか胸がキュッと冷たくなった。
 はぁ~って口から出てきた息は、悲しい感じがして、いつもよりも白い気がする。
『息が白いのは、空気が冷たいからだよ』
 先生の言っていたのを思い出す。
 空気が冷たいと、みんなの心も冷たくなるのかな。息が白くなるたびに、ぼくの胸の奥がチクリと痛くなった。

 ぼくは手袋を拾って、近くの交番に届けてあげた。この手袋がなくて手が冷たくなってる子がいるかもしれないからね。
 おまわりさんは「えらいね」って言って、温かい手でぼくの頭をなでてくれた。

 お家に帰ったら、おかあさんは晩ごはんの準備をしていた。おかあさんの後ろでお鍋がグツグツ音を立てて、モクモク湯気をあげてる。おうちは暖かくて心がホッとする。
「おかえり。何かあったの?」
 おかあさんは、ぼくの『ただいま』の声を聞いただけでそう言った。おかあさんはなんでもお見通しだ。
「うん。手袋が落ちてたの」
 ぼくがそう言うと、おかあさんはコンロの火を小さくして、ゆっくりとぼくのほうへ歩いてきた。
「手袋が落ちてて、おじさんに踏まれて黒くなってた」
 あの時の手袋が頭の中に浮かんできて、また少し悲しくなった。
「だから、交番に届けてあげたんだ」
 ぼくがそう言うと、おかあさんはニコっと笑った。
「そっか。善いことしたね」
「うん!……でも、なんかおじさんは冷たいなって思った」
 おかあさんは少し考えて、それからぼくの肩に手を置いた。
「おじさんは心が急いでいたのかもね」
 心が急ぐと冷たくなっちゃうのか。

「ねえ。どうして息が白くなるか、知ってる?」
「空気が冷たいからって先生が言ってた」
 ぼくははぁ~って息を吐く。いまは部屋が暖かいから息は白くならない。
「そう。でもね、息が白くなるのは、あなたの吐く息が温かいからなんだよ」
 後ろでお鍋の湯気がモクモクと上がる。そっか、あの湯気とおんなじなのか。
 おかあさんがぼくの胸に手を当てた。
「まわりが冷たいなって思った時は、胸に手を当てて、自分の温かさに気づいてあげて」
 なんだかよくわからなかったけど、自分の胸に手を当ててみたら、トクトク心臓がなってて、ポカポカ温かい気がした。

 次の日の朝、お家を出た瞬間、寒さに体がブルッと震えた。両手が一気に冷たくなって、ぼくは思わずはぁ~って息を吐く。昨日、おかあさんが言ってたとおり、ぼくの息は温かかった。
 両手をこすると手のひらが少し温かくなった。このくらい手が温かかったら、みんなのことも温かくできるかな。
 ぼくは、みんなの心が冷たいなって思った時に、温かい心でみんなを助けられる人になりたいな。
 はぁ~と空に吐いた息は今日も白かった。でもそれは昨日食べたお鍋の湯気みたいに、モクモクとまわりの空を温めている気がした。

#白い吐息

12/6/2025, 10:39:00 PM

12/5『きらめく街並み』
12/6『消えない灯り』
2日分まとめて投稿します。
少し長くなりますが、最後まで読んでいただけたらうれしいです🙇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
◆タイトル『ありがとうに光る街(前編)』

その昔、世界の片隅にある小さな街の外れに、リヒトという十歳の少年が住んでいました。リヒトは少し引っ込み思案な性格で、人と話すのがあまり得意ではありませんでした。
リヒトの日課は、街で唯一の楽器屋さんのショーウインドウ越しに、店内に飾られた青いオカリナを眺めることでした。
『吹けばたちまち人気者』
そのオカリナに添えられたカードの言葉に、リヒトは自分がそのオカリナを吹いている姿を想像しました。楽器から流れ出すメロディに、リヒトの周りに人々が集まり、満面の笑みで手招きをしてくれるような気がしたのです。
「これが吹けたら、ぼくもみんなと仲良くなれるかな……」
リヒトはもう少し近くでオカリナを見たかったのですが、店に入る勇気はありませんでした。お金も持っていないのに、もし店主に声をかけられたらどうしよう。そんなことを思うと、ただただ外から見ていることしかできなかったのです。

ある日、いつものようにオカリナを眺めていたリヒトに、杖をついた老人が近づいてきました。
「このオカリナが欲しいのかい?」
老人の声にリヒトはドキリとして、つい下を向いてしまいます。
「……うん。でも、僕には……」
リヒトは老人に返事をしようとしましたが、言葉がうまく出てきません。
老人はそんなリヒトの様子を見て、懐から小さなガラス玉を取り出すと、静かに微笑みながらそれをリヒトに手渡しました。
「あ……ありがとう……」
リヒトの手には小さなスノードームがコロンと収まっていました。軽く降るとガラスの中でキラキラと白い雪が舞い、その中に小さく作られた街が静かに佇んでいます。
「これをお持ちなさい。この街が光で満ちたとき、君の願いはきっと叶うはずじゃ」
老人の言葉を聞いてリヒトが不思議そうに首を傾げると、彼は杖の先で近くにいたおばあさんを指し示します。
「まずはあのおばあさんに、声をかけてごらんなさい」
老人に言われるがまま、リヒトは胸をどきどきさせながらも、おばあさんに近づいていきました。
途中で怖くなって振り返ると、そこにはすでに老人の姿はありません。しかしどこからかあの老人の声だけが耳に響いてきます。
――大丈夫。勇気を出して……。

「こ、こんにちは……」
リヒトが勇気を出して声をかけると、おばあさんは少し疲れた笑みを浮かべました。どうやら荷物が重たくて困っているようです。
「……運びましょうか?」
リヒトはそう言っておばあさんの荷物を手に取ると、近くの馬車まで運んであげました。
「ありがとうねぇ、助かったよ」
馬車に乗り込んだおばあさんが笑みをこぼした瞬間、リヒトが持っているスノードームの中で、小さな家にぽつりと灯りがともりました。
リヒトは驚きましたが、胸の中にほんのりと温かさを感じました。

次の日、リヒトは市場で転んでいた少年を見つけて手を差し伸べてあげました。
「大丈夫?」
リヒトが尋ねると、少年は袖で涙を拭いながら「うん、ありがとう」と頷きました。
すると、スノードームの真ん中に立っていたツリーに灯りがともります。

その後も、パン屋の煙突掃除を手伝ったり、坂道で農夫の荷車を押してあげたりと、リヒトが人助けをするたびに、街の人々は「ありがとう」と感謝の言葉を告げ、スノードームの街は明るさを増していきました。

その日の帰り道、リヒトがいつもの楽器屋さんでオカリナを眺めていると、店の中で店主が木箱を棚の上に上げられずに困っていました。
リヒトは思いきって店に入り、店主に声をかけます。
「僕もお手伝いします!」
気づけば声を出すのも怖くありません。リヒトは木箱を持ちあげる店主をしっかり支えてあげました。
「ありがとう。とても助かったよ」
店主はそう言うと、トコトコと店の中を走ってリヒトが夢にまで見たあの青いオカリナを持って戻ってきました。
「いつもこのオカリナを見ていた子だね。これはキミにプレゼントするよ」
リヒトは嬉しさのあまり「ありがとう」と満面の笑みを浮かべながら腕を大きく振り上げました。
その瞬間、スノードームの中で、白い雪がふわりと舞い上がり、スノードームを満たしていた光でキラキラと輝きました。

#きらめく街並み

◆タイトル『ありがとうに光る街(後編)』

リヒトはオカリナとスノードームを手に、ルンルン気分で楽器屋をあとにしました。
――早くこのオカリナを披露して、みんなと仲良くなりたいな。
その時です。
カアッ――と甲高い鳴き声をあげながら、黒いカラスが空からやってきて、リヒトの手からオカリナとスノードームを奪って飛び去ったのです。
「まって……!」
リヒトは必死で追いかけましたが、カラスは街の中を飛び回り、追いつくことができません。
カラスがスノードームに爪を立てるたび、中からはガラスの欠片や雪がぱらぱらと落ち、街じゅうに散らばっていきました。

リヒトが諦めかけたその時、あちらこちらから街の人々が顔を出し、一緒にカラスを追いかけ始めました。
転んでいた少年やパン屋の主人、荷車の農夫、それに楽器屋の店主もみんなで手分けしてカラスを追い詰めていきます。
ついにカラスは疲れたのか、オカリナとスノードームをポトリと落として飛び去っていきました。

オカリナは無事でしたが、カラスに振り回されたスノードームは、ガラスも粉々に砕け散り、土台を残して中身は空っぽになってしまいました。もちろん、あの光もどこかへ消えてしまいました。

リヒトはとても悲しくなりましたが、街の人々の手助けに溢れる思いは止まりません。
「みんな……ありがとう」
リヒトが涙ぐみながらそう口にした――その瞬間でした。
まるでリヒトの言葉に反応するように、街のあちこちに散らばったガラス片が、ぽつ、ぽつ……と光りはじめたのです。
家の壁、屋根の上、木々の葉や石畳の水たまりまで。そのどれもが小さな星のように輝き、やがて街全体が静かなイルミネーションに包まれたのです。

「うわぁ、とてもきれい」
リヒトは思わず街を見渡しながら声を上げました。
街の人々もその美しい光景にキラキラと目を輝かせながら、しばらくじっと辺りを見渡したまま動くことができません。
しばらくしてパン屋の主人がポンと手を叩いて言いました。
「そうだ、今日はこの光の下で、みんなそろってパーティーを開きましょう」
街の人々は皆、パン屋の主人に賛同し、街は再び賑やかな活気に包まれました。

その夜、広場には続々と街の人々が集まりました。
パン屋の主人が持ち寄った香ばしいパンの香りと、農夫の作った野菜スープの湯気が、広場を満たすように漂います。
広場の中央では、楽器屋の主人が街の楽器仲間と集まって、小さな演奏会が始まります。
その傍らで、街の子どもたちも踊りながら歌を歌います。その中にはあの転んで泣いていた子どもの姿もありました。
「リヒトくんもこっちに来て一緒に踊ろうよ」
リヒトは誘われるままに踊りの輪に入ります。リヒトはとても楽しくて、ポケットから取り出したオカリナを奏で始めます。
オカリナのふわりと柔らかい音色が、アコーディオンやチェロの音と混ざり合いながら、街に響き渡りました。
その瞬間、街の光が一段と強く煌めき、まるでリヒトの演奏に合わせて鼓動しているかのようでした。
とても賑やかで温かい雰囲気が広場を包みます。あの日、楽器屋の前で思い描いた光景が、いままさにリヒトの目の前に広がっていたのです。
 
ふと、リヒトは人々の賑わいの向こうに、コツンと杖が地面を打つ音を聞いたような気がしました。
リヒトが音の方に目をやると、きらめく光の中であの老人が静かに微笑みながら立っていました。その肩にはあの黒いカラスがちょこんと大人しくとまっています。
「リヒトくん、今度オカリナ教えてよ」
一緒に踊っていた子どものひとりが、そう言ってにこりと笑います。
「うん、もちろん!」
リヒトも胸を張って笑顔を返しました。
気づくとあの時のように老人の姿はどこかへ消えていましたが、まるでこの街の温かい空気の中に溶けているかのように、老人の気配は賑わいの中に漂い続けていました。
その夜、街に溢れる「ありがとう」のきらめきは、消えることなく灯り続け、祭りは朝まで続きました。
そして、その日から、リヒトも毎日感謝を忘れずに、自分に自信を持って生きられるようになりましたとさ。

めでたし。めでたし。

#消えない灯り

12/5/2025, 7:55:46 AM

12/3『冬の足音』

※12/4『秘密の手紙』は
noteの方に投稿します。
https://note.com/yuuki_toe
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タイトル『冬と一緒に』

夕暮れの街を歩いていたら、冬が後ろからついてきた。まるでせかせかと私を追いかけるようだ。
十二月には師匠も走るとはよく言ったもので、私も日々の仕事に追われ、疲れ切った体を何とか持ち上げてトボトボと歩いていた。
今年も残すところあとわずか。冬が近づくと夜の帳が落ちるのが早くなるのは、冬の気持ちも焦っているからだろうか。

次第に冬は私に追いついて、横に並ぶと私に合わせてペースを落とす。走り疲れたのか、木枯らしに落ち葉が舞うように、どっちつかずのとぼとぼとした足取り。
辺りの空気が冷たくなって、私は思わず体をぎゅっと丸くする。
吸い込んだ息が肺の内側にしんと薄い氷を張り、心に薄っすらと霜を降ろしていく。無意識に吐き出す息が揺らいで、白く空に消えていく。

冬は次第に呼吸を整えて、一定のリズムを取り戻す。
私より少し早いペースで、ついてきてとでも言わんばかりに着かず離れずの距離を保つ。
街を見渡せば、自動販売機には『あったか〜い』の表示が並ぶようになり、コンビニの店頭には中華まんやおでんがホカホカと湯気を立てる。

かじかむ手に、はぁ……と息を吐きかける。
もっと冷えていると思った体の内側から出てくるのは、思いのほか温かい空気。呼気に湿った両手を擦り合わせると、手のひらがじんわりと熱をまとう。

私は少し前を歩く冬に合わせて、少し歩幅を大きくしてみた。すたすたと歩く冬に並ぶと、わずかに息も上がり、体もぽかぽかと温まってくる。
徐々に薄暗くなる街に、クリスマスのイルミネーションがチカチカと灯り、流れてくるキャロルの音色に心が躍る。
心なしか隣を歩く冬の足取りも、楽しげにリズムを刻んでいる。

今年もあとわずか。やり残したことはないだろうか。
年始に立てた目標を思い返しながら、あれはできた、これはまだだ――と思いを巡らせる。
四週間あれば、まだやれることもいくつかあった。
その中から、一番簡単に手を付けられそうで、なおかつ楽しそうなものを選んで、心に留める。

いつしか、冬よりも速いペースで歩いていた。
胸を張ってずんずんと、冬の少し前を歩く。
今年はまだ終わらない。
多分明日からも忙しない日々は続くだろう。
視界が狭くなって、自分の内側ばかりを見てしまうと、どうしても気持ちは沈んでくる。
そんな時には一度あたりを見回して、ちょっとした変化を探してみるのもいいだろう。
季節の移ろいは、いつも私たちの隣を歩いている。

まだ冬は始まったばかり。
深まっていく冬の隣をてくてくと歩きながら、時に追い越し、時に追い抜かれを繰り返していく。
やがて春を迎えるその時には、きっとその切磋琢磨が新しいスタートと出会いにつながるはずだ。
期待に胸を弾ませて、冬と一緒に前へ前へと進み続ける。

#冬の足音

12/4/2025, 9:59:24 AM

#冬の足音
本業の多忙により明日、2日分投稿します。

12/3/2025, 3:09:09 AM

※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は実在のものとは一切関係ありません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タイトル『サンタさんへのプレゼント』

 十二月も半ばにさしかかった頃、夕食の支度をする私の耳に、いつものお絵かきの音が聞こえてくる。画用紙がクシャッとシワを寄せる音、色鉛筆が紙をこする音。
 案の定、リビングの隅で六歳の息子リクが画用紙を広げて絵を描いていた。その背中がいつもよりも楽しそうで、私はリクに近づいて思わず声をかける。

「リク、何描いてるの?」
 私の声に、リクはびくっと肩を揺らし、全身で画用紙を覆い隠した。
「な、ないしょ!」
 必死すぎて笑ってしまいそうになる。けれど、六歳の小さな体からチラチラと絵の断片が見え隠れするのが、また可愛くてしょうがない。
『サンタさんへ』
 画用紙の端に力強い文字が躍る。そして腕の隙間からは、ちらりと赤い三角帽子らしき絵が見えた。
 ――へぇ、サンタさんへのプレゼントか。

 胸がふわりと温かくなった。
 サンタへのお返しなんて子どもらしい発想だな、と息子の優しさが誇らしくなる。
 でも、気づいちゃったことは黙っておこう。秘密は秘密のままにしておくのが、魔法を長持ちさせるコツだ。
「そっか。じゃあ完成したら教えてね」
「ダメ、教えないったら教えない!」
 リクは小さな背中をまるめ、さらに画用紙に覆いかぶさった。
 そんな姿を見ながら、私は夕飯の支度を続けた。
 ほんの少し前まで何をするにも私に『見て!』とせがんできていたリクが、こうして自分だけの秘密をこしらえるようになったのだと思うと、嬉しいような、寂しいような、不思議な気持ちになる。

 その夜、布団に入るとリクがぽつりと聞いてきた。
「お母さんはサンタさんにプレゼントお願いした?」
「お母さんは大人だからもらえないよ」
 そう答えると、彼はむぅっと唇を尖らせた。
「えぇ、そうなの? でも、もしもらえたら何がほしい?」
 思いもしなかった質問に、しばし思いを巡らせる。
 すこし前までは自分へのご褒美にと時々欲しいものを買ったりもしてたけど、最近は仕事と家事に追われ、そんな事も考える余裕もなかった気がする。
「そうだなぁ」私は少し考えて「お母さんはリクといっぱいお話できる時間がほしいかな――」
「それはプレゼントじゃないよ!」
 リクが無邪気に笑う。確かにサンタにお願いすることではないかな。 

 そして迎えたクリスマスイブ。
 昼間に全力で遊び倒したリクは、布団に入った途端にすやすやと眠った。
「よし……そろそろかな」
 私は用意していたプレゼントを取り出し、そっとリクの枕元へと近づく。するとリクの頭のすぐ近くに、小さなお菓子の空き箱がひとつ置かれていた。見慣れた不器用な文字で『サンタさんへ』と書かれている。
 ――あの時のプレゼントだ。
 私は思わず微笑んで、箱をそっと持ち上げる。箱を軽く振ると、中でカタカタと音が鳴る。
 箱を開けて中で折りたたまれていた画用紙を開く。色鉛筆で描かれた『サンタさんへ』の文字と、サンタクロースの絵。そして――。
 笑顔で並ぶ親子の絵が描かれていた。
 思わず胸が熱くなる。
『らいねんは おかあさんにも
 プレゼントを あげてください』
 すぐ下に書かれた震えるような文字に、息が止まりそうになった。こんな優しいお願いがあるだろうか。
 自分のプレゼントより、私のことを気にしてくれたのだと思うと、一気に視界がにじんだ。
 ふとお菓子箱の隅に黄色く光るものを見つける。折り紙の星。中心に小さな文字で――
『おかあさんのほし』
 思わず声が出そうになって、慌ててプレゼントを枕元に置くと、画用紙とお菓子箱を持って部屋を後にした。
 その夜はリビングでリクの絵を眺めながら、温かい涙が優しく流れていた。腫らした目を擦って筆を執った時には、すでに空が明るくなり始めていた。

 翌朝。リクは目を覚ますなりサンタからのプレゼントを抱えて跳ね回り、すぐに箱が空になっていることにも気づいたらしい。
「サンタさん、ぼくの描いた絵、ちゃんと見てくれた!」
「よかったね」
 私はリクの笑顔を見ながら、エプロンのポケットを探る。昨日受け取った折り紙の星の感触を確かめながら、リクに宛てた手紙を取り出す。
「リク、サンタさんからお手紙が来てたわよ」
 手紙を受け取ったリクの目がキラキラと輝く。
『リクくんへ
 とてもやさしいプレゼントをありがとう
 このほしはきっとおかあさんがよろこぶから
 おかあさんにプレゼントするね
 これからもたのしいことやうれしいことを
 おかあさんにたくさんはなしてあげるんだよ
             サンタより』
 手紙を読んだリクがピョンピョンと飛び跳ねながら嬉しそうにしているのを見て、またぐっと胸が熱くなる。

 澄みきった冬の朝に、シャンシャンと鈴の音が響いた気がした。まるでどこかで本物のサンタクロースが、私たちを優しく見守ってくれているかのように。

#贈り物の中身

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