どこまでも続いている真っ白の雪原。
昨夜雪が降ったらしく、一夜で白い世界へと変わった。
看板が立っているが、雪で埋もれていて読めない。
ここを通れば、次の町まで近道出来ると商人に教えてもらった。
よし!雪原を通って次の町へ――。
「こら!そこの若いの!」
雪原に一歩足を入れた瞬間、爺さんに止められる。
「ここは先は立ち入り禁止じゃ!看板に書いてあるじゃろ!」
「看板?」
爺さんは雪で埋もれた看板に指を指す。
手で雪を除けて看板を見ると、確かに立ち入り禁止と書いている。
どうやら、近道は使えないらしい。
他の道を通るにしても、雪が溶けてからのほうがいいかもな……。
仕方なく、来た道を引き返す。
「若いの!そっちは迷いの森だぞ!反対方向じゃ!」
爺さんに言われ、慌てて向きを変えて歩く。
雪で方向感覚がマヒしているのかもしれない。
雪が積もった時に出歩くのは、やめておこう……。
息を吐くたび出る、白い吐息。
今日は一段と寒い日だ。
こうして自分の白い息を見ると、生きてるって感じがする。
……暖かくしたつもりだが、寒い。
ブルブルと身体が震える。
じーっと待っているのは辛いなぁ。
まぁ、こうして寒くて震えてるのも、生きてるって証拠。
早く来ないかなぁ……。
「ごめんごめん!お待たせ!」
白い息を吐きながら、彼氏が走ってきた。
「寒くて凍っちゃうかと思ったよぉ」
私は息を切らす彼氏に、冗談混じりで白い息を吐きながら言い返す。
お互いの白い吐息が交差し、交わる。
この光景は冬にしか見れないから、私は好きだ。
まるで人がいなくなったかのような、静か過ぎる深夜の住宅街。
家の灯りは当然点いておらず、街灯しか灯っていない。
ふう……今日も残業で疲れた。
帰ったら、ゆっくり湯船に浸かろう。
帰宅後のことを考えながら歩いていると、あっという間に我が家に到着。
我が家だけ、灯りが点いている。
「ただいまー」
「おかえり〜。今日もお疲れさま」
家の中に入ると、すぐに妻が出迎えてくれた。
帰りが遅くても、こうして出迎えてくれると心が温かくなる。
でも、遅い時間まで俺を待っている妻に申し訳なく思う。
「俺が帰ってくるのを待たずに寝てくれたらいいのに」
そう言うと、妻は「ふふっ」と微笑む。
「帰ってきて誰かが出迎えてくれたら嬉しいでしょ?」
「あ、ああ……そうだな……嬉しい」
「あなたがそう思ってくれてるから、私は苦じゃないよ」
うーむ……可愛いじゃないか。
そう言われると、早く寝ろと言えなくなる。
「それに、家の灯りは消さずに点けておきたいからね」
「どうしてだ?」
「家が暗いと気持ちも暗くなっちゃうでしょ?だから明るくしておきたいの」
確かに、妻の言う通り、家が明るいと気持ちがほっとする。
待ってくれている妻に感謝しないとな。
「そっか……いつもありがとな」
「あなたもいつも遅くまで仕事お疲れさま」
妻からも感謝され、更に心が温かくなる。
家の灯りが点いているか点いていないかの違いで、こんなにも違うのだと、改めて思った。
夜の街をキラキラと光輝かせているイルミネーション。
昔はこんなに街が明るかったのか。
数分間じーっと見てしまうほど、数百年前の写真に魅了されてしまう。
それに比べて、今の街は……。
どれも同じ形と色の建物、夜は薄暗く、見ててもすぐに飽きてしまう。
資源節約のためだと、政府からの命令でこうなったらしい。
こんなキラキラしてない街並み、楽しくないな……。
おっと、あまり感情を出すとロボット警察官に職質されてしまう。
急いで、無感情モードに切り替える。
写真を体内へしまい、我々人型アンドロイドが働く、機械工場へ向かった。
パパがこっそり書いていた手紙をママに見せたら、次の日からパパとママはケンカばかりするようになった。
いったいなにが書いていたんだろう?
今日も、パパとママはケンカしている。
……手紙をママに見せなきゃよかった。
おこっている声が、家中にひびく。
わたしは聞こえないように耳をふせぐしかできなかった。