ぱらぱらからザーザーに変わる天気。
心というのは気分次第で天気が変わってしまう。
つまり、今私はすごく凹んでいる。
それでも前へ進まなくてはいけない。
旅路はまだまだ続くから。
雨が止むのに半日以上かかってしまった。
曇空になり、先には太陽の光が射し込んでいる。
これからも天気はころころ変わるけど、旅路はまだまだ続く。
どんな天気になっても諦めず、前へ進んでいきたい。
私は太陽の光に向かって、走った。
鏡の中に凍ったまま閉じ込められた彼女。
原因を聞くため、彼女に鏡を渡した魔女の元へ向かった。
「歳をとらず今の若いままの姿でいたいって言うから、願いを叶えてやったまでさ」
魔女は嘲笑うように言った。
どうすれば彼女を鏡から出られるか聞くと。
「そうだねぇ……歳をとってもいいと思えるようになったら出てくるんじゃないか?まぁ無理だと思うがね」
ヒッヒッヒッと更に嘲笑う魔女。
歳をとってもいいと思えるようになったら……か。
それから俺は、常に鏡を持ちながら生活をした。
楽しい生活を見せれば出てくるかと思ったが、なかなか難しい。
なぜなら、彼女と共に同じ時間を過ごせないから。
鏡に話しかけても返事はなく、ただの独り言になるだけ。
虚しい気持ちになるだけだけど、それでも俺は諦めなかった。
……あれから何年経っただろう?
結局彼女は鏡から出てこず、俺が歳をとる一方で、彼女は変わらない。
もう鏡を捨ててしまおうかと考えたこともあったが、やっぱり諦められなかった。
……私はもうおじいさんになってしまった。
彼女は、鏡から出てこない。
私が見せてきた日々の生活が悪かったのか?
それとも彼女への想いが足りなかったのか?
もう、何も分からない。
私は病で倒れ、身体が動かず、ベッドから出られなくなった。
枕元には鏡を置いている。
彼女は歳をとらず若いままで、あれから変わっていない。
私だけ、変わってしまったな……。
だんだんと眠くなり、目を瞑る。
「あいつからあんたを奪おうとしたが、まさかそこまで想ってるとはねぇ……。私の負けだ。来世で彼女と会えるようにしてやるから、それで勘弁しておくれ」
最後に聞こえたのは、魔女の声だった。
まるで別世界に来たかのような真っ白の世界。
仕事している間に雪が降ったらしく、普段は積もらないのに積もっている。
地面に足をつけると、少し沈む。
まさかこんなに雪が積もるとは……。
そんな日に限って、残業で帰りが遅くなってしまった。
とりあえず、ゆっくり帰ることにしよう。
明日休みでよかった。
歩くたびに雪を踏む音が響き、同時に足跡がつく。
街灯の光が真っ白の世界を照らしていて、すごく幻想的だ。
いつもの帰り道とは違い、ワクワクする。
仕事で疲れていたが、雪と光のおかげで気持ちが明るくなった。
誰もいなくなった静かな教会内。
十字架の前でしゃがみ、祈りを捧げる。
毎日こんなに祈っているのに、いつになったら願いは叶うのだろう?
「女性全員が嫉妬するほどのイケメンが、白馬に乗って私を迎えに来て、セクハラしてくる牧師を一発殴ってくれる……それが私の願い」
「そんな欲望まみれな願いは絶対に叶わんぞ」
後ろを振り向くと、牧師が立っていた。
これは……まずい。
「な〜んて♪冗談ですよぉ牧師様ぁ♪」
「シスター、しばらく教会の掃除は一人でするように」
「……はい、牧師様」
やっぱり、私の祈りは神様に届いていないんだ。
私は十字架に向かって、あっかんべーしてやった。
カップルが多く歩いている商店街。
そういえば、今日はクリスマスか。
カップルが手を繋いで歩いているのを見て、去年別れた彼女のことを思い出す。
去年のクリスマスに、彼女と手を繋いで歩いていた。
人気が少なくなった所で、彼女は急に手を離し、真剣な表情で俺にこう言った。
「あのね、私……好きな人が出来たの。だから、別れてほしいの」
まさかクリスマスに言われるとは思わなくて、しばらく思考停止してしまう。
……彼女は可愛いし、俺とは不釣り合いだったのだろう。
まぁ、付き合えたことが奇跡だったし。
もっと、俺が彼女に相応しい男だったら……。
「分かった。少し寂しくなるけど、君の幸せを後押しするよ」
「あなたって……ほんと優しいんだね。ありがと」
最後に見た彼女の表情は、悲しそうな表情だった。
あれから一年。
彼女は、新しい彼氏と幸せに過ごしているだろうか?
連絡して聞いてもいいが、そんな勇気はない。
……彼女のことを思い出していると、手が急に冷えて、カップルを見るのが辛くなってきた。
早足でさっさと商店街を抜けて……あっ。
「あっ」
別れた彼女が……前方から一人で歩いてきた。
目が合い、お互い立ち止まる。
しばらく重い沈黙が続き、俺から口を開く。
「……やぁ、久しぶり」
「うん、久しぶりだね」
俺が声をかけると、彼女は笑顔になる。
多分、俺も、笑顔になっていたと思う。