【お気に入り】
初めて言うけど
小学生のころ、自分が悪気なく発した無邪気な言葉であわよくばあの子が一人で勝手に傷ついてくれないかなーなんて底意地の悪い願望を持ってた
成長してからは、気づくか気づないかの微細な棘を散りばめておいて離れるという謎の意地悪をした
もうずっとその恥部をひきずりながら生きてる
口の端に透けて見える自尊心や言葉と裏腹な虚栄心が相手に見えてしまうと、とたんに拒否反応がでる
誰かが裏側を真剣に隠して、にやけた仮面をつけるのが滑稽に思える
そんなものは信頼できない
仮面を外させたい、裏側を暴こうとしてしまうのは、今でもそうかもしれない
汚れていても歪んでいても、そのままでいてほしい
【どうして】
幼いころ、かけっこがすごく速い子がいた
ずっと勝てなくて、そういうものだと思ってて
初めて勝ったとき、妙なさびしさがあったのをおぼえてる
そのあとからその子が私に向けてきた静かな怒りも
羨望の眼差しで前に押し出される疎外感
信頼という名前でひとり、先頭を行かされる不安
振り返ったらみんなが仲良くおしゃべりしている孤独感
「あなたは私たちとはちがうから」
「ちがうところ」に持ち上げられてしまうあのかんじ
誰かおしえて、
前に押し出す時ってどういう気持ちなの?
理解できないままかかえた不信感が今も時々ひょっこり顔を出す
押し出されるたびに、帰る場所を失う気がする
ここじゃない、私の帰る場所を探そうとする
前だけを見て、うしろは崖っぷちだ
ふりかえっちゃダメだ、
前だけを見て、そう、歩けるね
カモメが励ましてくれる
【ふきぬける風】
部屋の窓をひとつ開けても、風は入ってこない。
今ある空気を出さないと、新しい空気は入らない。
うむ。
窓を開けると何もしなくても入れ替わるもんだ。
案外、あっさりと。
ふきぬける風に当たろう。
換気をしよう。身体も心も風邪をひかないように。
【記憶のランタン】
銀杏の木を見るとあなたを思い出す、と友人が言った
木を見て思い出してもらえるなんて光栄だ
一度だけ行った、おそらくもう行くことのない公園で
2人で撮った写真の印象が強かったのだとか
どんな場面が誰の記憶に残るのか、
自分でコントロールできないのも不思議
できることよりも、できないことにヒントがある気がする
【心の迷路】
ああ、まただ、と思う。
しあわせだなぁなんて思ったから。
あの時、晩夏の夕暮れ、
くっきりとした山の稜線とオレンジの空を見上げて
わたしの周りで今、泣いている人がいなくて、
依存されることもなくて、
卑下されることも、嘲笑されることも妬まれることもなくて、
寂しさに打ちのめされているひとも、
いのちの危機にあるひともいない、
大切な人たちが、とりあえず、
自分の力で立ち、自分の感情をたいせつに、
夕方まできっと穏やかに過ごせているだろうことが、
しあわせだなぁなんて思ったから。
押し寄せる安堵に涙があふれた。
止められないほど泣いた。
まさかこんなことになるなんて。
しあわせだなんて思わなければ。
思っちゃだめだって気づけばよかったのに。