soumatou

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10/1/2025, 6:19:10 AM

旅は続く
 
世界遺産番組をチラ見しながら
オレなんか60カ国は旅してるな
まあそれでもまだまだ行きたい所だらけで
目標の道半ばだよ
聞こえよがしにアピールするのは旦那です

それだけ行ってりゃ後は似たり寄ったりでしょ
と心の声が…

しかし、彼が言う旅とはバックパッカー的な
手作りで好奇心を120%満たすもの
プラン、チケット手配等事前準備はもとより
予定調和の快適安全とは無縁な旅行
異文化コミュニケーションを楽しみながら現地を味わう、ハプニングや失敗こそがお金を積んでも得難い経験で旅の醍醐味なんだって
心配性の私には絶対無理!気がしれないわ

こんな話を他人にすると必ず何カ国語喋れるのって聞き返される
その都度、彼はうーん6カ国語くらいは喋れるかなとあっけらかんと言ってのけ
事情を知ってる私はこっちが赤面してしまう
だって確かに英語はそこそこだけど…
他は挨拶程度なんだから
相手が人ならハートで伝わると豪語して譲らない
彼にとっては言葉の壁なんてどうにでもなるものらしい
専ら1番のハードルは資金と心配性の私のOK なのだ

9/30/2025, 2:33:02 AM

モノクロ

わあー水墨画みたい
こんなの初めて
海からの湿った冷気が山肌を伝い
絶景にみとれる私を包む

ひんやりとした曇り空の下 
水平線はかき消され雲が降り雲が湧く
そこは一面の雲海と点在する島々だけの世界


ドローン映像さながらの光景が360度の残像となって私をのみこもうとする

低く垂れ込む灰色の空
ねっとり摺った墨色の黒々とした小島と薄墨の雲海が奏でるモノクロの幽玄美
これって雨上がりの日の特権ね

ここは多島美で知られる海の景勝地で
私の故郷
その海が消えた景色に出会えるなんて
コレは千載一遇!幼馴染に知らせなくっちゃ
と思った時には
既に雲間から切れ切れの海が顔を出していた


故郷を離れて久しい
たまに記憶から取り出してはあの軌跡の瞬間に浸っている
20年経っても全く色褪せないどころか年々深みを増して身近に感じるの
コレって齢をとったってことだよね

この先私にお呼びがかかっても、
あの時見た景色があの世で待っているなら
悪くないって思うのよ いや本当

モノクロに心鎮まる冬齢

9/29/2025, 4:14:40 AM

永遠なんて、ないけれど

最期まで潔く生き切った母
延命はしないでと一言
その言葉通り二言はなく
枯れるように命を終えた

あかんたれの私は他にも方法があったろうにと母の死をグズグズ引きずりかけていた

そんな夜、母の声が頭をよぎった
永遠なんてないんだから私はさっぱり幕引きしたかったんだよ
希望通りにしてくれてありがとう
私の性格を見越しての母の声は思いやりに満ちていた

竹を割ったような気質で人生の岐路を悔やむことなく前だけを見て進んできた人だった
その見事なまでにぶれない生き様は
男女の別を超えて
私の中に活き活きと刻まれている
自分は母の様にはなれないとわかっている
それ故にあなたは永遠の存在なの
人として

9/27/2025, 2:21:21 AM


コーヒーが冷めないうちに

そういえば我が家で豆の珈琲を飲むようになったのは息子がきっかけだった
バイト先の喫茶店で教わったと本物のコーヒーを入れてくれたのが始まり
こうやってね豆の周りから丁寧にゆっくり…

帰省の度にレクチャーしていくもんだから
お陰で我が家もインスタントから格段にアップしたコーヒー党の仲間入り

以来、「コーヒーが冷めないうちに飲んでよ
美味しいうちに 折角丁寧に入れたんだから」
ちびちび飲む派の夫にちょっぴり怒りを含んだ
お決まりのセリフを添えて来た私

二人きり隠居生活の今はドリップ党に鞍替え
鈍感になった味覚が幸いしてコレで充分
豆の賞味期限も気にせず、一人分ずつ飲みたいタイミングで封を切りお湯を注ぐから家内平和

相変わらず
私は熱いの大好き香りと一緒に飲み干していく
夫は少しずつ口の中に広げる様にしてゆっくり味わっている

もはや「冷めないうちに」と言うことはない
「お好きなように おいしくどうぞ」

9/25/2025, 2:40:32 PM

パラレルワールド

5歳くらいまでのこと
夜な夜なフラッと家を出て行っては
近所のお池を一周して何もなかったかのように
家のお布団でスヤスヤ眠りにつく
それが私の夜の不思議ルーティン

叱る父をよそに
母はそんな我が子を気味悪がることなく
引き止めもせず
月がキラユラ映るお池に落ちません様にって
ただただ後を追い歩いたんだって

パラレルワールド?
なんかわかるかも
子供の頃からデジャヴの海を漂ってきたから
初めてじゃないよ何これっていつも思っていた
いくつもの世界を行ったり来たりするような
揺らめく感じだったのよ
そのくせどこにも居場所がない気がして不安だった

あの水辺に呼ばれた者はパラレルワールドのパスポートを持っていたに違いない
水辺は別世界へスライドする出入り口?…
夜の記憶は消し去られても
唯一、娘の奇行を咎めるでもない母の笑顔が
確かな存在として瞳に焼き付いていた

お家へ迷うことなく帰るのよ
桜模様のお布団があなたを待っているからね
母は心で念じ続けていたかもしれない
徐々に
私はお池へは行くことが減り…

半信半疑で母から聞いてきたこの話
思い出そうにも身に覚えはなくて
幻夢のようにしか思えない

今の私?
もうデジャヴは薄れて現し身で生きているわ
母の笑顔を選んだのね
拠り所をここに見つけられたから

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