凍てつく鏡
ザクザクザクザク
霜柱を崩して行く
クリスタルの氷柱が顔を出した
何百本もの繊細な氷の芸術
氷柱の奥には雪の女王のための鏡の間があるらしい
覗き見気分で氷柱の塊を両掌にのせた
キラキラと輝いて溜息を誘うが
女王に会う前に涙を流し始め
儚さは美しさと表裏一体だと静かに語りかけてきた
雪あかりの夜
どんぷく(ちゃんちゃんこ)着て湯気の立つ甘酒を啜る東北の冬の楽しみ かまくら
点々と灯るともしびは癒しの色
冴え冴えとした月が雪あかりの中
小さき人の営みを見つめている
今年の灯は鎮魂のようだ
熊に犠牲者に捧げる来る年の祈り
生きとし生けるものに幸いをそう思うのは私だけではないはず…
人達が自然の感覚を失って来たことに対する辛辣なメッセージの様な気がする
生かされていることに真摯になるときが迫っているような
人間ファーストを声高に邁進するのはもう終わりにしませんか
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地雷展示館を訪れ思うこと多々あった年末に
祈りを捧げて
大仏様にすがる思いで祈りを捧げにきた
…んだけど
お堂入り口に立ちしずしずと前へ
見上げた瞬間
信じられない
全身金色コスメの彼が座していた
薄っすら笑みをたたえる口もと
目鼻ほうれい線顔の輪郭
どこからどう見ても大沢たかお様
日本人の誰が見ても彼でしょ
そのうち異国の仏様に妙な親しみが湧き
おかしみに全身が震え始めた
全身ガチガチに張り付いてた悩みが揺れた
ニヤリ顔のたかお様に見下ろされている私
すでにご利益の光に包まれている
今更祈りを捧げるまでもない
遠い日のぬくもり
思い浮かべるのは子供会のキャンプの人
歌ってゲームしてスイカ割りしてカレーを食べて…近所の若いお父さんが15人ぐらいの子供たちを集めて毎夏休みに企画してくれた
締めはキャンプファイアー高く上がる炎がみんなの顔を照らし出していた
半世紀経った今も色褪せない非日常の思い出
レクレーションリーダーの黒メガネの彼は細身で小柄な人
例えるならおかあさんと一緒の体操のお兄さん
子供達を魅了する笑顔動き喋り…
大人が子供目線で楽しむ姿が封建的な田舎育ちの私には新鮮でとっても魅力的だった
今思い返しても一夜のエンタメだった
そんな小学生時代が過ぎ、こども会から離れた
ある夏帰省の折にこのキャンプの話をした
彼はもうこの世にいないという
残念に思う一方、良い人は早逝するんだと軽く納得した
♪遠き山に日は落ちて〜追悼するつもりではなかったが自然に口をついて出てきた
この歌は思いっきり楽しい時間の後に来るキャンプファイアー最期の定番で 物悲しい響きが別れを惜しむ気持ちを増幅させるのだった
最近彼の死因を知って
♪いざや楽しきまどいせん〜が頭を離れない
皆んなで丸く集まってくつろごうという意味だ
ボランティアで子供らにぬくもりを与え続けていた彼が、信じられないことに若くして独り命を絶っていたとは
あなたは私の記憶の中、子供たちに囲まれ
くっつかれ笑顔で走り回っていて…
新世界で生きたいように生きてらっしゃることを願ってやみません 遠い日のSさんへ
揺れるキャンドル
届いた重い小箱には
お母さんお誕生日おめでとう3S楽しんでね
とあった
えっナニナニ謎解きの様でワクワクする
20センチはあろうか巨大グラス
木の葉形水槽の様に見える
ミモザ色の蝋海から幅10センチの板状の凹凸がちょこっと顔を出している
どうやら芯らしいが全くイメージが湧かない
これキャンドル?…だよね
というわけで夜を待ってこわごわ火を点した
まるで花火のナイアガラの様に炎が左右に延びキレイだ
独りきりの静かなリビングに何かが爆ぜる音が広まっていく
炎と音と甘い香りに包まれていると
キャンドルが輝く暖炉に見えてきて
手を翳してみた
指先にしみる立ちのぼる暖かさ
横広がりのフレイルは高く低く絶え間なく揺れパチパチと可愛らしくはじける音が透明な薪を燃やし続ける…
それにこの香り
娘の家の小さなキャンドルを思い出した
あーあ あの香りだ
「この香り好き」ってお母さん言ってたでしょ
彼女が耳元で囁いた気がした
種明かし 3Sって視覚聴覚嗅覚だよ
娘の笑顔がキャンドルグラスの中に見えた
木の葉はまんま
彼女の笑った目の形で…
2人の好物パインキャンディを口に含み
娘を持った幸せに浸る夜 五感を全開にして