ティーカップ
青空高く暖かな陽射し風もない
西の空には透き通った月
こんな穏やかな日は最近珍しい
今日は枯葉色の葡萄棚の下で お茶にしよう
震災後、仕舞い込んでいた箱を取り出してティーカップの薄紙を外す
ソーサー、スプーンもベンジャロン焼き
旅の思い出に皇室御用達窯元で購入した私のとっておき
楕円のティーカップは紅茶の色が映えるんだ
基本のデザインは細やかで一見揃いに見える
こだわりはただの色違いではないところ
縁のデザイン、ソーサー裏、仕上げ、僅かな違いのメッセージに心くすぐられる
夫には群青
私は紫
息子に緑の
娘に黄色のがいいね
若かった家族は揃って大人に成長し
苦難を乗り越えこれが似合う年齢になった
とっておきカップはそろそろ家族用にしてもいい頃ね
そして残った箱がもう一つ
ピンクのこの一客だけがタイ文字付き
あーあ記憶が巻き戻った
オーダーすると受け取りが数ヶ月後だと言われ
それで帰国に間に合わすために急遽店内から選んで持ち帰ったっけ…
当時、来客用は五客揃えが常識だった
それでもうー客、文字がデザインっぽいと遊び心で追加したような…
今なら謎解きは簡単にできると携帯をかざす
Google翻訳がマイコ 来る と読んだ
コパイロットは マキコ と教えた
あーそういうことか
どういうことかって?
知らない方がいい時もあるのよ
気にしない気にしない
さ、とっておきの紅茶を開けますよ
好きなカップを選んでね、お茶にしよう✨
寂しくて
寂しくなるのに好きな歌
NHKみんなの歌で子供の頃から秋に流れていた
誰かさんが…
お部屋は北向き 曇りのガラス
うつろな目の色 とかしたミルク
僅かなすきから 秋の風
昔の昔の風見の鶏の ぼやけたとさかに
はぜの葉ひとつ はぜの葉あかくて 入日色
私の孤独の心象風景となっている童謡
小さい秋みつけた サトウハチロー
しんみりした詩なのに疲れた時にはここ来る
逆に客観的な寂しさはじんわり沁みて癒しをくれるのかも
♪誰かさんが…
心を寄せて一人耳を傾けていると
はぜの実蝋の細い燈が見え始め
そしたら囁きが聞こえてくるの
ねえ息を吹きかけてちょうだいよ
そうそう少しずつねって…
炎がゆらゆらいつの間にかリラックスしてる
セラピー効果があるみたいよ
心の境界線
私のはね複雑なの
深くて高くて外堀だけでも
簡単に他人が入り込むことはできない
そこをクリアしても
内に待ち構える頑丈な要塞にほとんどの人は諦め去って行った
一生独身だと自分も親も思っていた
それが何とも易々とある人の手に落ちた
今もって理由はわからない
ただ彼は自分自身に正直な人だった
私の心の境界線なんてものには頓着しなかったのだ
真っ直ぐに僕は会いたい話をしたいと言った
あの頃どうしたいの?と真っ先に尋ねられるのが私の一番苦手なことで…
質問をするより前に必ず僕はこうしたいんだと言ってきた
うんそこはポイント高かったなあ
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出会いから半世紀、仕事と家庭を保ちながらも彼は変わらず自身の気持ちに正直に生き、時間を捻出しては好奇心の赴くまま世界を見聞していた 彼は常に忙しく留まってはいなかった
そんな人が最近ちょっとしたことで私に苛立つ加齢のせいもあるだろうが私にはわかる
一緒に過ごす時間が増え
今になってようやく1番身近な人の心の境界線に目を向け始めたからだ
さあどうする?
今までの経験値を総動員して私に辿り着きたい?
既に私の外堀は脆く要塞も柔になっている
それにあなたにだったら手を差し出してもいいと密かに思っているから
透明な羽根
透明な羽根が持つ不思議な力を知ってる?
それは強力な抗菌作用なんだ
その一つ、クマゼミの羽の仕組みにはね
極微細突起ナノスパイクに秘密がある
菌がそれに触れると細胞膜が壊れるらしい
結果、それは殺菌抗菌作用を生じる
そしてその構造を実用化した、薬剤を使わない
魔法の様な抗菌殺菌材が遠からず姿を現すみたいだよ
虫が人を救うなんてね
昆虫の構造は宝の山
これはもはやトリビアじゃないんだって
虫をただ怖がるだけじゃなくて知ることが大切だよって孫に会ったら伝えたい
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クマゼミは大型蝉で名前の由来は、その黒く
大きなボディが熊の様だから
一方、その立派な透明な羽根には黄緑色のオシャレな縁取りがあり涼やかさを醸し出している
子供の頃からこのセミにはクリーンな浄化のイメージを持っていたのよね
だから自分のカンがここに繋がっていたかもって、さっきの記事を読んでビックリしたわけよ
灯火を囲んで
薪ストーブと囲炉裏が迎えてくれる
ここは農家レストラン
立冬も過ぎた会津では
その温もりを帯びた灯りに
心誘われない人はいないでしょう
昔家の風情がいい演出となって心安らぐ空間
お目当ては勿論食事
苗から育てた蕎麦、米、野菜…
それらで作った蕎麦と天ぷらが名物だ
そしてもう一品、迷った挙句に追加した
店へ足を踏み入れた時から気になっていた
囲炉裏に刺さっている〜しんごろう~
一見五平餅の様できりたんぽにも似たそれは
ここのお爺さんの担当らしい
囲炉裏端に座って串を眺めている
そっと隣に寄っていって
「おじいちゃんこれなあに」
「もう焼けた?」なんて会話をしたくなる
客が灯火を囲んでハフハフしながらしんごろうにかぶりつく
そんな光景をつい思い描いてしまう楽しさに溢れている
「お待たせしましたお蕎麦と天ぷらです」
待ってました、どれどれ
おー期待以上の美味しさだ
満足と満腹に浸ってそば湯をすすっていたら
丸々としたしんごろうがお皿に乗って到着した
さっき食べたつもりになってたんだけど…
入店時からあのおじいちゃんがじっくり時間をかけて焼いてくれた一品が目の前にある
やっぱり焼きたてを味わおうと言う気になった
改めて「いただきます」
一口で美味しいが止まらない
甘じょっぱい味噌とサックリご飯がたまらない
かぷりカプリ口から湯気と笑顔が飛び出して
囲炉裏へ帰って行った