冬へ
世界は冬へ向かっている
冬が色濃い場所へ先回りして行こう
そう、イメージするのは一面銀世界の墓地
墓標にこんもり降り積むパウダースノー
フウッ息を吹きかける
キラキラ光り舞い上がる
サラサラサラサラ崩れ落ちる
雪の精の演出は軽やかで無情
世界を一様になだらかにし白く覆い尽くす
セバスティアンを眠らせ、セバスティアンの墓標に雪ふりつむ
太郎を眠らせ、太郎の墓標に雪ふりつむ
このまま冬へ突き進むのかい
いや、世界はしばし冬眠するといい
人が生命の大切さに目覚めるには時が必要だ
白い闇が守り通したこの世の気配に気づいたら
耳をすませて雪解けの音を聞こう
春の色濃い場へ向け一歩を踏み出す時だ
君を照らす月
最近、照明をあちらこちらにつけはじめた夫
防犯対策用にね敷地内ライト
エコ補助金があるんだってとリビングにLEDを
やたら理由を付けてくる
100均だよこれ おーとりあえず使えるな
太陽光発電足元ライトを玄関アプローチに
物入れを整理したから…
日暮れが早くなってきたからね倉庫にも燈を…
あとどこにあればいい?
「そうだ玄関ドアにも人感照明つけようか?
鍵穴見つけやすいだろう」
「ネエ、そのうちクリスマスイルミネーションみたいな家になっちゃうよ」笑いで茶化してみたけれど、本人はいたって本気だ
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「ありがとう、私のためにだよねこれ全部」
以前に増して明るさの感度が落ちた私
先月主治医から視野の狭さを数値で告げられた
知り尽くしている我が家でも暗がりに適応できなくなってきているのは薄々わかっていた
でもこんなに見えなくなっていたなんて…
彼も付き添ってくれていたんだあの日は
この沢山の満月の様な光
私の動線に配置してくれたんでしょ
私が暮らしやすい様に怪我のない様にって
私を見守るために
あの時、
君を照らす月でいようとか…あなたは思った?
なら 全く不器用で らしいよ
木漏れ日の跡
何じっと見てるの?
おばあちゃん、ほっぺによごれがついてるよ
ここにも
あぁシミのこと?
お日様と沢山遊んだからよ
おばあちゃんは木の下で本を読んだりお茶を飲んだりお昼寝したりするでしょ
木漏れ日って知ってる?葉っぱの間から入って来たお日様の光のことなんだ
ほら見て ちょうどほっぺが光ってる
本当だ
まきちゃんのお顔も
こことここにお日様がとまってるよ
だからあったかいでしょ
お日様がずーっとくっついているとそこが茶色くなってくるの
おひさまの足跡みたいなものなんだ
えーっ
わたしお顔あらってくる
おばあちゃんも早く早く
日焼け止めぬらなくっちゃ!ねっおばあちゃん
そっそうだね…
ささやかな約束
そもそも約束は苦手
自分から口に出すことはない
理由はそれにとらわれるからだ
「ねっ約束よ」
ちょっとのことにもこの言葉を言い放つ人
口癖なら勘弁してよと思うくらい
今日こそは言うよ
「1日一体いくつ約束をしてるんだってぇ」
言われた相手のこと考えてよ全く
「私、生真面目なんだから
あんたとの約束のことばかり気にしていなきゃならないんだからね」
ここまで言ってハッとした
あーっ
たぶん…
祈りの果て
うちのまちは夕日の景勝地らしいよ
この町出身のお天気お姉さんの推しだから
確かにね
私は日没後の光が好き
ほらこの茜色の残照は神秘的でしょ
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特に沼を見下ろす高台は
富士山と夕空と水辺が織りなす絶好のポイント
ラッキーなことに我が家の近く
住み始めて30年、リタイアした今は
この丘へ出向いては夕日で身を清めるのが日課になってきた
黄昏が似合うお年頃になったのかしら by妻
長年の穢れを流し身軽になりたいだけなのだ by 夫
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今年もダイヤモンド富士の時期だなー
夫が浮き足立ってきた一年に数回の特別な日
こればっかりは運と忍耐が必要でどれだけ足を運んでもそうそう見られるものではない
今日は間違いないさ自信たっぷりに夫が誘う
丘の上で 今日こそは と祈っていると
いつの間にか人垣ができていた
ここ数日で1番の人出だ
妙な連帯感が湧いてきていける気になってくる
昨日は直前の雲に惜しくもジエンドだったけど
そろそろ運命の一瞬だ 寒風に身を晒し真剣な眼差しで夕日に集中する人人人
歓声の後に静寂が訪れた丘では動きが止まった
卑弥呼を崇める古代人の様にただ魅入っている
ダイヤモンド富士だ
それもパーフェクトな姿
皆の祈りに応えてくれた