心の旅路
人生山あり谷あり
歩けば山が待っているか、谷が待っているか
そのときになってみないとわからない
人生は旅なのだ
平坦の旅は旅ではないのだ
私は今、谷にいる
一番深かったときに比べれば
若干浅いが
太陽の光が届かないのは変わらない
さて、明日は谷の底で何を書こうか
愛を書こうか、悲しみを書こうか
いずれにしろ
書きたいものを書ければそれでいい
旅の記録なんてそんなもんよ
凍てつく鏡
彼女の持っている鏡が珍しく曇っていた
よく見たら氷の層が一枚張っている
「割らないのか?」
「そういう日もある」
そういう日が重なって一枚の層を完成させたと
僕は直感した
割らなければ、鏡が重くなる
「何があった」
「え、急すぎない?」
「いいから」
話を聞く限り、急な雨と気温低下で拭く時間がなかったとのことだ
つまり、周りの環境が彼女の鏡を凍らせたということだ
「飲め、ホットミルクだ」
「……ありがと」
キョトンとした彼女の顔が溶けていくのを確認した
僕も少しだけ、甘いホットミルクを飲んだ
雪明かりの夜
冬の夜は上からも下からも明かりがある
明かりに挟まれた私たちは
まるで雪物語の一員になったようだ
息も白い 雪も白い 明かりも白い
どれだけ白ければ気が済むのだろう
白いと何かをしたくてしょうがなくなる
汚す、書く、描く、塗る……
自分の存在を示したくなる
私の目の前で雪が降るのはいい
ただ積もらないでほしい
その白に負けてしまいそうになるから
誰かの隣で、私の存在を確認しないと
私は雪と一緒に溶けてしまいそうで怖い
私は、繋いでいた手をぎゅっと強く握った
祈りを捧げて
神頼みは好きじゃない
私の努力を代替する係のように思ってしまうから
神に祈るのは好きじゃない
神も太陽も聞く耳を持たないから
祈りを捧げるのは言葉にだけだ
ここで何かを書いている人間は きっと
言葉という存在の強さを信じている
言葉という存在の脆さも信じている
だから書くことは祈りなのだ
誰かに送る文章は
「私を理解してほしい」という祈りだ
人は自分を理解してほしいから
言葉を作った
私は先祖たちの作った言葉で
現代的な詩を紡ぐ
ぬくもりの記憶
あなたの手があたたかいなら
私は体に自己発電はいらないと言った日
人間の体が自分で暖かくできなくてもいいと言った日
あなたの手はいつもより暖かく
どこか強く 離したくないという願いが
手を握る力から溢れていた気がする
私があなたから離れると思っていたのだろうか
それとも
私があなたを置いていくと思っていたのだろうか
そんなことはないとはっきりと言おう
あなたが私の隣にいない人生は
とても退屈で 生きているか死んでいるかも分からなかった
だから あの日のぬくもりは
死ぬ瞬間まで忘れるわけにはいかない と