さぶろー

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4/4/2024, 1:35:03 PM

「それでいいじゃなくって、それがいいって言って」

幼なじみのあの子は、そうやっていつも私の言葉を指摘した。私が面倒くさがると、口を尖らせて怒った素振りをみせた。そんなところも可愛くて、私が思わず笑うとあの子も忽ち笑顔になった。あの子の周りには常に人がいた。羨ましいと何度も思った。

中学1年生の頃に2人で入った陸上部。
短距離のあの子と長距離の私は、種目こそ違えど幼なじみというのもあって仲良くしていた。

同じ人を好きになったのは、2年生の春ごろだった。

帰り道の公園でお互いの好きな人の話になった時、
あの子は顔を真っ赤にして好きな人の話をしてくれた。長距離の先輩だった。
「先輩でいいの?」
「違うよ、先輩がいいの」
熱った肌を誤魔化すように はにかむ姿に何も言えずに、私は咄嗟に嘘をついた。
「私はまだわかんないや」
「ずるい!先に言わせといて〜!」
「あはは」

応援するねと交差点で分かれた後、私は重い気持ちを引きずったまま歩いた。先輩のことも好きだけど、それ以上にあの子のことも大切だった。

あの子の笑顔が曇らないならこれで良かったんだ。
…これが良かったんだ、と自分に言い聞かせた。

4/4/2024, 6:07:40 AM

「1つだけ〜わがままを許してもらえるなら〜君の〜隣にいさせてください〜」
思いっきり握りしめたマイクに曲と共に想いを乗せてその子の方を見た。曲名は【1つだけの】
1週間前、『好きな子とカラオケに行くならこの曲を歌ってみな。落ちるぞ』と先輩に教えてもらった。

向かいのソファに座るその子は、表情を変えずに画面を見続けていて、こちらの想いは届いていない様子。
先輩の嘘つき。そもそもあの人歌が上手いからモテてるだけなんじゃ、と頭の中で詰り、演奏中止ボタンを押した。
「もういいの?」
「いやぁ、思ったより歌いづらかったから」
本当は3時間練習したけど。
「ふーん、そっか…」
なんとなく気まずい空気が流れた気がして、なにか話題を探さないと、と頭をフル回転させているとその子が口を開いた。
「この曲を歌えば私を落とせると思った?」
「えっ」
「おおかた、私とカラオケ行くって決まった時に先輩にでも聞いたんでしょ」
「なんでそれを…!」
「歌うんなら最後まで歌えばいいのに。そうやって怖気付いてやめちゃうとことか、すぐ人を頼るとことかどうかと思う」
なぜ今説教されているんだ。というか、なんで気持ちがバレているんだ…。
フル回転させた脳は使い物にならず、1人パニックになっていると、その子がゆっくり近づいてきた。

「でもまぁ、そういうとこも好きだけどね」

4/3/2024, 2:07:41 AM

大切なものとはなにか、
大人はきっと、お金、地位、名誉、と言い
子どもはきっと、友達、ゲーム、漫画を選ぶのかもしれない。
人それぞれ大切なものがあると思う。
だけど私は知っている、大切なものとはそんな大それたものではなくて、日常にある些細なことだということを。そう、大切なものとは、

牛丼につける紅しょうがのことであると。

私たちの日常に常にあって無料なのに、牛丼をさらにワンランク上の美味しさに導いてくれる。
紅しょうがは、牛丼にとっても私にとっても大切なものである。

4/1/2024, 5:05:09 PM

エイプリルフールについた嘘は、その1年間叶わなくなるそうだ。例えば、恋人がいないのに恋人ができた、という嘘をつくと、1年間恋人ができなくなるとか。
これを逆手にとって私は嘘をついた。

「私、牛丼大盛りを食べたことがない!」

ふふふ、これで今年1年、牛丼大盛りをいつでも食べられるというものよ。我ながらなんという巧妙な嘘。
隣の部屋にいる姉に伝えると、姉はスマホから目を離すことなく、
「近所の牛丼屋潰れるらしいよ」
と抑揚のない声で言い放った。
「はっはぁ〜ん、姉ちゃんもエイプリルフールに乗っかってるんだね。これで近所の牛丼屋も1年間潰れないね!」
「いや、エイプリルフール関係なく牛丼屋潰れるってよ」
見せられた姉のスマホ画面には、【閉店のお知らせ】と書かれたポスターの写真があった。

「嘘だ…」

3/31/2024, 12:47:27 PM

幸せになりた〜いふりかけ という物が発売された。
なんでも、そのふりかけをご飯にかけて食べるとちょっとした幸せを呼んでくれるらしい。
ネーミングのインパクトから、発売当初は話題を呼んだが、一時的なモノでいつの間にか割引商品にまで成り下がってしまった。

そんな 幸せになりた〜いふりかけを手に俺は食卓についた。
白米にかけてみると、パッケージに描かれた通りの海苔と卵と胡麻が入った至ってシンプルなふりかけが姿を現した。味は、うん、これも至ってシンプル。普通に美味しい。
特にそれ以上の感想もなく黙々と食べ進めていく。
(それにしても、今日の夕飯がふりかけご飯と
えのきの味噌汁か…。)
給料日前とはいえ、簡素な献立に思わずため息が漏れてしまう。
ふと、パッケージの文字を声に出して読みあげる。

「幸せになりた〜い…」

誰もいない一人暮らしの部屋に響いた声は、どこか寂しさをはらんでいたように思えた。
そんな気持ちを誤魔化すようにご飯をかき込んでいたら、スマホが震え、待ち受け画面に実家の母からメッセージが届いた。
『明日カレー作る予定だけど、あんた帰ってくる?』
あまりのタイミングの良さに出た溜め息は、すぐに苦笑いに変わった。

幸せになりた〜いふりかけは、確かにちょっとした幸せを呼んでくれるらしい。

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