白井墓守

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10/15/2025, 10:18:28 PM

『愛-恋=?』

「愛から恋を引くと、いったい何になると思う?」
「あ、だろ」
「……いや、単純にアイからコイで重なってる文字のイを消滅させろっていう、文字パズルを聞いているんじゃなくてだね……?」

ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃと。
巣作り中のキツツキの如き喧しさを持って、目の前の男は言葉を不法投棄し続けている。

「わかった、つまりアレだな? お前は……愛は相手のためのモノで、恋は自分のためのモノって言いたいんだな?」
「あぁ、そういう事になる。やっと君にも伝わったか」

俺はか細い息を長く吐くことで、込み上げて来る怒りを穏便に沈めた。
幼馴染でなければ、三発は腹に入れていた。
……いや、幼馴染でなければコイツの話を聞く必要なんてなかったのだが。
か、考えないようにしよう。

「そんな愛から恋を引けば、いったいそれは何になると……君は思う?」

「――奴隷じゃね?」
「……奴隷??」

幼馴染は眉を顰めて、訝しげな顔をこちらに向けた。

「恋が愛になって、でも恋が冷めたんだろ? なら、あとは惰性で相手のために無償で奉仕する奴隷なんじゃねえの?」
「ほう……一理ある」

そう言って幼馴染が頷くが、指をトントンと机に叩く。
これは、何か言いたいことがある、という事だ。

「で、お前は何だと思ったわけ?」

俺がそう聞くと、幼馴染はすっと指を指した。
俺の前にあるプリントで、期限の遅れた課題だ。
小難しい内容のソレに、俺は頭脳明晰な幼馴染の力を借りていた。

「愛ではあるが、恋ではない……それは、友情というものではないか、とそう思ったんだ」
「………」

俺はヤツの言いたいことが分かり、気まずげに視線を反らし口を噤んだ。

「まさか、今……僕の行為が奴隷だと発覚するとは。目から鱗だったよ」

凍った空気の中、ピーヒョロローと間抜けな小鳥の声だけが辺りに響いた。



おわり

10/14/2025, 10:27:06 PM

『梨』

瑞々しい梨。
一口齧ると、中からじゅわりと甘い果汁が溢れ出る。
シャリシャリという独特な食感。

「でも、俺は梨が怖いんだよね」
「なんで??」

「美味しいからさぁ……」
「良いことじゃん」

「食べ好きちゃって、俺のお財布破産寸前」
「そりゃこわい」

いくらでも食べられる癖のない味。
しかし、食べ過ぎにより散財には、ご注意を。


おわり

10/13/2025, 9:20:09 PM

『ᏞaᏞaᏞa GoodBye』

ラ・ラ・ラ、ラ・ラ・ラ、と小鳥達が歌った。

さよなら、さよなら、あの子は死んだ。

みんなが笑うお葬式。

楽しげに小鳥達は歌う。


ラ・ラ・ラ、ラ・ラ・ラ、と小鳥達が歌った。

さよなら、さよなら、あの子は死んだ。

みんなが泣くお葬式。

悲しげに小鳥達は歌う。


勝って嬉しい花いちもんめ。
負けて嬉しい花いちもんめ。

縄張り争いに告ぐ勝者に向けて。
英雄を称えて、小鳥達は歌う。
おめでとう、おめでとうと。
ありがとう、さようなら、と。

縄張り争いに負けた敗者に向けて。
労いを込めて、小鳥達は歌う。
ありがとう、ありがとうと。
もう辛いことはないよ、よくお眠りよと。


「ああ? 今日も小鳥達がうるせぇなぁ!!」

言葉の通じぬ人間には小鳥達の鎮魂歌も……ただの鳴き声だ。
だが、構わない。

だってこれは、小鳥達のお葬式なのだから。


ᏞaᏞaᏞa GoodBye。
小鳥達が歌う。

人間には分からない、さようならの――お葬式を。


おわり

10/12/2025, 9:16:37 PM

『どこまでも』

どこまでも、どこまでも空は青かった。

あの青が憎かった。
大嫌いだった。

だから、血のように、真っ赤に染めてやろうと、そう思っていたのに。

彼は、未だ、青かった。


「どうして、こんな事をしたんですか、先輩」

自分を慕ってくれる後輩が、青い志のまま、自分にそう問いかけた。
むず痒くなり、鼻で笑い飛ばす。

「分かってんだろ? 俺にとって大事なのは――正義より、金だったって事さ」
「そんな! そんな、先輩……!!」

彼の声がだんだんと涙声になっていく。
まったく、本当にとんだ甘ちゃんだ。

「撃たねぇの?」
「……撃てるわけ無いじゃないですか」

だんだんとこちらに向けられた銃が下がっていく。
それに声をかければ、元気なさ気な声でそう返された。

はぁ……。

「お前は、本当に……」
「?」
「いや、もういい。もういいや」
「せ、先輩?」

お前をこちら側に引きずり込みたかった。
あの青を、どうにか、別の色にしたかった。

「なぁ、お前もこっち側に来ないか?」
「……出来ません、先輩」
「だよな」

だから、もう、いいのだ。


「じゃあな」
「先輩っ!?」

俺は飛んだ。
追い詰められたビルの屋上から、身を投げた。

まるで紙飛行機を飛ばすように、雑に体を空中へと投げた。
銃を捨ててこちらに手を向けて助けようとする後輩の姿、もう遅い。


俺は青から逃げ切り、真っ赤に染まった。

俺は昔から青が大嫌いだった。
あーあ。お前を青以外に染めてやりたかった。

そんな俺が、真っ青な空の下で死ぬことになるなんてな。

だが、今だけはいい気分だった。
青いアイツが、本当に辛そうな顔をしていたから。

「お前は、こんなんに、なるなよ」

くく、と笑いを飛ばす。
そして俺は、やってる眠気に従って目を閉じた。


どこまでも、俺は悪人でしか、居られなかった訳だ。


おわり

10/11/2025, 8:56:35 PM

『未知の交差点』

未知の交差点、というものがある。
今まで知らなかった世界の者同士が邂逅するときに、それは起こる。
ただし、それは異世界なんてファンタジーなものではなく――現実的に存在する同じ世界に住む者同士の邂逅なのだ。


とある日本のどこか。
「はじめまして」
「はじめまして」

「ヌートリア愛好家の者です」
「ダイオウグソクムシ愛好家の者です」

「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

「……(ダイオウグソクムシって何だ?? 虫?)」
「……(ヌートリアって何? バターとかに塗るのかしら??)」

これは、とある齧歯類を愛する男と、とある深海の生き物を愛する女がお見合いで出会って、未知の交差点を交わしつつも、愛情を深めていく物語である。

……別に、続かない。

おわり

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