『旅路の果てに』
旅路の果てに、それはあった。
目が潰れそうなほど光り輝く金銀財宝の山が。
○○○
僕は海賊だ。
亡き父が遺したとされる、金銀財宝の在り処を探している。
「よぉ! 子ども船長! ご機嫌いかがぁ??」
「もうっ! 副船長! 揶揄うのは止めて下さい! 僕はたしかにチビですけど、もう子どもじゃないんですよ!!」
僕がぷくっと頬を膨らませて、彼を睨みつける。
彼は蓬莱のさんばらな褪せた長い金髪をかきあげながら、ヘラヘラとした笑みで僕の頭を撫でてくれた。
僕が子供の頃から、彼はこうやって僕の頭を撫でてくれた。
……父の代わりに。
「わりぃ、わりぃ。あまりに船長がチビでよぉ……飴ちゃんいるかぁ?」
「こらぁ!!」
「あはは!! 元気でいいねぇ! 子どもは元気が一番!!」
父とこんなやり取りをした事は一度もない。
父にとって、僕は息子では無かったからだ。
「そういや、母ちゃんの様子はどぅ? 生きてるかぁ?」
「……はい。ギリギリですが、お医者様が良いお薬を紹介してくださって」
「貴族令嬢も没落したら貧民ってこたぁな。金は?」
「もう無いです。だから、次の航海で……僕は亡き父の遺産を手に入れなければなりません」
「そっか……じゃあ頑張んなきゃなぁ!」
「……はい!!」
父が陸に上がったとき、貴族令嬢だった母に手を出して生まれた子、それが僕だ。
僕は父のたくさん居るであろう子どもの一人に過ぎず、父と離れて貴族令嬢の母の元で育った。
ある日、政略により母の実家が没落し、僕らは生活が困難になった。母は幼い僕のために必死に働いて体を壊してしまった。
……父からの支援は一切無かった。
「父親って、なんなんでしょうね……」
思わず、ボソリと呟いた。
副船長は無言で僕の頭を撫でてくれた。
その大きな手のひらの温もりに、じわりと涙が溢れてきて鼻を啜った。
○○○
数カ月後、とある洞窟にて。
僕らは様々なトラブルを乗り越え、亡き父の財産が隠されたとされる洞窟にやってきた。
先が見えない暗い洞穴、ちゃぷりと小波が船に当たり音を立てる。
「行くか、船長」
「はい、行きましょう。副船長」
長い長い旅路の果てに、それはあった。
目が潰れそうなほど光り輝く金銀財宝の山が。
僕は、それを見つけたときの心境を、言葉には出来なかった。
それほど、色々な気持ちが僕の中でぐるぐるとしていたから。
ただ、突っ立って涙を一筋流した。
「ほら、船長……はやく帰らなくっちゃ、だろ?」
「!……すん、そうですね! 母さんが待っていますから!」
二人で手分けして麻袋にお宝を詰め込む。
お互いに言葉は交わさず、無言の時が過ぎた。
「あれ、これって……?」
そのときだった。
僕は知ることになる。海賊の宝に手を出すというのはどういうことなのか。海賊の財産への執着の恐ろしさというものを。
「バカ! 坊主!!」
「え……ふく、せんちょ、う??」
彼が僕の体を強引に無理やり押しのけ、僕は体勢を崩した。
振り返った僕が見たのは、槍に串刺しにされた……副船長の姿だった。
罠だった。それも、致死性の。
「あーあー。かはっ……こりゃ、ダメだな。うん」
「え、え? まって、なに、え……え?」
「坊主……悪いことは言わねぇ。コレ持って立ち去れ。な?」
「それって、どういう……副船長は? ねぇ」
「坊主……俺は後から、いくよ」
彼は僕に向けて笑う。
まるで父親のような優しい笑みだった。
○○○
それからの事はよく覚えていない。
僕は必死に掴んだ麻袋を持って、一人で船に戻って洞窟を出た。
そして街で財宝を換金し、お金を手に入れ、母の薬代にした。
母は助かった。それは嬉しい。
だけど、僕は素直には喜べなかった。
あのあと作った、粗末な墓の前で僕は花束を置いた。
「…………副船長」
「呼んだか? 子ども船長」
「……え」
おわり
『あなたに届けたい』
あなたに届けたい言葉がある。
○○○
「人間っていうのは、どうしても分かり合えない生き物よ」
「おいおい、いきなりどうしたよ。お嬢ちゃん」
小さな小さな小学生ほどの可愛いレディでぷっくりと頬を膨らませている。
四十を超えたおっさんは、それを若いなぁと思いながら怪我をしたデコに絆創膏を貼ってやった。保険医である務めだ。
理科の先生と間違えられるグシャグシャの白衣を引っ掛けながら、おっさんは甘いココアを淹れてやるために台所に立った。
「ねぇ、知ってる先生? 人間っていうのは、その人を理解したと思ってもそれは90%が幻想で。どんなに親しい仲でも、半分ほどしか結局は理解しきれないものらしいわ!」
「おうおう。お嬢ちゃんは博識で、おっさんは頭が下がるねぇ。ほら、ココア……熱いから冷まして飲めよ」
「どうもありがとう! いただくわ!!」
ふーふーと素直にアドバイスを聞きながらココアを冷まし、んくんくと美味しそうに飲むお嬢ちゃんの姿に頬が緩む。
「喧嘩、したんだろ」
「わたしは悪くないもの……本当よ」
「そうか、そうか……そうだなぁ、お嬢ちゃんはいつも素直で優しくて賢いもんなぁ」
「そうよ! わたしは立派なレディを目指しているんだから!」
お口にヒゲを作ったまま、ふふんと自慢げな顔をする。その姿はまるで宝物を自慢する子りすのようで、愛らしい。
「友達……嫌いなのか?」
「……いいえ。嫌いじゃないわ、でも……許せなかったの」
「許せなかった?」
「あの子なら分かってくれると思ってたのに、なんで、どうしてって……ねぇ先生。仲がいいと思っていたのは、わたしだけだったのかしら。わたし、わたしは……」
そういうなり、お嬢ちゃんは手の中をココアが入ったマグをジッと見つめながら黙り込んでしまった。
マグカップを握る小さなお手手が、強く握られ指先が白いなっている。
酸いも甘いも噛み分けて枯れ気味のおっさんからしたら、甘酸っぱい青春過ぎて少し食傷ぎみで目に眩しい。
おっさんは碌でもない大人だ。
朝に酒は飲むし、いつも白衣はグシャグシャだし、よく就業中に昼寝とかする。あと野良猫や小鳥に勝手にエサもやる。
だけど、しょんぼりした小さなレディを笑顔にさせたいと思うぐらいには、ちゃんと大人だったようだ。
「お嬢ちゃん」
「なぁに、先生」
「君に、届けたい言葉がある」
「届けたい、言葉?」
「ーー思ってるだけじゃ、伝わらないよ。言葉にしなくっちゃ」
「…………」
お嬢ちゃんは、おっさんの言葉に目をぱちくりとさせていたかと思うと、手の中にあるココアの水面に映る自分の顔と数秒見合わせて、なにか覚悟を決めたように頷いた。
「ありがとう、先生。わたし、もうちょっとだけ、あの子と話してみるわ! きっと、それが立派なレディだと思うから!」
「おうよ。お嬢ちゃんなら、大丈夫だ」
「ええ! ……でも、もしダメだったときは、またここに来ても良いかしら……?」
「もちろん。そのときは、とびきり美味いクッキーも出してやるよ」
「あら、ありがとう! それでは。ごきげんよう!」
「ごきげんよー」
とたたたた、と軽やかな足取りで去っていく姿。
「思ってるだけじゃ伝わらないよ、か。まったく、どの口が言えたもんかねぇ……」
ーー君は、本当はおっさんの娘なんだよ。なんて。
あなたに届けたい言葉がある。
でも、それを敢えて俺は仕舞い込むことにしよう。
……今は、まだ。
おわり
『I LOVE…』
I LOVE CHOCOLATE!!!
…チョコレートとは、まさに神から与えられた食べ物である。
○○○
昔、チョコレートは薬として用いられていた。
そして今日、チョコレートは人々の手に届く形で嗜好品として親しまれていた。
神様の食べ物 (Theobroma cacao)
チョコレートの原料となるカカオの事である。
チョコレートの中には、一等輝くチョコレートが存在する。
それが、神のチョコレート。略して神チョコ。
そのチョコレートを手にした人間は、神様と取引が出来る。
つまり、神チョコ一つで、願い事を叶えて貰えるのだ。
ただし、人生で神チョコを手に取引出来るのは、一度まで。
神様に願いを叶えて貰えるのは一度。
神チョコを手に、叶えられる願いは一つだけなのだ。
人間よ、神チョコを探せ。
……己の願いを叶えるために。
人間よ、神チョコを手に何を願う。
……取り消しはできない。よく、考えよ。
そして今、七人による神チョコ探しが始ま……らない!!
続かない!!
おわり!!!
○○○
なんか今日、調子悪いかもしれん。
『街へ』
マンドゴラの街へ、ようこそ!!
○○○
あたたかいお日様が目に染みる。
陽気な心地で、誰も彼もが日向ぼっこに勤しむ街。
そう、ここはマンドゴラの街。
通称・マンドゴラタウン。
此処には多くのマンドゴラ達が生息して暮らしており……、
そして、俺はそこに住む唯一の人間だ。
「マッマッマッ!!」
「はいはい、飯な」
「マママー!」
「どうだ、美味いか?」
「マアマアァ〜」
「……クソが」
マンドゴラのご飯は、太陽の光、そして砂糖を少し溶かした水だ。
この砂糖には、ランクがあるらしい。
俺はよく、そこら辺の雑貨で買える氷砂糖を使っているが、まあまあ扱いされる。
……ちょっと、くやしい。
俺は此処に来たときの事を思い出す。
三年前、トラックに轢かれかけたと思った俺は、気がついたらマンドゴラタウンの街道に倒れていた。
そこから色々あって、俺は結局マンドゴラタウンのマンドゴラ水やり係に就任したって訳だ。
正直、戻るつもりはない。まあ、戻る方法も知らないが。
元の世界で俺が務める会社は、ブラック企業だった。
それに比べたら、味噌も醤油もないこの世界で、植物に囲まれながら死にたい。
俺はそう決意することが出来た。
「あっ、こら! お前またそんなに盗み食いして! 太るぞ!!」
「マママ!!?」
マンドゴラの中には、水に溶かす氷砂糖を、溶かさずにそのままバリバリと食べる個体が存在する。
そういう個体は、太る。大きいというより、横にデカくなって体の動きが鈍くなる感じで……太る。
だから、しばしば注意しているのだが、氷砂糖を盗み食いする個体は絶えない。
「あ……お前、そうか。うん、まあ、頑張ったな?」
「…………マ」
マンドゴラの中には鈍いヤツも居る。
みんなが日向ぼっこしてる場所に行こうとして迷子になり、もうここでいいや!とばかりに日陰で手だけ日向に出して倒れ付すモノもいる。
「仕方ねぇな……ほら、よいしょっと」
「マママー」
連れて行ってやると、感謝のおじぎとお礼の言葉を言ってくれる。正直、嬉しい。
仕事して感謝されるって良いなって思う、まじで。
そして、俺の生活はだいたい、こんな感じ。
○○○
ここは、マンドゴラの街、マンドゴラタウン。
もしも仕事に疲れたら一度はおいで、マンドゴラの街へ。
「ママママ!!」
「え、なに!? 訪れた旅人が気絶した!?」
……ただし、耳栓を必須でお願いします。
ここはマンドゴラの街、マンドゴラタウン。
人間は普通にマンドゴラの声で気絶します。
俺の転生? 転移チートがマンドゴラの声無効で、本当に良かったぁ〜。
おわり
『優しさ』
優しさとは、いったいどんな味だろう。
甘いのか、辛いのか、渋いのか、酸っぱいのか、それとも涙のように塩辛いのか。
○○○
「なぁ、優しさって、どんな味だと思う?」
「は? なんですか、急に」
「いいじゃん、いいじゃん。気になったんだよ」
放課後、夕日が沈む学校の教室で。
俺がそう言って両手を合わせてお願いのポーズを取り頼み込むと、アイツは訝しげに潜めた眉を緩めて呆れたようなため息を一つ落とした。
「優しさに味なんて無いですよ、無味無臭です」
「えー! そうかなぁ。絶対に味あるって!」
「……たとえば?」
「うーん、そうだなぁ……」
アイツに問われて、俺は考える。
この気持ちを、どう言ったらアイツに伝わるのだろうか。
アイツはテストで全教科満点とかいう馬鹿みたいな数字(逆に、ギャグではない)を叩きだして、男子スポーツ競技で一位(科目は忘れた。俺の専門はゲームです)を取るような文武両道で、それなのに性格が最悪で友達が一人も居ないっていう、文科省が見たら頭を抱えるような頭でっかちなヤツだ。
どうやら、成績の良さと性格の良さは比例しないらしい。
だけど、良いとこもある。人間のエゴだっていいながら、木から落ちた鳥のヒナの世話をしてたり、点数稼ぎって言いながら老人の荷物を持ってあげたり、あと幼馴染の俺が赤点取らないように勉強みてくれたりしてる。アイツは、俺の親に頼まれているから、これはご近所付き合いという処世術ですって言ってたけど。
「あのさぁ……」
「なんですか? 馬鹿」
「バカでぇーす。優しいってさ、なんかさ」
「はい」
「形がさ、ないよな」
「……すごい溜めた挙句それか、という気持ちはありますが、あなたは馬鹿なので飲み込んで答えましょう。はい」
「言ってんじゃん。牛みたく反芻してんじゃん。一度飲み込んで出しちゃってんじゃん」
「で?」
「あ、はい。んー、あのさぁ。今、俺の勉強見てるときとかってさぁ、どんな気持ち?」
「そりゃあ面倒だなって思ってますよ、当然」
「じゃあ、俺が勉強の合間に疲れたからゲームしようぜって誘ってる間も、面倒だなって思いながら付き合ってくれてたの?」
「そりゃあ……」
アイツの言葉が止まった。
こちらをみる、目が合う。
先に目を反らしたのは、アイツだった。
ふいっと顔を背けて、机に珍しく頬杖をつき、そっぽを向いた彼。その姿は夕日に照らされており、どんな色を持っていたのか、また顔も背けられて分からなかった。
唐突に、声だけがポツリと二人だけの教室に響く。
「まあ、少しは楽しかった……ですよ。少しは、少しはですから」
「……そっか」
その焦ったように早口になりつつ、語彙が強めに強調されて吐き出される言葉に、どことなく俺の中で納得したものがあった。
「何がそっかなんです?」
イライラを隠せないのか、苦虫を噛み潰したような顔で目を吊り上げてこちらに聞き返す彼に、思わず頬が緩んだ。
「きっと優しさって、麻婆豆腐みたいな味がするんだよ」
「は?」
口に三本指が突っ込めそうなほど開けられた彼の顔を、少し間抜けだなぁ、なんて微笑ましく思いながら、俺は再度口を開く。
「辛くて、酸っぱくて、甘くて、ちょっとだけ野菜の苦味もあって、刺激的で、でも美味しい……」
「……」
「最初に食べたときは辛さにビックリして、逃げたくなるけど、食べ続けていくうちに違って面が見えて、それが美味しく感じてくる……きっと優しさもそうなんだって、俺は思った」
「そうか」
「うん、そうだ!!」
俺が満面の笑顔で、スッキリとした気持ちのままピースを掲げると、アイツは鼻で笑ったあと、夕日が眩しかったのか目を細めながら、小声で何かを呟いた。
「何か言った?」
「別に。てか、良いんですか? もうすぐ日が沈みますけど、今日の晩ごはんは君の好きなハンバーグでは?」
「そうだった! はやく帰らなくっちゃ!!」
「……僕もあなたみたいになりたかったな」
「え、何か言った?」
「いや、別に何も言ってませんけど」
「? そっか。ほら!!」
「??」
「一緒にかえろうぜ!!」
「…………ええ、そうですね」
夕日が沈む学校の教室を、二人で後にする。
最期、出ていくときに、アイツの顔が朗らかだった気がする。
アイツの晩ごはんも、アイツの好きなメニューだったのだろうか。
あれ、そういえば……アイツってどこに住んで、いや、名前って何だっけ??
「なぁ……「あら、今から帰るの? 一人? 気をつけてね〜」……あ、先生! 一人じゃないよ! ほら!! ……あれ?」
担任の女教師に話しかけられ、俺は言葉を否定し後ろを振り返る……しかし、そこにアイツの姿は無かった。
「あれ? さっきまで、あれれ?」
「よく分かんないけど〜、あの教室。男子生徒が自殺した場所なのよね〜。テスト満点でスポーツ競技一位なのに、いったい何があったのかしら。家庭環境でも悪かったのかしらぁ〜」
「……先生、さようなら」
「ええ〜、さようなら。気をつけてね〜〜」
俺に分かったのは一つだけ。
俺に幼馴染なんて居ない。ということ。
「幼馴染でもないのに、俺の勉強見てくれたなんて。本当に優しいやつなんだなぁ……明日も会えるかな」
おわり