こんなに側でずっと灯し続けていてくれたのに
その明かりが
あまりに大き過ぎて
あまりに穏やか過ぎて
あまりに当り前過ぎて
明かりが灯っていることさえ忘れかけていた
思えば
いつでもどんな時でも
振り返れば同じ場所で
同じ明るさで
同じ優しさで
そっと佇みずっと灯り続けていてくれた
そんな貴方が私の心の灯火だったことに
ようやく私は気がついた
夫という名の心の灯火に…
『心の灯火』
マリリン·モンローがインタビューで記者からの
「寝る時は何を纏っているのですか?」
という質問に
「シャネルの5番よ」
と答えたのは有名な話
因みに私の夫は、加齢臭を纏って寝ている
『香り』
妻 「言葉はいらない、ただ…そばにいるだけで全て伝わるよ…とでも言うつもり? 冗談じゃないわ!あなたに私の何が分かっているって言うのよ?!」
夫 「ああ、分かるさ お前の考えていることなんて全て分かるさ だいたいお前はすぐ顔に出るからな、態度にも出るから分かり易いよ」
妻 「私がいつ顔や態度に出したと? それが出来ていればこんなに溜め込むことは無かったわ…」
夫 「何のことだよ…」
妻 「言葉がなくても伝わり合うのは普段から十分なコミュニケーションがある関係でこそなの 私達がいつそんな関係を築いたと?」
夫 「何言ってんだ、30年以上も一緒にいるんだぞ、そんなもの無くても分かり合ってるだろ」
妻 「どんなに長く一緒にいるからって言葉を端折っていい訳じゃない
考えや思いはきちんと伝え合わなければ何も伝わらないのよ! 自分の気持ちだって時には迷走してわからなくなるのに、他人の気持ちなんて尚更よ それを言わなくても分かるだろう、なんて思い上がりもいいところだわ」
夫 「今までそんなこと、一度も言わなかったじゃないか! 今更何だ!文句があるならその時に言えば良かったじゃないか!」
妻 「あら、あなた、私の気持ちなんて何でも分かるのでしょう?気がつかなかったの?」
夫 「そ、それは…」
妻 「あなたに期待があれば、あなたとの関係をきちんと築きたいと思っていたら、文句のひとつも言ったでしょうね でも、あなたには何を言っても無理、と諦めていたから何も言わなかったのよ
でも、良かったわ やっとあなたに思って来たことをぶちまけることが出来るわ
これを言うときは最後の時って、ずっと決めていたのよ」
夫 「さ、最後って何だ?」
妻 「あなた、あの彼女と一緒になりたいの?」
夫 「な、何のことだ?!」
妻 「私が何も気が付いていないとでも思っていたの?!」
夫 「………」
「いつ、いつから知ってた…?」
妻 「初めからよ あなたがあの女と始まった2年前からよ」
夫 「に、2年前から…? お前、だって、まったく……」
妻 「私が顔や態度にすぐ出るから分かり易いですって?! 私の考えていることは何でも分かるですって?!
笑っちゃうわ! 私の顔なんてまともに見たことも無いくせに
そういう横柄な、驕ったところが嫌でたまらなかったのよ!」
「いつ言おうか、いつ言おうかとずっとこの時を待っていたの
いつ私達の関係を終わらせるかをね」
夫 「終わらせるって… 俺と別れるってことか? そんなこと簡単に出来るわけないだろ」
妻 「そうね、簡単じゃ無かったわ
弁護士さんに相談して、財産の分与やら色々と細かいこと、それは大変だったわよ でもじっくりと時間はあったし、考えてみたら、この2年が私は1番充実していたかも知れないわ」
夫 「お前、お前、お前ってやつは…」
妻 「そう、その顔! その驚きに満ちた呆然とした馬鹿面 その顔を見るのを楽しみに頑張ってきたのよ
今まで私を散々見下して、ろくに相手にもして来なかったことへの仕返しよ!
私のことを何でも分かるはずのあなたがこんな大きな隠し事にも気が付かないなんて、大笑いよ
あ〜、清々したわ」
夫 「お前という女は、恐ろしいヤツだ…」
妻 「今頃わかったの?!」
「言葉はいらない、ただ…」なんて、軽々しく言うものではありません
皆様お気をつけくださいませ
『言葉はいらない、ただ…』
ピンポーン!
インターホン越しに確認しながら応答すると、「荷物のお届けです」と言う
荷物はほぼ置き配を頼んであるので、どこからかの贈り物だろうか…
玄関先に置いておいてくれるよう頼むと、依頼主から直接手渡すように言われているとの返事だ
最近はほとんど配達員の顔も見ることもないからその人がいつもの人なのかさえ分からず、置き配に頼っている危うさを感じながら渋々玄関へ出た
手渡されたのは薄い封筒が一枚
確かに受け取った
差し出し人に心当たりは無かったが、応募したことさえ忘れていた景品でも当たったのかしら…と、少し心を躍らせながら封を開けた
中にはメッセージが書かれたカードが一枚と、その中に大切そうに鳥の羽が一枚同封されていた
その羽は澄みきった青空を思わせる様な鮮やかなブルー
メッセージにはこう記されている
「あなたにこの青い鳥の羽をお届けします この羽を携えてパソコンかスマートホンをご覧下さい あなたに幸運がありますように」
狐につままれたような、魔法にかけられたような奇妙な気持ちだったが、こちらからアクセスしなければ大きな被害に遭うこともないだろうと、とにかく開けるだけ…とスマホを開くとすぐに真っ白な画面が立ち上がった
よく見ると、画面の一番うえにタイトルのようなものが書かれている
ここに何かを書けと?
目の前では、私に書くことを促すようにあの青い羽が優雅にゆらりゆらりと揺れている
それが、この世界への入口だった
『突然の君の訪問。』
なかなか衝撃的な映像を見た
周りの景色が斜線に見えるような先日の豪雨の中、身動きひとつせずひっそりと佇む一匹のシマウマ
恐らく動物園での出来事を誰かが捉えたものなのだろうが、その映像のシュールさに私も身動きひとつせず見入ってしまった
あまりの豪雨の急襲に、驚きすぎてただ呆然と立ちすくんでいたのか、
あるいは、その雨に自分のルーツを本能的に思い出しサバンナに思いを馳せていたのか…
とにかくその姿の物語るものが多すぎて、私は笑いと涙が溢れ出てしまった
この夏の暑さや豪雨は、動物さえも詩人にしてしまう?!
『雨に佇む』