初心者太郎

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11/25/2025, 7:29:29 AM

—飼い犬の密告—

「ちょっと待ってタロウ!」

飼い犬のタロウが家の鍵を咥えてどこかへ持って行ってしまった。そしてすぐに何事もなかったかのように、戻って来た。

「タロウ鍵は?」

咥えていたはずの鍵がない。
タロウは尻尾を振り、可愛い目でこちらを見つめている。
急いで部屋を飛び出して、鍵を探す。
寝室に入った時、同棲している彼女が鍵を持っていた。

「あ……、それ」
「ねぇ、これどこの鍵?」

彼女の声と視線は冷たかった。

「実家の鍵だよ……」
「嘘だ。目を見れば分かる。浮気したんでしょ」
「……」

彼女は荷物をまとめ始めた。酷く憂鬱な時間が流れた。

「別れましょう。もう一緒にはいられない」
「……」
「さようなら」

彼女は部屋を出て行った。
膝から崩れ落ちて項垂れた。

タロウは彼女が落とした鍵を咥えて、僕の足元にそっと置いた。

お題:君が隠した鍵

11/24/2025, 4:49:09 AM

—死神—

人間から寿命を買う死神がいた。

「十年分の寿命を売ってくれるのですか?」
「はい、お金がなくて娘の治療費が払えないんです。どうかお願いします」

男は顔の前で手を合わせて頼んだ。
死神は、男の要求通り寿命を十年分吸い取った。

「十年分の対価です」
「ありがとうございます」

男はニヤリと笑った。
そのまま走り去った。

死神はしばらく男の様子を見ることにした。

男はギャンブル中毒だった。競馬やパチンコなど、あらゆる賭け事に朝から晩までのめり込んだ。故にあっという間にお金はなくなった。

また男はやって来た。

「また十年分の寿命を売ってくれるのですか?」
「娘の状態が良くならないんです。またお願いします」

死神が寿命を吸い取ると、男は倒れて動かなくなった。

「おや、寿命が尽きてしまったようですね。お客様、申し訳ございません」

死神は漆黒の翼を羽ばたかせて、空を飛んだ。寿命を簡単に吸い取らせてくれるような次の人間を探して。

お題:手放した時間

11/23/2025, 9:15:00 AM

—星に願いを—

「見つけた!ほら、あそこ!」

彼女の指差す先には、紅く光る大きな星が見えた。
元々、星になんて全く興味がなかったけれど、彼女が見たいというから、来た。
周りには、思っていたよりも人が多い。

「本当だ」
「綺麗でしょ?」
「うん、まぁ」

正直俺は、あの星を見てもなんとも思わなかった。目を輝かせて見ている彼女を見ると、本音は言えなかった。

「何か願い事しようよ」彼女が提案した。
「願い事?」
「うん、あの星に願いを込めると叶うって言われてるんだよ」

周りを見れば、多くの人が両手を顔の前に組み、願い事を星に伝えているようだった。

そんな彼女も、周りの人と同じように目を閉じ、俯いた。
その横顔が、綺麗だった。

(彼女とずっと一緒に居られますように)

そう心の中で願った。

顔を上げた彼女を見て「何をお願いしたの?」と俺は聞いた。

「これからも二人でいっぱい星を見られますようにって」

今が夜で良かったと思う。きっと今、顔は紅い。

「あなたは何をお願いしたの?」
「それは……、内緒」
「なんでよ、教えてよ!」
「いやだよっ!」

その場から逃げるように去ろうとすると、彼女は走って追いかけて来た。
二人の足音が、夜の街に響いた。

こんな二人の時間がいつまでも続けばいい、そう思った。
どうか願いを叶えてください、と紅い星に向かって、もう一度願い事をした。

お題:紅の記憶

11/22/2025, 5:38:02 AM

—厨房の中から—

久しぶりに店に帰ってきた。ここは、父が経営する小さな中華料理店。
客足が途切れない、地元住民から愛されている店だ。

最近、店は休業している。
父が交通事故に遭い、入院しているからだ。命に別条はないものの、骨折がひどく、店を開ける状態じゃない。

「数日だけ、店をお願いしたい」

三日前、都内の中華料理チェーン店で勤務している僕の元に、父から連絡があった。

だから僕は今、厨房に立っている。
見習いの身であるが、今だけは立派な料理人でなくてはならない。

開店時間になった。

「いらっしゃいませー」

客が雪崩れ込んでくる。次々と入ってくる注文をひたすら捌く。鍋を振り、皿を並べる、これを繰り返す。

「ご馳走様です」「おいしかったです」なんて言葉を耳にして、僕は「ありがとうございましたー」と返事をするが、手は止めない。

夢中だった。

気がつけば、閉店時間が近づき、客も減ってきた。無事、初日を乗り切る事ができたと、胸を撫で下ろした。

閉店時間になりシャッターを閉めようとすると、車椅子に乗った父と、それを押す母がやってきた。

「悪いな、急に頼んで」父はそう言い、
「本当にありがとうね」母も笑顔で続けた。

僕は二人を店内に入れ、厨房がよく見えるカウンター席に来てもらった。

「二人に見てほしい」中華鍋を振るい、十年ぶりに見せる僕の姿を父と母に届ける。
皿に綺麗に丸く盛り付け、二人の前に出した。

「チャーハンです」

「いただきます」二人は一口食べた。目には涙が見えた。

「成長したな」そう言われて、僕の目にも涙が浮かんだ。

今日、僕はいくつもの夢の断片を見た。

お題:夢の断片

11/21/2025, 7:40:00 AM

—なりたい自分に—

私は「世の中に真実を伝えたい」という想いを持って、記者になった。悪事を暴き、弱い人の味方になる。そんな記者になれると信じていた。

だが、現実はそううまくはいかない。
朝から晩まで、ひたすら足で情報を稼ぐので体力との戦いだし、運が悪ければ何も手に入らず一日が終わることもある。休日、いきなり電話で呼び出されることもある。

兎にも角にも、大変な仕事なのだ。
この仕事に五年勤めて、私はスポーツ部に配属された。

「大変苦しい時期があったと伺いました」

相槌を打ちながら、プロサッカー選手の山中は聞いている。
彼にはブランクがあった。ケガの影響だったらしい。

「どうやって乗り切ったのでしょうか」
「ええ、確かに苦しい時期が長く続きました」

彼は淡々と語る。

「でもやっぱり、諦めない気持ちがあったから、乗り越えられたんだと思います。根性論になってしまうんですが」

彼は笑って言った。

「最後に、未来のサッカー選手達に、一言お願いします」
「いつも応援ありがとうございます。これまで試合に出れなかった期間を取り戻し、結果で見せます。これからも楽しみに見ていてください」

カメラはないが、山中はぺこりと一礼した。
その後、簡単に挨拶して解散となった。

私はインタビューを反芻しながら、次の取材場所に向かった。

先程のインタビュイーのように、向上心の高い人と関わる機会がある。
だからこの仕事はやめられない。自分も頑張ろうと思えるからだ。

私がどんな記者になるのかは分からないが、足を止めずに前に進みたい。なりたい自分に少しでも近づくために。

お題:見えない未来へ

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