迷いを抱えたまま、角を曲がるとビル群の隙間にたどり着くと頬に冷たい風が吹き抜ける。
「うわ、寒っ」
身体の底から震え上がる冷たい風に驚いた。
頬にあたる風でようやく外気が寒いことに気がつく。
そんなことにも気がつかないくらい、ずっと迷っていたんだな。
認めたい心と、認めたくない心と、でもやっぱり認めたい心。
頭が冷えていく中で目が冴えていった。
この先、俺はどうしたいんだろう。
そんなことを考えながら俺はまた歩みを進めた。
おわり
五五二、吹き抜ける風
あまりにも寒くてソファに座っている恋人の前に座った。
彼は私がなんで座ったのかを察してくれたみたいで。
「もうちょっと前に座って」
彼にそう言われて、私はソファと私の間に彼が入るくらいの隙間を作る。すると彼は間に挟まるように座ってから私のことを後ろから抱きしめてくれた。
「あったかいです」
私が彼の腕掴んで頬を擦り寄せていると、更に抱きしめてくれる。
「ふふ、よかった」
彼の温もりに包まれて瞳を閉じた。
すっかり肌寒くなってきている中で、彼の体温を感じていると、ずっと私を守ってくれている。そんなふうに幸せな気持ちが心に灯った。
おわり
五五一、記憶のランタン
冷房も付けなくなったし、空気の入れ替えもあって少しだけ窓を開けていた。
日が暮れると外の気温もどんどん下がっているから、さすがに窓を閉めて過ごす。
ソファにひとりで座っていると肌寒くなって小さく肩が震える。
「はい、どうぞ」
見かねた恋人が暖かいマグカップを俺に差し出した。
湯気から甘いココアの匂いがして美味しそう。
そして彼女は俺の隣に隙間なく座った。彼女の温もりが直に伝わってくる。
渡されたココアを口にしながら、彼女の体温を感じていると改めて冬に向かっているなと思えた。
おわり
五五〇、冬へ
小さいチャペルに行って色々話をしてきた。
決めることもあって、すっかり日も沈んでいる。
チャペルを出て駐車場に向かってゆっくり歩いていく。
行く時に足を取られて転びそうになった恋人に手を差し出した。
月に照らされた彼女はふわりと微笑んで、手を掴む。
日焼けした俺と違って、色の白い彼女は月の光を浴びて誰よりも綺麗で胸が高鳴った。
おわり
五四九、君を照らす月
久しぶりに見たいと思って、今日はちょっと遠出のデート。
結構前に見つけた森の中に小さなチャペルがあるんだ。
車を降りて、ゆっくり歩き出す。
「わっと」
彼女がなにかにつまずいて転びそうになったから、彼女の身体をつかまえて支える。
「あぶなかったね」
「はい!」
俺は彼女の手をとってチャペルに足を向けた。
木々の間からこぼれ落ちる光と影が、まだら模様を作っている中、俺たちはそこを歩いていく。
木漏れ日の跡にふたつの影を増やしながら。
おわり
五四八、木漏れ日の跡