部屋の窓を開けると冷たい空気が流れ込んでくる。
外に向かって息を吐けば、それはふわりと白く浮かぶ。
「さむーい!!」
子供達はキャッキャッと笑いながら息を吐き出した。
「あ、ねぇねぇ」
窓を閉め、そこに向かって息を吹きかける。それは透明なガラスを白く曇らせた。
姉の指先が、その白いキャンバスにスマイルマークを描いた。
それを見ていた弟の目が輝く。
「僕もやる!」
窓ガラスにたくさんの『楽しい』が描き込まれていく。
「こら! 窓拭きの途中でしょ!」
ママの雷が落ちる。二人は残念そうに溜息を吐き、「は~い」と返事をした。
大掃除はまだまだ終わりそうにない。
『白い吐息』
今夜も全ての灯りを点けたまま眠る。
暗闇は怖いから。
全てを飲み込んでいきそうで、自分もそれに飲み込まれてしまわないように、灯りを点けておく。
自分の命の灯火まで消えてしまわないように。
『消えない灯り』
朝の空気は澄んでいて、冷たい。まだ明かりの灯っていないイルミネーションは静かに眠っているようだった。
明かりはなくとも、彼女には街がキラキラと輝いて見えていた。
「絶好の謎解き日和!」
「あー本当におまえはそういうのが好きだね」
今日は街歩きの謎解きをしようと、朝から表へ飛び出した。
テンションの高い彼女とは裏腹に、彼は少し眠そうだ。
それでも、彼にとっても街は輝いて見えた。
今日は彼女と謎解きデート。その後はサプライズを用意している。
用意された小さな箱。中身は何でしょう?
果たして、彼女はこの謎が解けるかな。
彼女の驚く顔を想像して、思わず顔が綻んだ。
『きらめく街並み』
登校して下駄箱を開けると、手紙が入っていた。
こ、これは! ラブレターに違いない!
自分の席に着いて、こっそり開封してみる。
かわいらしい便箋に、かわいらしい文字で……
『レまぅカゝ⊇″ぉ<∪″ょぅτ″маっτма£』
……ん?
どうやら、期待のものではなかったようだ。
なんだこれは? 暗号?
れ、ま、う、か……繰り返し記号だから、また、か? じゃあ次は?
わ、わからない……。
俺はいつから秘密組織のエージェントになったのだろうか。でも、必ずこの謎を解いてやる。
当時の俺はギャル文字の存在など知らず、何かとんでもないことに巻き込まれたんだとワクワクドキドキしていた。
今は勿体ないことをしたかもしれないと思う。
『秘密の手紙』
冬の足音が聴こえた。
振り返ると、しんと静まり返った街。そこに、突然冷たくなった空気だけが漂っている。
北風が頬を撫でる。
体が芯から冷えていく。風邪を引きそうだなと、鼻をすすった。
『冬の足音』