夏の忘れ物を探しに
もう夏休みも終わり学校が始まった。
夏休み中は都会からたくさんの人が来て賑わっていたのに、今は地元民しか居ない、また寂れた町に戻ってしまった。
学校帰り1人の男の人を見かけた。
ここら辺では見ないような、オシャレな服に帽子に鞄に。
まるで小説の世界から出てきたような独特な雰囲気のある人。一目見て都会の人だとわかった。
キョロキョロと辺りを見渡して何かを探しているようだった。
「…あの。なんか探しもんですか?」
おそるおそる声をかけると、男の人はふっと笑いかけた。
「あぁ、ちょっと夏の忘れ物を探しに、ね。」
「夏の…忘れ物。」
「うん。」
無我夢中でカメラのシャッターを切る彼にそれ以上話しかけられなかった。彼の独特な雰囲気に飲み込まれそうで怖かった。
彼の去った方を振り返って見ると、もう影も形も無かった。
「…忘れ物は見つかったんかな?」
8月31日、午後5時
8月31日、午後5時。
私は家で動画を見ながらくつろいでいた。
8月31日、午後5時。
ある所では1つの命が天命をまっとうして、家族に見守られて空に旅立った。
ある所では新たな命が産声を上げ、祝福を受けたた。
ある所では汗水垂らして働いていた。
ある所では、またある所では──。
同じ日の同じ時間。
人の数だけ色んな物語がある。
色んな事が起こっている。
これって実は、凄く面白いことなんじゃないか?
ふたり
「…いよいよ、この星には私達ふたりだね。」
星を眺めていると、隣に君が来た。
僕は何も言わずに微笑んだ。
荒廃する地球、刻一刻と崩れ落ちていく。
「最後の時、君とふたりで居れて僕は幸せだよ。」
君は何も言わずに微笑む。
素足のままで
初めて好きな人と海に行った。
夏の灼熱の太陽に焼かれた砂浜は、まるで鉄板の上のよう。
あまりの暑さに「あちちちっ」と足をバタつかせると君は私の前に来て、しゃがむとその大きくて逞しい背中を私に向けた。
「どうぞ?」
「…え!」
「お嬢様専用のおんぶです。」
そんなふざけたことを言いつつも君の両耳は真っ赤だった。もちろん私も。
「…あ、ありがとう。」
おそるおそる彼の背中にもたれかかる。
素足のまま彼の背に揺られた。
きっと忘れない
小さい頃は大人には見えない摩訶不思議なモノが見える。
きっと、無意識に周囲の様子を見ようと意識しているからだろう。
かくいう私も小さい頃は色々見えた質で。
特に覚えているのは"妖精"を見たことだ。
真冬の東北へ家族旅行。無数の雪が降りしきる中、露天風呂は最高だった。
露天風呂の岩にもたれ掛かり、雪を眺めていると、フラフラとこっちに近づく挙動不審な雪が見えた。
よーく目を凝らしてみると真っ白な髪に真っ白な肌、淡い薄水色のワンピースのような服に背中からは半透明で光沢を帯びた羽が生えていた。
じーっと見ているとあっちも気がついたのか、私に笑いかけた。
「うふふふふっ。」
「!?」
「…忘れないでね。」
「!…うん。忘れないよ。きっと忘れない。」
そう言葉を交わすと、妖精は白銀の世界へ消えてしまった。
私は急いで部屋に戻って暇つぶし用に持ってきたスケッチブックに妖精の姿を描いた。
私が描いた雪の妖精の絵は大人になった今でも手元にある。
あの出来事は夢や幻なんかではなく紛れもない現実だったんだ。