既読がつかないメッセージ
私はマメに連絡を取るのは苦手だった。
彼氏は逆に毎日何通も連絡をやり取りするほどマメな人だった。
最初の頃は彼に合わせて1日に何通も連絡をとっていたが、私は次第に面倒になっていった。
些細な喧嘩から、私たちは呆気なく別れた。
別れて少し経った後、無性に寂しくて、なんとなく残しておいた彼の連絡先にメッセージを入れた
『久しぶり!元気してる?なんか、寂しくて連絡しちゃった笑』
一日、二日、三日、1週間、1ヶ月───。
ついにメッセージに既読はつかなかった。
あんなに疎ましかった彼からの連絡が、無くなった途端に寂しくなる。
そんな自分が心底気持ち悪かった。
秋色
秋の食卓は彩り豊か。
秋刀魚に、松茸ご飯、
かぼちゃのケーキに和栗のモンブラン。
秋色に染まる食卓はまるでテーブルの上に秋を詰め込んだよう。
さて、今日はどんな秋色の食卓にしようかな?
もしも世界が終わるなら
"世界が終わる"って何を持って世界が終わる、のだろうか。
地球が滅びて人が住めなくなる?
世界の均衡が崩れて戦争になる?
人が住めなくなるようなナニカが侵略してくる?
なんて、そんな屁理屈はどうでも良くて、
終わりを決めるのは私。
私自身が生きていれば世界は終わらない。
もしも世界が終わるなら、それは私が死ぬ時だ。
靴紐
大学1年の時、学費や遊びのための小遣い稼ぎに楽器屋でアルバイトを始めた。
特に音楽が好きなわけでも楽器に詳しいわけでもなかったが、以前通りすがりにお店を見た時に一目惚れしたある店員さんが頭から離れなかった。
その店員さんは細身で色白で綺麗な女性だった。肌の白さに反して艶のある真っ黒な黒髪がとても印象的だった。
よく見ると耳や唇の辺りに複数ピアスが空いていて、より"エモさ"を際立たせた。
今日は初出勤。憧れのあの店員さんに会える期待を胸に扉を開く。
ちょうど目の前に開店準備をする彼女の姿が目に入る。店長から軽く紹介があり互いに挨拶を交わすが、緊張でそれ以外話すことはできなかった。
仕事に取り掛かろうとしたその時、不意に彼女が私の足元に膝まづいた。
「!?」
あまりのできごとに声も出せないでいると、
「…あ、急にごめん。靴紐、解けてたから。店狭いから転んだりしたら大変だよ。」
素早く私の靴紐を直すと膝まづいたまま上目遣いでそう言った。
「あ、あぁぁぁありがとう、ございます。」
アルバイト先で私は白馬の王子様(?)と出会ってしまった。
答えは、まだ
彼女は問う。
「どういう女性が好みか」と
私は答える。
「どうだろう」と
彼女は問う。
「気になる女性はいるのか」と
私は答える。
「…いる」と
彼女の桜の花びらのような柔く透明で美しい瞼が見開かれる。
彼女は問う。
「そのひととはどんな関係なのか」と
私は答える。
「友人…の、ようなものだ……まだ」と
彼女は問う。
「いづれは友人ではなくなるのか」と
私は答える。
「彼女が私の想いに応えてくれるのならば」と
彼女は目に溜めた涙をこぼさぬよう天を仰いだ。
何かを押し殺したように彼女は問う。
「わたしと貴方は、友人ですか」と
私は答える。
「友人だ。まだ。」と
そう答えた刹那、不安げだった彼女の顔から暗闇が消えて涙を溜めていたその瞳はまるで太陽のように輝いた。