秘密の標本
人は強く禁止されると反発したくなる。
そこは立ち入り禁止の父の書斎。
県外で学会があるらしく今日は終日留守だと聞いていた。
書斎の鍵の隠し場所は事前に調べておいたので、
夜更けに母の就寝を確認し、静かに父の書斎へ侵入する。
室内を探るが、特に怪しいものもなく当てが外れたなと自室に戻ろうとした時、何か箱のようなものを落としてしまった。
鍵がかかっていたが落ちた拍子に古びていた錠が壊れ中身が飛び出した。
焦って元に戻そうと拾うと人の手や顔の一部のようなものだった。
人体模型の一部かとまじまじ触っていると、あることに気づいた。
「……これ、本物だ。本物の、人間の、もの。」
ガチャと書斎の扉が開く。
「…そうだ。本物の人体の標本だ。」
背後から、今日は居ないはずの父の冷徹な声が聞こえてきた。
凍える朝
「北海道行こ!」
それは唐突に計画された。
「え〜関東平野にいても寒くて凍え死にそうなのに、嫌だよ〜。」
寒がりの私は急な友達の提案を即座に断ったが、意思は固いらしく、私を置いてけぼりにどんどん計画を進める。
「なんでこの寒い時にわざわざ北海道?」
「どうしても、あんたに見せたいものがあんのよ。寒がりなのは知ってるけど、この時期じゃないと見れないの!」
どうやら私の為に計画をしているようで、無下に断る事も出来なかった。
あっという間に北海道旅の日。
観光を楽しんで旅館に着くと心配そうに何度も携帯を見る友達。
「うん、天気も風も大丈夫そう。よし明日、早朝に出るから今日は早く寝よう。」
言われるがままに私たちは早めに寝て次の日、朝4時頃に起こされた。
何故か目隠しをされて腕を引かれてどこかへ連れて行かれる。
パッと目隠しを外されて、ゆっくり目を開けると
目の前には湖、よく見ると、大きな白い花?のようなものが湖一面に咲いていた。
そのあまりに幻想的な光景に私は言葉を失った。
「フロストフラワー、っていうんだって。水蒸気が寒さで花みたいな結晶になるんだって。条件が揃わないと滅多に見れない凄い神秘的な光景。……誕生日おめでとう。これはあたしからの誕生日プレゼントってことで、今日あんたとフロストフラワーが見れてよかったよ。」
「……。ありがとう。」
凍てつくような寒さで体の感覚がないのに、心がじんわり暖かくなって無意識に涙が零れた。
最高の誕生日プレゼントを貰った。
ある、凍える朝のお話。
光と影
兄は光だ。
僕は兄の影。
でも、それでいい。
光り輝く兄を1番近くでずっと見ていたい。
光があれば影もある。
兄の光が陰る時、僕は兄だけの光になる。
光と影、兄と僕。
歪な愛情でも依存でもなんでもない、これは自然の摂理。
そして、
それは物語を結末に導く言葉。
「彼は本当に良い人だった、そして、──」
「あの人は出ていった、そして、──」
「試験が終わった、そして、──」
たった3文字で明るい結末にもくらい結末にも導くレールのような言葉。
あなたなら「そして、」の後にどんな物語を描きますか?
tiny love
愛の告白、通算6連敗中。
彼女を好きになったのは保育園の頃。
初めての告白は保育園、次は小1、次は小3、次は小6、次は中1、次は中2、そして今日、中学3年、7回目の告白。
俺は今日、なんとしても告白を成功させなくてはいけない。なぜなら親の仕事で、近々別の県に引っ越してしまうからだ。
身だしなみを整えて、放課後体育館裏で彼女を待つ。
嫌そうな顔をして渋々彼女は来てくれた。
「…また?"好き"は聞き飽きたんだけど?」
いや今日の俺は一味違う、と首を横に振る。
「ううん。今日は、最後のお別れ。俺はそろそろ遠くへ引っ越すんだ。だから最後に本当に君に伝えたかったこと。……愛してます♡」
お茶目に指でハートを作って見せると、彼女は思い切り笑いながら俺の頭を小突く。
「最後までバカだね〜負けた負けた、降参。
はい、私の連絡先。遠距離だからって浮気したら殺すから。」
ぶっきらぼうに彼女から一枚の小さなメモ用紙を投げ渡された。
俺は彼女からもらった小さな愛をギュッと握りしめて、遠い所へ旅立った。