たくさんの宝物があった。
他の人達にとっては他愛もない様なものたち。
それでも私には一つ一つが輝いて見えた。
日に日に増えていく宝物たちに、私は頬を綻ばせる。
あの日君がくれたチョコの包み紙。
あの日彼が買ってくれた簪。
あの日彼女が手に入れるのを手伝ってくれた本。
貰った経路も相手もみんなバラバラで、
だからこそ、尚の事みんなが輝いて見えた。
でも、みんなとももうお別れをしよう。
宝を、宝となった思い出を与えてくれた彼らはもういないのだから。
私だけが縋っていても仕方がない。
みんなは笑顔で私の先に行った。
なら私はその笑顔に報いるべきだと思ったんだ。
それらを一つ一つ丁寧に処理していく。
包み紙をアクセサリーにして、
簪をまた誰かに渡して、
本を寄贈して、
他の宝物たちも、それぞれが役立って行けるように
送り出した。
私だけの輝きだったものたちが
今や誰かの輝きになっている。
どうかその輝きが続けば、増えていけば。
私にとってそうであったように、
渡した誰かが輝きになれば。
そうなったら、悔いはないなぁ。
俺は誰彼にもあまり興味を持てない人間だと思っていた。
彼に初めて会ったのは高校の入学初日だった。
同じ作家が好きで、
同じインドア派で、
同じ部活に入って。
そのうちに親友と呼べるようなものになった。と思う。
高校を卒業しても偶に連絡を取り合って、その延長線で実際にあって酒を飲んだりもした。
上司の愚痴を言い合って、彼女の話をしたりして。
それが何よりも楽しくてしょうがなくて。
ずっとずっとこのまま時間が進まなければいいのに、と思いながら終電に乗って帰ることを繰り返していた。
家に帰るのが辛かった。
帰ったところで労いの言葉はない。
あるのは罵倒と暴力だけだったから
会社に行くのが辛かった。
何をしても批判ばかりで、成果を上げても上司に掠め取られていったから。
食べることが辛かった。
味もわからない、ゴムのようなそれを延々咀嚼することに意味を感じられなかった。
それでも、彼からの連絡があるたびにその日を待ち通しにした。
彼からの連絡がなくっても、それが来るのを待ち通しにした。
このままでいい。生きるのが辛くっても、彼がいる。
初めてなんだ、なあなあにしないで関わり続けられたのは彼が初めてだったんだ。
本当に初めてなんだ、俺の話を聞いてくれたのは。
馬鹿にしなかったのは。愛してくれたのは。
止まれ。時よ止まってくれ。もういい。
彼が生きたこの時代で終わりにしてくれ。
彼と一緒に終わりにしてくれ。
時間よ止まれ