蜜柑

Open App
4/3/2025, 9:47:31 AM

「何をしているの?」空を見上げて手を合わせる友人にそう尋ねる。友人はこちらを見て、恥ずかしそうに笑って言った。「いつか、どこかで亡くなった方に、ゆっくりお眠り下さいって思ってたの」ほら、人知れず亡くなってしまった方がさ、誰にも想われないのは悲しいじゃん。友人はまた空を見上げて続けた。「もちろん、誰かに知られて亡くなった方もいらっしゃるだろうけど。でも、遥か昔に亡くなった方は、きっとその誰かも今は存在していないだろうから」だから、どんな人が亡くなったかは知らなくても、手を合わせたいなって。そう告げた友人の瞳は、悲しげなものだった。……そしてどこか、寂しげなものだった。「……なら、私もしようかな」「……うん! 一緒に手を合わせよう」そうして訪れる沈黙の合間。私は手を合わせた。「(……どうか、安らかに。ゆっくりお眠り下さい)」きっと、誰一人欠けては、今の私もいないだろうから。その感謝も込めながら。

4/1/2025, 10:38:14 PM

「はじめまして、おにいさん」目の前に現れた彼女はそう告げる。見たことの無い少女だった。……けれど、どこか懐かしい雰囲気のする少女だった。「……は、初めまして?」戸惑いながら僕はそう返事する。君はどこか懐かしそうに笑っていた。「これからよろしくね」その表情は無くなり、君は眩しい表情で笑う。僕は、ただ圧倒されたように頷く他なかった。

3/30/2025, 11:22:27 AM

「待って!」離れていく君に、そう、声をかける。君は、悲しそうに微笑んでいた。「……ダメだよ」告げた言葉はそんなもの。けれどそれが確かな拒絶だと。僕は確かに気づいてしまった。「……ごめんなさい」君はそう告げ去っていく。夏風と共にやってきた君は、春風と共に去っていった。「……」彼女の決意が、その意思が。確かに強いものだと。きっと、僕だけが知っていた。

3/29/2025, 6:09:04 PM

ぽろぽろと、目の辺りから流れるこれは、なんと言うのだろうか。流れる水をそのままに彼女へ視線を向ければ、彼女は目を見開く。「大丈夫!? 何かあった?」その言葉に、私は素直に答えることにした。「……わからない」そんな言葉の意味がきっと態度としても表れていたのだろう。彼女はゆったりとした調子で言葉を口にした。「……それは、涙、って言うんだよ。悲しい時とか、あとは嬉しい時にも出るの」その言葉を心の中で反芻する。そうして口から出たのは。「……うれしい、のかも」こんな言葉だった。俯かせていた視線を彼女へ向ける。「……」彼女は心底安心したように、そしてどこか嬉しそうに頬を緩めていた。

3/29/2025, 3:54:25 AM

仕事帰り。酷く疲れた体に鞭を打ち帰路を歩く。「……!」その最中に見つけた本屋に、思わず引き込まれた。今日は沢山頑張ったんだから。そう自分で言い訳して、どんな本があるか見ていく。その中で見つけたのは、私の好きな作家さんの見たことの無い本だった。「……(出てたんだ……)」そう心の中で呟きながらその本を手に取る。そしてそのまま財布を出し支払いへと向かった。
本屋から出た私にあるのは、大切な本と、そして疲弊した自分。けれどこういう楽しみがあるのなら。私はこれからも頑張っていける。小さい幸せが積み重なるだけで日々は生きていけるものだから。

Next