紅の記憶~紅乃神子と蒼白艷戸の未解決怪事件録~
:プロローグ
――紅 乃神子。
黒髪ショート、身長150丁度。年齢二五才。
見た目こそ地味なごく普通の一般人女性だが、
彼女の職業は少し――いや、大分特殊なものだ。
人に言えない職業、とだけ言うと語弊があるかも知れない。
正確に表現するなら、
『言ったところで理解されない』と言ったところか。
その件の彼女――乃神子は、狭い3LDKのマンションの一室で現在、絶賛『格闘中』だった。
「――蒼白艷戸。 おい、聴こえているか? 起きろ、こら。……あーおーしーろーあーでーとー!」
事務所兼自宅のリビングの床にだらしなく仰向けになり、
死体のように四肢を投げ出し、転がっている助手の女の身体を、乃神子は面倒臭そうに足で小突いて起こそうと試みる。
「うーん……。 うん? あ、のみこさんじゃあーないですかぁ~。 おはよぅ……すやすやー……」
まるで夏場に放置して溶けたアイスみたいな腑抜け声で返事を返し……ている最中にまたシャットダウンする――蒼白 艷戸。
このやり取りをかれこれ三十分はリピートしている。
「今日は特別、厄介な案件が舞い込んで来てるっていうのに……全く」
――このままでは、仕事を始められない。
乃神子は、強行手段に出ることにした。
「……話半分もいかずに寝るな、このたわけがっ――! いい加減に起きろ!!」
「!? ア――っ!?痛あぁい!!?」
再び夢の中に入りかけた艷戸のみぞおちに――乃神子のサッカーボールキックが鈍い音を立てて刺さった。
「な、なにをするだあー! 私が“人間だった頃“なら全治一ヶ月は適当な威力でしたよ!?」
艷戸が飛び起きて、抗議の声を上げる。
「“人間だった頃“ならな。 じゃなきゃ本気で蹴り飛ばして起こしたりしとらんわ」
乃神子があきれ顔でため息をつく。
その言葉の通り、乃神子は寝ているとこに実際『本気で』蹴りを入れていたわけだが
――艷戸は、騒ぎたてている割にはさっぱりダメージは無いようだ。
そう、何を隠そう、冗談ではなく彼女は人間ではない。
――乃神子の使役する“僵屍“なのだ。
「ひどい! 流行りの“パラパラ“上司だぁ!?」
「“パワハラ“な? あと、どっちも流行りは大分過ぎてるぞ。 どうでもいいから座れ」
地団駄を踏みわめきたてる艷戸の天然ボケを涼しい真顔で受け流し、乃神子は部屋の奥にある事務椅子に腰を下ろして脚を組む。
「とりあえず艷戸――仕事の時間だ」
そう言うと、乃神子は鞄の中から資料の入った封筒とファイルをどさりと机の上に投げ置く。
ぱっと見ただけで――合わせて、A4五、六十枚はある資料の山だった。
「ひええ~……なんか、面倒臭そうですよー。……この依頼、断りません?」
うんざり、といった様子を隠さず文句を言って、艷戸がため息をつく。
「断る。 お前の提案はな。 依頼は既に受諾済みだ、残念だったな。 働け」
「そんなあ」
ぶつぶつと何やら文句を呟きながらも、諦めて艷戸は封筒の封を切り、仕事に取りかかる。
その傍ら、乃神子もファイルをめくり、内容を整理していく。
――ニュースには報道されない、未解決事件。
その中には――明らかに『この世ならざるもの』によるとしか言えない事件も数多に存在しているのだ。
『論より証拠』とは良く言われるが、こうした事件では当然、証拠などでない。
そんな、科学の世の中では手に余る『“怪“コールドケース』を解決するため秘密裏に結成された――現在、日本に三ケ所だけ存在する専門機関。
『特殊緊急“霊的事案“調査解決機関』。
通称――『特霊』
この物語は、その『特霊』東京支部にて働く二人――霊媒師の紅 乃神子とその助手兼“僵屍“蒼白 艷戸の、事件記録の一端である。
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この話はプロローグまでで…。〆
夢の断片
大抵、目が覚めれば夢の内容なんて
全部忘れているものだ。
でも、たまにふとした時によぎるイメージや覚えのない記憶。
それこそ“夢の断片“というものなのかも。
人間の脳は忘れることで自分を守る
と聞いたことがある。
しかし、反対に
脳に忘れるという機能はない、とも
どこかでみたような気もする。
貴重な脳のメモリーを消費していたとしても、夢――内容次第ではあるけど。
たまに思い出して楽しめるなら、それも
いいのかも知れない。なんて。
まあ、多分忘れた方がいいことの方が多い気もするけれど。夢はいやになるほど、時々正直だから。
見えない未来へ
少し肌寒くなってきた
10月の夜のことでした
夢枕あなたが出てきて
物言わず静かに微笑んでた
なにか伝えたかったのか
ただ顔を見たかったのか
わたしには分からなかった
あなたにわたしが出来ること
全部出来ていただろうか
あなたの最後の日の夜は
静かに過ぎていっただろうか
それだけが知りたくて
それだけが知りたくて
少し木枯らしが吹いてきた
12月の朝のことでした
夢枕あなたが出てきて
物言わずわたしの手を握って
なにを伝えたかったのか
もう顔を見なくても
わたしには分かった気がした
あなたはわたしが想うより
ずっとずっと強かった
あなたの最後の日の夜は
静かに過ぎていったのだろう
あなたがくれた気持ちに
背中を押され歩いていく
見えない未来へ歩いていく
※数ヶ所、改定と修正
吹き抜ける風
次のテーマの更新、三十分前。
アプリを開き、この言葉を見て、
僕の脳がわずかに残した体力で十分かけて振り絞り出した語彙の末路が
「窓開いてね?」だったあたり、
やはり今の自分に必要なのは少しばかりの休息なのかもしれない。と思った。
記憶のランタン
もしも人の記憶を読み取って投影できる魔法の道具があったら?
使ってみたいような、触りたくないような。
人は嫌なことやいらない物は、
普通は薄れていくように設計されている。
壁の染みや傷は残っても、それがいつ何によって付けられたものかては忘れていくもの。だ。
しかし、その中には確かに今にして見れば大切な思い出もあるかもしれない。
でも、今まで捨てたゴミや失くしたペンが一生分戻って来たらと想像すると……。
やっぱり、そんな魔法の道具は使わないに越したことはない、と思う。