「死んだ人は、お星様になって私たちを見守っている」
と、大嫌いな母がそう言っていたのを思い出した。
俯きがちだった顔を、少し上に向けてみる。
都会とはいえ、冬になると空が少し賑やかになる。
キラキラ光ってる大きな星や、今にも消えてしまいそうなくらい小さな星。
貴方は、どこにいるのだろう。
貴方は……きっと、あの星だ。
とても明るくて綺麗なのに、周りに星たちがいない。
寂しがり屋で、甘えたがりのくせに、人を傷つけるのが嫌だからって、だからいつも1人だった。
空の上でも、貴方は1人なのか。
貴方はいつだって、1人ぼっちだ。
最後だって、貴方は1人だった。
寂しかったら頼ってって、あれだけいったのに。
貴方と一緒なら、私だって飛び降りることくらいできるのに。
あぁいっそのこと、今からでもどこかいい所を探して飛び降りてこようかしら。
なんて良くないことを考えていると、貴方の隣に小さな星を発見した。
「1人じゃないのか」
少しホッとした。
私が星になる必要はないみたい。
安心して息を吐く。息は白くなって消えていく。
今晩は冷え込むと、母が言っていたのを思い出した
少し気持ちが沈んでいた、ある冬の日。
色んなことが上手くいっていない気がして、周りの目が怖くなって、何となく不安で、下を向いて歩いているときだった。
可愛らしい、鈴の音が、聞こえてきた。
前を向くと、小さな女の子が、鈴のついたプレゼントを持って、親と一緒に笑顔で歩いていた。
そうだ、クリスマスが、近いんだ。
忘れかけていた、大好きなクリスマス。
鈴の音が遠くなっていく度、顔が綻ぶ。
なんの根拠もない不安が、鈴の音と一緒に振り落とされた気がした。
小刻みに震える貴方の手が、私の頬に触れた。
「温かい。貴方は、ホッカイロみたい」
冷たくて小さい貴方の手は、優しく私の頬を撫ぜる。
「もう、くすぐったいよ」
そういう私だって、貴方の手を振り払おうなんてちっとも思わない。
こんな都会に雪が降って、イルミネーションが街中を駆け巡ってる今日この頃。
冷え性で、外が苦手な貴方が珍しく、外に出ようと誘ってくれた特別な日。
私は貴方の手を優しく握る。凍える指先はまだ、震えていた。
貴方の頬は、真っ赤に染まっていた。
化粧に興味がなかった私を、外に引っ張りだしたのは貴方だった。
「ねぇ、この口紅似合うんじゃない?」
「こんな色が濃いの、私に似合うかな」
「そんなに濃くないよ。これ、結構色控えめなんだよ。試しにつけてみようよ」
「えー、でも」
「定員さーん!試し塗りしたいんですけど!」
私の意見などお構い無しに、貴方は私の似合う色を沢山勧めてきた。
私は戸惑って、結局最初に勧められた口紅だけを買った。
今は社会人になって、最低限の化粧だけはするようになったけれど、貴方が選んでくれた口紅だけは、私の記憶にこびり付いて、離れなかった。
結局、今日新しいものを買おうと思って手にしたのは、貴方があの時選んでくれた口紅だった。
記憶のランタン……記憶を残せるランタンなのかな?
そういうランタンがあったら、どんな記憶を残そうかな。
初めて雪に触れた、あの日。
私の書いた物語が同級生に面白いと言われた、あの日。
初めて音楽を聞いて泣いた、あの日。
どれもこれも、私が生きた証。
私がこの現代に生きた証を、ランタンの中に閉じ込めておけるなら、どんなに嬉しいだろう。
こんなちっぽけな人間が死んだって、誰も悲しまないし、喜びもしない。
でも、ランタンを通して、私という人間を、生き方を知って貰えるなら、そんな寂しさもきっと無くなると思うから。
まぁきっと、そんなランタンはこの世にないだろうから、私は小説を書いて、生きた証を残していく。