西陽に染まる綺麗な向日葵畑。別名、太陽花。
地に落ちていた枯れた向日葵を握りつぶす。
「好き」「嫌い」「好き」……「嫌い」
(…現状を考えれば当然か)
初恋なんて実らないものだ。それも学生時代の。
それも、もう結婚した相手へなんて考えるだけ毒。
それに釣り合わない。まさしく太陽のような人だった。
手をはたいて屑を落とし歩き出す。
カップルだらけの花畑。見るだけ目に毒だ。
向日葵の向く方ならきっと、良いことがあるに違いない。けれど西日が痛くて仕方ない。
太陽に背を向け、安宿たるアパートメントのドアを開けた。
同居人たる、人間的に同レベルの居候のあいつはまだ帰っておらず、冷蔵庫のドアを開けるも空っぽ。体が重くて仕方ない。
目を背けるだけで良いのか。
何をすべきか。
嫌だ、嫌だ。生活保護を丸々入れたはずの通帳から、知らないうちに1、2万円減っているのに気づいて舌打ちをした。あいつめ。
窓の向こうはマンションの壁。
日光すら届かないここでは気力の湧くはずもない。
「クソ……」
枕に埋めた頬に湿り気を感じた。
【kiss】
掬い上げるように右の手を取って、優しく薄紅の爪に唇を落とす。少しかさついた感触が、妙に、「らし」かった。
特に手入れもしていないと思うから仕方ないか。
及第点だと微笑んだけれど表情は見えない。
段々と、段々と上り詰めていく気がする。
過ぎてはいけない境はとっくに過ぎていて、癖になった感覚に身を委ねて甘受して。
返るわけもない反応、見知ったことばかりの永久機関。
繰り返した行為はどうしたって空虚。
一度だけ。もう一度。
恋愛小説の、ロマンチックなキスシーン。
それを夢想しもう一度。
そして、目を閉じて。
自分の掌にキスを落とす。
リップクリームも塗っていない、跡はつかない、幾度も自らで舐めた、触れた、噛みしめた、遠慮のない唇。
こんなことに意味がないのは分かっている。
「痛いこと」なのも分かっている。
もし、誰かに見られたら消えてしまいたくなるであろうことも分かっている。
けれど幸せそうな恋人に憧れた、仕方ないじゃないか。
ふと、電車の音がした。
はっと気が付いた。
真っ暗な蛍光灯とべたつく掌、これが16歳の春なんて。
こんなのって、ないじゃん。
鱗も、顎下の逆鱗もない頬をそっと撫でた。
僕らにとって1000年なんて、一眠りで過ぎ去るような時間でしかない。
太鼓の昔から存在してきた生命体には、時間なんて希薄で意識する価値もないもの。
けれども、今隣で眠る彼女にとっては違う。
一生を10繰り返しても埋められるかどうかわからない、だから使い潰すなんてあまりにも勿体無い、だから頑張る。後悔なんてしたくない。そう言っていた。
あまりにも儚い、儚すぎる。
そんな生物に執着してしまった。
理由は多々ありお互い既に天涯孤独、だから忘形見なんて者もいない。
ああ、じゃあ僕はそれから何を祈る?
今日、またその次の今日を、どうして過ごせば良い?
「きみがしんだら」
「僕は」
きっと後を追うだろう。