→短編・新番組の洗礼
「やぁ!! 僕は勇者ココ・ロオドル!! みぃんな一緒に踊ろうぜ!」
カラフルなジャージのような衣装に身を包み、派手なポーズを決めるニューヒーロー。
テレビの前に陣取っていた息子はゆっくりと私を振り返った。何が起こったのか説明しろと言わんばかりに大きな瞳が見開かれている。先週も説明したけど、やっぱりムリかぁ〜。
「あのね、冒険王ナカ・ナイモンはさ、泣き虫涙の秘宝を手に入れて、先週で冒険が終わっちゃったんだよ。今週からは……、何だっけ? そうそう、勇者ココ・ロオドルが一緒に踊ってくれるって」
2歳児のプニプニほっぺに、テレビのカラフルな色が写り込んでいる。赤、黄、青、などなど。勇者ココ・ロオドルのきらびやかな衣装だ。
腰をフリフリ、手をゆらゆら、勇者は踊っている。―っていうか、勇者っぽい話もなく、番組始まってずっと踊ってる。
「ほらほら、楽しそうだよ〜。一緒に踊ってみたら?」
無言のまま息子はテレビに向き直った。背中に警戒心が滲んでいる。可愛いよなぁ、ホント。
そしてなんだかんだ言っても、番組終わる頃にはすっかり馴染んでんだよねぇ。
「1年間よろしく、勇者ココ・ロオドルさん」とテレビに挨拶をする私の前で、さっそく小さな背中が徐々に揺れ始めている。
あら、すごい。勇者の踊りで、警戒心は退散一歩手前。ココロオドルの名は伊達ではないらしい。
テーマ; ココロオドル
→短編・ウワサ
ねぇねぇ、知ってる?
ある旅館のある部屋に泊まったらね、
平安時代に転生しちゃうってウワサ。
あっ、初めて聞いた?
そっかぁ〜。
えっとねぇ、旅館の名前は知らないんだけど、部屋の名前は覚えてるよ。
確か、『束の間』!
で、転生先、平安時代って言ったじゃん? 初期位置が固定で御息所っていう、天皇の休息所始まりなんだってさぁ。
肝心の生まれ変わりはね、天皇始まりのとか、女御始まりとか、その辺りはガチャ運とかとか。
ん? 帰ってきたヒトから聞いたのかって?
そんなの知らないよ、だからウワサなんじゃん。
テーマ; 束の間の休息
→短編・大事な思い出
山の山頂にある夜景の見える公園で、一組の若いカップルがベンチに腰を下ろし、会話を交わしている。
二人の距離は近く、親密な雰囲気が伝わってくるが、当時に微妙な緊張感も漂っていた。
「えっと……」
男性が口を開いた。もう何度も同じ言葉を呟いては口を閉ざしている。
眼下の町で夕食を食べ、この公園に来てから小一時間ほどが経過していた。
女性は彼の言葉を待ったり、たまに自分から話をふったりしていたが、いずれにせよ二人の会話のやり取りが長く続くことはなかった。
夏の終わり、涼しい風が彼女の薄いスカートの生地を揺らした。
意を決したように男性が膝の上の拳を強く握った。それまで下げていた顔を彼女に向ける。
言葉を待つ彼女の鼻腔がかすかに膨らみ、少し肩が上がった。
「あの……」
男性は、彼女の待ちわびるような素振りに一旦は言葉を詰まらせたが、何度か首を横に降って気合を入れなおした。
「僕と結婚してください!」
周囲に響き渡るようなプロポーズの声に、彼女の瞳が見開かれる。少し頬が緩み、口元がワナワナと震えながら開く。そして彼女の……――
「は……ッブェックション!!」
ション……
ション……
ション……
山に響くクシャミは、彼のプロポーズの声量を遥かに凌駕していた。
「えぅ……、ご、ごめん。我慢しようとしたんだよ! でも、ちょっと冷えちゃって」
「いや、僕こそごめん。僕がマゴマゴしてたから」
最悪のタイミングに返事を聞くこともできず、男性は「体調、大丈夫かな? 帰ろうか」と立ち上がった。不甲斐ない自分に自己嫌悪を抱くあまり、彼女を置き去りに歩きだす。
「ねぇ!」
背後から呼びかけられ、彼は振り向いた。そこには、力いっぱいのクシャミに鼻を赤くした彼女の明るい笑顔があった。
「私たちが家族になる一番最初の思い出、コントみたいだねぇ」
「それって……!」
「力を込めて『イエス』!」
テーマ; 力を込めて
→短編・小さいけれど大きな幸せ
(タイトル変更 '24.10.7)
―ップシュッ!
「あ~、美味いなぁ」
冷えた缶ビールを一気にあおった僕の声は浮かれている。
そりゃそうだ。
今日一日を振り返ると、ご機嫌にならずにいられない。
奇跡的な一日だった。
通勤では往復とも座ることができた。就業時間内にクライアントやら何やらに時間を取られず、自分の仕事をサクサクこなせた。ペットボトルのキャンペーンで、QRコードを読み込んだら結構な額のポイントが当たった。帰り際にスーパーに寄れば、午前中には売り切れるというコロッケのアツアツが買えた。何なら、最近爆売れで手に入らないと噂のビールまでゲットできた!
「上出来な一日だったなぁ」
ビールで喉を潤して、コロッケに箸を入れる。サクッと衣の音が心地良い。早速一口。ほんわかしっとりじゃがいもの食感と、少し甘めの味付け。
「幸せだなぁ」
しみじみ想う。本当に僕には過ぎた一日だったなぁ、と。
テーマ; 過ぎた日を想う
→短編・その集まり
その集まりの名は明かせない。
目的も会話内容も口外することはできない。
私の明かすことができる唯一の情報は、その集会はロウソクを囲んで星座をなす、ということだ。
え? 星座を知らない? そんなはずはないだろう。
ちょっと待ってくれ。こんなところで話を止めるなよ。まさか君は車座を知らないとは言わないだろう?
そう、車座とは荷車の車輪のように円になって座ること! そう、正解! やっぱり知ってるじゃないか。
つまり、星座っていうのは……――
テーマ; 星座