『遠い鐘の音』
どこかで鐘が鳴り響いている。
反射的に身体を起こし周囲を見渡す。
「ははっ、あんたの故郷は鐘があったのかい?」
「あはは...ええ、毎日のように聞いていたもんで」
恥ずかしさを誤魔化しつつ答える。
故郷を出て街で働くことになったが
どんな運命かここでも鐘の音を聞くとは思ってもなかった。
故郷とは違う音色だがあの重く響く音を聞くと
反射的に体が動いてしまう。
鐘の音を聴いて休憩の指示がでるとこも故郷そっくりだ。
故郷から出たくて街に来たのに、
これじゃあいつまで経っても街に慣れそうにないな。
語り部シルヴァ
『スノー』
静かに降り出す雪を口を開けて待っていた。
口に入った瞬間冷たい刺激が
一瞬脳にまで走ったと思いきや心はポカポカ。
楽しくなって何回も口を開けては飲み込む。
刺激を受けては心躍る。その繰り返し。
辛いこともこれで解決。何度も何度も脳が弾ける。
上着なんて要らなくなるくらいあったまってきた。
もっと、もっと欲しい!
口を開けるだけじゃだめだ。
高い所から思い切りジャンプだ!
これで...いっぱい...!
『えーこちら死体を発見。
原因は薬物の過剰摂取による幻覚や奇行の末
飛び降り自殺だと思われる。どうぞ』
語り部シルヴァ
『夜空を越えて』
普段から手に届かなかった空も今なら届く。
...分厚い鉄さえなければ。
窓越しに見るとビルの群れが光り地上と
空の両方に星が見えるようでまるで別世界にいるみたいだ。
そうしていくうちに雲が地上を覆い隠す。
雲の上は...透き通った宇宙がちらっと見える。
地上からだとぼんやりしていた宇宙が
端っこだけだがこんなにも綺麗に見えるなんて...
空の旅をしてよかった。
普段なら見ることのできない景色だって
見れるんだから...
国を超えて空を超えて、
宇宙の端っこを見ることができて...
いい旅になりそうだ。
語り部シルヴァ
『ぬくもりの記憶』
枯葉に体を埋めて眠る。
こんな寒い日にはこれに限る。
寒い夜はいつも暖かい場所のことを考える。
日が差す日中の公園とか少しボロい四角形の機械とか...
けれど一番頭に残ってるのは、頭を撫でられた時のぬくもり。
小さい頃頭を撫でられたことがよくあった。
今じゃその手はどっかに行ってしまったが...
毎日は鬱陶しかった。
けれどそれよりも嬉しさが勝っていた。
あぁ...今日はやけに寒さを感じない。
あの温もりが私を包んでくれているような気がする。
今日は...ぐっすり...眠れそうだ。
語り部シルヴァ
『凍える指先』
指が痛い。
ポケットに突っ込んでも寒さを凌げてる気がしない。
いつもハンドクリームで保湿できてるはずなのに
指先が乾いて服の生地に引っかかる。
手袋を忘れた。
寒さが指先に刺さって風が染みる。
本当に指先だけが凍っている感じだ。
さっさと帰りたいのに今日は外せない用事がある。
我慢して用事を終わらせないと...
ポケットから手を出して自分の息を吐きかける。
赤くなった手は少し割れてしまった。
あー...また一から手入れし直しだ。
語り部シルヴァ