『揺れるキャンドル』
真っ暗な部屋の中、暖房の風がキャンドルの火を揺らし
蝋に混ざったラベンダーの香りが温風と共に流れてくる。
キャンペーンのおまけで貰ったアロマキャンドルだが...
なるほど、心が安らぐ。
初めて使ってみたからどんなものか期待を膨らませすぎて不安だったが、その不安も火のゆらぎと香りが打ち消してくれた。
ラベンダーの香りもキツすぎずちょうどいい香りの濃さだ。
堪能していると、暗闇からボワッとスマホの画面が光る。
設定していたタイマーの時間が来たようだ。
想定していたよりも早い。電気をつけようか迷ったが
あと10分追加してスマホの画面を閉じる。
今は、もう少しこのままで...
語り部シルヴァ
『光の回廊』
セーブを済ませて一歩ずつ歩く。
いよいよラスボスまで来た。
沢山のものを奪われた。沢山の奪ってやった。
あとはお互いの命をどちらかが奪えば全てが終わる。
下からライトが光って空へと柱を築き上げている。
なんて悪趣味だ...
大きな扉を思い切り押す。
重い音をしながら扉が開く。
長い道に敷かれた赤いカーペットの先には...
「待ってたよ。魔王様。」
王冠を被った勇者が玉座に座っていた。
「何もかもを奪ったお前の命さえ奪えれば...!」
剣に魔力を込めて勇者に斬りかかった。
語り部シルヴァ
『降り積もる想い』
外は雪が降り続けている。
朝から既に降っていて一度も止まなかった。
明日は積もるだろうか...
電車が動く程度にはして欲しいな。
そう思いながら窓を見ていると
持っていたスマホが震える。
"明日は行けそう!何時に集合する?"
少し考えてからすぐに指を動かし返信した。
もう何回もデートしたのになあ...
相手のことを考えると一気に暑くなる。
着ていた上着も脱いで
コタツの電源を切りたいと思うくらい。
...明日は晴れるといいな。
語り部シルヴァ
『時を結ぶリボン』
あるお菓子を買ってラッピングを頼んだ。
すると店員さんがどこか懐かしそうな顔をしてラッピングを始めた。
気になって尋ねてみると、どうやら昔僕と同じ注文を受けてラッピングをしたそうだ。
同じ注文内容だったからふと思い出したようだ。
そのお客さんのことについても話してくれた。
お菓子を自分ではなく孫や娘のために買っていたこと。
喜ぶ顔が見れて嬉しいから常連さんレベルで買いに来ていたこと。
たまに孫を連れてきて自慢していたこと。
しかしある日ピタリと来なくなったこと。
そこまで聞いてやっと僕のおばあちゃんのことだとわかった。
その孫は僕だと言うと店員さんは嬉しそうに
「大きくなったねえ」と言ってくれた。
語り部シルヴァ
『手のひらの贈り物』
ついさっき酔っ払いに絡まれていた人を助けた。
抵抗はできたが相手は酔っ払っているだけで悪意は無いから。
なんて言って絡まれるのをただただ受け入れていた。
幸い酔っ払いは千鳥足で
どこかへと去っていったから大事にはならなかった。
人の力になれて良かった。
絡まれていた人に気分や体調に変化が無いか聞いて
その場を去ろうとした。
すると「少し待っててください」と彼は走り出した。
彼はすぐに戻ってきて私に缶コーヒーを差し出す。
「あの、これ。これくらいでしかお返しできませんが...」
受け取った缶コーヒーは
手袋越しに伝わってくるほど温かかった。
語り部シルヴァ