冬は寒い。
吸う空気が冷たくて
鼻も喉もキーンと痛い。
でも冬は独特の乾燥した匂いが漂っていて
私はその匂いが好きだ。
いつもと変わらない12月のある日、
冬の足音はすぐそこまで
じゃあ、出迎えてもらおうと
私は毛布にくるまる。
こんな寒い日は誰も外に出ない。
冬の空を全部全部一人占めにするんだ。
無理に笑ってみせた。
遠すぎる冬の記憶。
一生一人でも
二度とここへは帰れなくても
待っている景色はきっと綺麗。
それは私だけの冬だった。
さよならって言ったって
簡単に冬は去ってはくれないし、
それで全て終わってしまうような
季節じゃない。
変わらない日々が
嫌と言いつつも何となく好きで
空も星も
私のことも
いつか好きになれますようにって
流れ星に願ってみたり。
"Good Midnight!"
冬の冷たく強い風で
季節外れの風鈴が鳴り響く。
贈り物が届いていた。
ダンボールに
とてもカラフルな絵が描いてある
メモが貼ってあって
なんの意味かわからなかった。
ダンボールを開けても
中身は無くて
ただの空っぽの箱。
馬鹿らしくなって
ゴミ箱に捨ててしまった。
けどメモは綺麗な絵に見えたから
冷蔵庫にでも貼っておくことに。
それから何日も何日も過ぎていって、
贈り物のことなんか忘れかけてた頃。
一通の手紙が届いた。
そこには
前に届いた荷物に貼ってあった
メモ用紙の絵に
見覚えがないのなら記憶に障害があるかも。
そんな内容の手紙だった。
差出人はもちろん私。
物忘れが少し酷いなと思っていたけど
ここまでとは。
"Good Midnight!"
なんで絵なんだろうと
ふと思った。
記憶のことを伝えたいなら
手紙みたいに文字でいいはず。
色々探っていると、
手紙の裏には
誕生日おめでとう、と書かれていた。
なるほど、忘れる前のプレゼントのつもりか。
絵をもう一度よく見てみると
なんだか懐かしい風景が思い浮かぶ。
忘れたくなかった
大好きな人たちが住む
大好きな峠。
贈り物の中身は
このたくさんの感情だって
この色が教えてくれて。
凍りてつく星空を
暖かく白い息を出しながら
何となく眺めていると
星空に何故か触れれて、
ひんやりとした感覚を味わった。
そのうち
ポロッと星が落ちてしまったけれど、
流れるように落ちたので
流れ星。
そう綺麗に呼ばれて
本当によかった。
自分の手がわからないほど
空は暗いのに
冷たい夜空に手が届いていて
サラッとしていて
星がある所はザラっとしていて。
まるでここは夢のよう。
雲もふわふわとこちらまで来る。
もちーっと伸びて
さっと離れていく。
"Good Midnight!"
何もかもクソみたいだ!って
どうでもよくなって
上なんか見てなかった。
真夜中には
こんなに面白い星空があったんだ。
君と紡ぐ物語は
何度も途切れて
白紙のページも
いくつかあって。
でも何故か心惹かれるストーリーで、
1歩挑戦することが
自分の成長になったり、
時には修羅場となったりと
運で化けるってのが
全部詰まってた。
緊張して手も声も震えた。
立ち向かう勇気が
どこにもなかった。
そんな時友に助けられ、
選択肢がこれ以外ないって
思い込んでる友を助け、
誰かが誰かの未来を作り
また誰かも誰かの未来を作る。
肌触りのいい物語。
何をするにも
腹は減ってしまう
当たり前の日常。
それすらも紡がれていく。
ずっと忘れないように
記されていく。
たまに過去が恋しくなって
振り返って、後悔して、
あの時こうしていればなんて
考えてしまって。
涙が零れて滲んでも
過去は滲んでくれなくて
また悔しくて。
"Good Midnight!"
これは私のことを書いた
私の日記と私の物語。
私の全てが君で、
君の全てが私。
いつかの
大好きだった本。
大好きだったアニメ。
大好きだったゲーム。
大好きだった人。
全部気づいたら変わってて
ずっと好きでいることは
難しかった。
飽きたり、熱が冷めたり、
ふと懐かしくなって
全部を一気に摂取した。
幸せって多分こんな感じ。
そう思えるほど満たされてた。
今が幸せならそれでいいって言葉が
1番似合ってる。
気持ちが離れつつあるから
ずっとこうしているのは
きっと無理。
でもこの満たされている感覚は
他では味わえなかった。
最後にどんでん返しされる本を
読んでいる時も、
つまらない日々から主人公を連れ出すアニメを
見ている時も、
自分の好きな要素が詰まったゲームを
している時も、
誰かを追いかけている時も。
これからも増えていって
その度に減っていく
私の大好きなもの。
いつかきっとまた
私の幸せの糧となる。
"Good Midnight!"
大好きって思ってたはずの
失われた響き。
もう大好きでは
無くなったかもしれないけど、
心に仕舞っておきたい
何かがそこにはあった。