心は、いつもクルクルと変わります。
私など、昨日決めたと思ったことも、朝になったら違うことを考えていたりしますから、全く厄介で信用などできたもんじゃありません。
心なんて最初から最後まで迷路だらけで、それをも楽しめる人が結果、制することができるんじゃないかと。
でも、一度の人生で制することができなくてもいいと思いませんか?
焦ることも、比べることも要らない。
これまでもたくさん旅をして、これからもたくさん旅をするのですから。
あんたの背中から大きな羽根が出てるんやけど、その羽根は何なん?
入院中のおばあちゃんに聞かれ、
何言うてんのよ?羽根?
どこにそんなんが生えてるんよ、よう見てよー、もう!!
と、話しを勝手に終わらせて、そそくさと病室を出て来ました。
昔々、おばあちゃんに助けてもらったキンモクセイの木の精だった私は、恩返しがしたくて、おばあちゃんの側で生きることを選びました。
もしかしたら、ずっと前からこの透明な羽根が見えていたのかもしれません。
あんたはいつもキンモクセイの、いい香りがするね、そう言っていましたから。
もうすぐお迎えが来ますね。
お別れの時です。
キンモクセイの香り、どうか忘れないでください。
またいつか、おばあちゃんの側で生きてみたいです。
凍える朝、駅前からタクシーに飛び乗って君のいる病院に向かった。
いつもの入口ではない場所を通り、エレベーターに乗る。
14階の部屋の前で深呼吸をしたあと、ゆっくり扉を開けた。
酸素のチューブはまだ鼻に入っていて、まるで眠っているかのような穏やかな顔の君。
ただ側にあるモニターだけが、いつもと違って沈黙を続けていた。
窓の外、ビルの窓ガラスに朝日が反射して、キラキラ光って綺麗だったな。
雲ひとつない、迷いのない青い空だった。
君がひとり静かに旅立った日のことを忘れないよう、ここに記す。
たくさんの愛をありがとう。
彼岸花が、ゆらゆら揺れて、ウロコ雲が空いっぱいに、ふんわりと浮かんでいる。
僕はスマホを取り出し写真を撮る。
スマホの中は君に見せたい写真で溢れ返っている。もう何枚撮っただろう。
どこで撮ったのかも忘れてしまったものや、君に見せても「何これ?」と全く興味を示してくれないだろうなと思うもの。
たいしたことのない写真ばかりだな。
「ねえ、見て!空いっぱいに龍のウロコだよ。手が届きそう!」
秋の訪れとともに、君の声がまた聞こえて来る。
キラキラどころではない、ギラギラ、ジリジリ、肌が焦げるのではないかと思うくらいの太陽が、今日もますます存在感を増している。
僕は水着になるのは恥ずかしいので、Tシャツに短パンの姿で、リクライニングチェアに横になり、時々ビールを飲む。
暑いな。暑いけど、いいもんだなと思う。
こんな時間も幸せだなーと思う。
マンションの小さいベランダで、スマホから流れる波音に耳を澄ませて。