"安心と不安"
便りが無いのは良い便りとはよく言うが、それは誰かを心配をする自身の心を窘める言葉に過ぎない。
この家の玄関の戸を押して出た君は、3ヶ月音信不通になっている。
落ち着いたら連絡すると言う言葉を信じて待っているものの、心を落ち着かせて待っていられる人がどこにいるだろう
心配するから便りを出せ。と言う言葉は好かない
好きなようにするのが一番幸せだから。と、おもっていたのだけど
そろそろこちらから連絡するべきかと言うところでひとつの便りが届いた。
届いたのはたった10文字すら満たさない一言
それだけだった。けれども、十分すぎる便りだった。
さて、こちらは向こうが嫌になる程長い便りを寄越してやろう。
"逆光"
暁
君は起きて私を叩き起こした
何度も鳴り響くスマホを叩き取り、画面いっぱいに表示されている君の名前を見る
私は二度寝した。
東雲
君は自転車に乗って来て私の家の玄関の扉を叩いた
朝支度を始めている私は呆れながら玄関に行って出迎えた
私はふざけ始めた君を締め出した。
昼下がり
車も少ししか通らない森に囲まれた歩道を歩いている
歩くだけの道に飽きたらしい君は次の信号まで競走しようと息巻いた
私は一歩目で転んだ。負けた。
黄昏
絆創膏を貼ってもらった膝を気にして歩く
楽しかった、なんて笑いながらいう君の声を静かに拾った
キラキラと笑う君の笑顔は今は見れなかった
私は背負っている光が明るすぎる君をずっと見ている。
ある夜、何だか怖い夢を見た。
内容が朧のようで曖昧だけれど、ぱちっと目が覚めてしまって、恐怖を心に抱えたままでは目を瞑ることも億劫だった
そういえばと思い立ち、隣の部屋で寝ている兄に押し掛けることにした。
その為には、ベッドから立ち上がりドアを開けて廊下を歩く必要があるけれど、1人でいるよりかはきっと何倍もマシ。
勢いのまま立ち上がってドアを開けて、突き当たりにある兄の部屋のドアノブに手を伸ばす。
後ろに何かいる
そう感じたのは直感でしかなかった。
理由などひとつもない。けれど、確信した
そのまま兄の部屋に入ってしまえばいいものを
身体が勝手に、振り向く
気配がするのは今いる場所とは真反対の廊下の突き当たり、物置部屋の扉からだった
絶対いる。なにが?怖いどうしよう
このまま兄のところに行けばどうとでもなる。
けれども扉から目を離せない。
怖い、怖い、怖い、怖い!
見ている扉のドアノブが下がる。
そのまま音もなく開いて、目にする
黒い、モヤのような物体が淡い相好を抱えた能面を付けている。
見た瞬間、心の中がズンと重くなったのを感じる。
立っていられない。
私に気付いた能面は、するすると私に近付いてくる。
近付いてくると同時に、脚が折れ曲がってペタと尻もちをつく。
ひんやりとした廊下がやけに生々しい。
声が出ない。
遂にそれが目の前まで来て、諦めた瞬間に目が開いた。
見慣れた、私の部屋の天井。
"こんな夢を見た"
"タイムマシーン"
それに乗って君はやって来たという。
くだらない。何言ってるんだこの不審者
鼻高々に説明している君の話をひとまず最後まで聞いた後、間髪入れずにそう言い放った。
何だか嬉しそうにしている君に酷く狼狽える。
興味が無いわけではない。未来の技術
未だ嬉しそうにしている君の後ろでぷすぷすと煙を立てている機械は、それと言っても過言ではないほど精緻なものらしかった。
視線に気付いたらしく、気になるのかと茶化された。
私は一つ咳をしてから平静に否定する。
未来から来たのならば何をしに来たのかと尋ねれば、
君に一つ咳をされてからそれを言ってはならないとはぐらかされた。
バタフライ効果、蝶の一つの羽ばたきが要因となり世界の裏側に竜巻が発生するように
何かを私に伝えて未来で大きく“何か”に変化してしまっては困るという。
けれども、私のそばを離れたくない。行動を共にさせてほしいと変なことを言ってくる。
不審者と一緒に行動するだって、冗談じゃない
当たり前に断り、身を翻してその場を離れようとする私の後ろで君は叫んだ
それは、私にしか知り得ないことだった
すぐさま駆け寄り首元まできっちり隠している外套を掴み上げる
キッと睨み付けて詰問する。そんな私には慣れているとでも言いたげな素知らぬ顔で、こう言った。
「君が、大切なんだよ。どうしても一緒にいたい」
馬鹿げたことを。
先ほどの“私にしか知り得ない”は厳密には間違いなのだ
私と、“あの子”しか知り得ないこと。
私がいない未来で何が起きているという。
好奇心をくすぐられ、思わず笑みが溢れる
それを知っていたらしい、君は不敵な顔で笑った。
嗚呼とんでもないものに捕まってしまった!
"特別な夜"
ある夜になると、星空が輝き出す
キラキラと眩いほどに煌めき始め、昼間と相違ないほどになってしまう
そうなってしまっては困るので、夜空へ飛んで星を摘み取る
ぽこっと手元に残った星を口に放り込んでみると、
とろとろとチョコレートのように溶けてしまったり
ふわふわとマシュマロのように柔らかくなったり
はたまたパチパチととある駄菓子のような驚いた食感になる
雲に座って、未だ光る街並みを見つめながら星の食感を感じている。
…ええ、ええ楽しいですとも
ですけれど、夜空が明るくなってしまっては困りますものね!
美しさというものは、多ければいいというものでもない
儚さが愛しいと感じるように。
夜が明けてしまっては戻れない
白んでくる空に慌てて駆け降りた。