ᴸᵒᵛᵉᵧₒᵤ
色んなことがあったよね。今これを読んでいるってことは、もう全部解決したかな?どうだろうね。なるべく君にとっていい状況であることを願うよ。君とは結構長い付き合いだけれど、君のことを今でも知り尽くせてない。もっと自分のこと教えてくれたっていいのに。もしかして、僕が喋りすぎ?そうなら今度あった時気をつけるから言ってよ。『自分のこと喋りすぎだから私に変わって!』って。前置きが長くなったね。こうして手紙を書いてあるのは僕の今の状況を全部残しておこうと思ったから。どこに出すって訳でもないよ。家の中に隠しておいて、もし見つかったら読んでくれるかなって思って。見つかんなくてもいい。僕の気持ちの整理の一貫としてこうして筆をとったってわけ。どうせ見つけたって返事のひとつもくれないんだろ。今僕は家を出てマンションの一室を借りて一人暮らししています。帰っても家に誰もいないのは結構寂しいけどそれなりに自由にやってます。仕事も順調で同期とも良く酒を飲む仲だよ。君はどう?上手くやってるかな。あんまり大人数が好きじゃない人だったよね、君は。僕も君と仲良くなるまで結構かかった思い出があるなあ。まだサークル入りたてで仲のいい人なんていなかった時、よく飲み会に行ってたけど一度も来なかったよね。おなじサークルだって知ったのなんか入ってから3ヶ月は後だったし。ただ、あとから考えるとあれは一目惚れだったのかも。一度も話したことがなかった時から君が一人でいるのをよく見かけた。あの人今日も1人か、なんて思いながら2週間くらいは遠くから見ることくらいしか出来なかった。初めて話した時の事覚えてる?今日こそは話しかけてみようってこっそり実は緊張してて、あんまりにも面白くない話題で声掛けちゃったよね。ごめんね。謝っておく。何話したかなんて覚えてないけどあんまり盛り上がらなかったことだけは覚えてる。あとから失敗したなあってひとりで反省したんだよね。そこからずっと君のことが気になってた。なんでかは分からないけど一緒にいてどこか安心したし。
太陽のような
世の中には2種類の人間が居る。コミュニケーションを苦痛と思わず廊下の真ん中でだべったりトビラを塞いで話し込んだり授業中先生に臆せず意見できる人種と、コミュニケーションが苦痛でたまらなく、2人組を作るのに手間取るタイプ。もちろん俺は後者だ。コミュ障クソ陰キャでSNSで繋がってるリア友なんてほとんどいない。LINEの友達欄には家族と幼なじみと広告しかいないのだから末期も末期。修学旅行の班決めとかオドオドしているうちに余って数合わせにされた。休み時間は自分の席で伏せて寝てるふりか課題やってるし、放課後マックなんて夢のまた夢。おそろいとかカレカノとか部活で青春とか。縁遠くてむしろ薄気味悪い。自分が遠ざけているっていうのもわかっている。わかった振りをしている。本気を出せば俺だって、なんて何度思っただろう。自分から飛び込んで行ける勇気もないくせに口ばかりは達者で、思考は自由で理想は高い。そのくせ妙に現実を見た振りをするから中途半端で意気地無し。それが自分の自己分析。精度は割と高いと思うしわかっていても改善できない。そんなダメダメな俺だが、今も昔も変わらず追い続けているものがある。幼なじみのマイちゃんだ。ストーカーってわけじゃない。クラスが同じになってくれって神頼みしたり、見かけたら目で追ってしまうってだけだ。俺の中の唯一の小さな青春もどき。ずっと好きだった。ただの初恋。通学路で会ったら少し挨拶して1日中幸せな気持ちになる。もし俺がいわゆる陽キャで、すごいスマートなイケメンだったら。運動部に入ってて活躍してて勉強もスポーツも抜群だったら。授業中グループになって話すのも人を笑わせるのも得意で、あぶれ者にも気を使える優男だったら。そしたらマイちゃんにアピール出来るのかな。好きになって貰えるのかな。バレンタインチョコとか貰えるのかな。今マイちゃんはクラスの人気者の倉田と付き合っているらしい。サッカー部でエースで。料理も上手でバレンタインは逆チョコで手作りの焼き菓子をマイちゃんにあげたらしい。きっと住む世界ごと違うし、マイちゃんに釣り合うことなんてないし、思うことすらおこがましいそんな俺がマイちゃんを好きになった理由なんて単純なもので。マイちゃんの母親と俺の母親の仲が良くて小さい時は幼稚園以外の場所でも集まって遊ぶ機会がいくらかあった。公園の水道で遊んでた時、勢いが良くて俺の服がビシャビシャになってしまった時があった。マイちゃんはポシェットからハンカチを出して俺に手渡した。
「これかしてあげる」
「え、ぬれちゃうからいいよ」
「つぎあそぶときかえしてね」
マイちゃんは結構押しが強く、受け取るまで諦めない雰囲気があったのでありがたく貸してもらい、水で濡れた顔とか服とかを拭いた。シロツメクサの刺繍が入った水色のハンカチだった。シロツメクサのこと好きなのかな。俺はシロツメクサとマイちゃんが結びついた。マイちゃん自身に興味を抱いたのはここがはじめてだったかもしれない。
「ゆうすけくん。これあげるね」
幼稚園の自由時間で1人花壇の隅でダンゴムシを眺めてた俺に近づいてきたマイちゃんはシロツメクサを編んで三つ編みになった草を俺に渡してきた。
「…ありがとう。これどうしたの?」
「かわいいでしょ?みつあみ」
あまり回答にもならないような返答に疑問を返した。
「どうしてぼくにくれるの?」
「ゆうすけくんににあうから」
「そうかなあ」
なんて会話の後シロツメクサの三つ編みを俺に押し付けてマイちゃんは去っていった。
いくつもの思い出の中にマイちゃんとシロツメクサがいて、俺のことを見ている。小さな小さな邂逅が少しずつ幼い俺に刷り込みのごとく染み付いた。マイちゃんのことを好きだと自覚したのはだいぶ後だった。きっと本当はもっと前から好きだったとは思うけれど。中学2年生の秋頃。マイちゃんが同じ塾の3年の先輩と付き合っているという噂が回った。実際付き合っていた。マイちゃんと俺の関わりは親のこともあり細く長く続いていて、だから本人に実際に聞いたのだ。
「今帰り?」
「ああ、見た通り」
「私もひとりだから一緒に帰っていい?」
「いいよ」
テスト期間でお昼前にひとりで下校していた時、マイちゃんが声をかけてくれたので一緒に帰ることになった。
「いつもの友達は一緒じゃないの?」
「うーん、まあね」
「…あ、まあそういう時もあるよね」
「あはは、気いつかわないで。大したことじゃないし」
「3年の先輩と付き合ってるってほんと?」
「ああー、うん。そうだよ」
「へえ」
「聞いといて興味ないでしょ」
実際そこまでの興味はなかった。どこか衝撃というか、知り合いの浮ついた話にどこか疎外感があったとかそれだけ。
最後の分かれ道の前に、マイちゃんが「ちょっと待って」と言ってカバンから何が取り出して俺に差し出した。シロツメクサの押し花の栞だった。ライトグリーンの台紙とシロツメクサがラミネートされてしっかりとしたカード状になっている。
「あげる。誕生日プレゼント」
「え、あ。ありがとう」
「図書委員でたくさん作ったの。良かったらつかってね」
「わかった。使わせてもらう。」
突然で驚きはしたが嬉しいのは嬉しかった。マイちゃんから何がくれるなんて珍しかったし。
「マイちゃんって昔からシロツメクサ好きだよね。理由とかあるの?」
なんの気ない質問だった。少しだが気になっていたことではあった。
「…好きってわけじゃないよ。でも、強いて言うなら花言葉、かな」
「幸せになれそうな気がするでしょ」
そこまで言って、ちょうど分かれ道についたので、じゃあまた。なんていって分かれた。
俺は家に着いて真っ先にシロツメクサの花言葉を調べた。「幸運」「約束」「私を思って」
たしかに素敵な花言葉だし、好きになるのも頷ける。だか、俺にそれを渡してくるっていうのが分からない。まあただ好きなだけなんだろうが。
2ヶ月ほどしてマイちゃんと先輩が別れたと聞いた。心のどこかが緩んだような、強ばった何かが解けたような感覚がしておかしかった。でもまた程なくして今度は違うクラスの放送部の奴と付き合っていると聞いた。こんどは。その次は。彼女は短いスパンで別れては付き合ってを繰り返していたようだ。それ自体は彼女の自由なのだが、どこか落ち着かないというかモヤモヤした思いが胸を巻いていた。
いつだったかマイちゃんの元カレと話す機会があった。
「お前マイの幼なじみなんだっけ?」
「そうだよ。特に仲がいいってわけでもないけど」
「なんだ。でも、それならちょっと愚痴聞いてくれよ」
「マイちゃんの?」
「そうそう。俺割とちゃんと好きだったつもりなんだけど振られたんだ」
俺はそいつの方を見て静かに聞く。
「『嫌いじゃないけど、恋愛的なドキドキは感じないし好みが合わないから違う人との方が幸せになれると思う』って」
落ち込んだ様子の同級生を眺める。可哀想だが、それをどうして俺に話すのか。どういう反応を求めてるんだか分からない。
「だからさ、やめといた方がいいとおもう」
「何が?」
「マイのこと好きなのを」
そんな言葉がこの男の口から出るとは思ってなかったからびっくりして男を凝視する。
「なんで俺がマイちゃんのこと好きだと思うんだ?」
「お前良くマイのこと目で追ってるだろ。俺もそうだから、わかるんだ。マイのこと見てると割とお前と目合うし」
俺が、マイちゃんのことがすき?そんなことを思ったことなんてなかったが、どこかじんわりと納得してしまう。
「あいつなんの気もないのにすごい思わせぶりっていうか自分のことが好きなんじゃないかって勘違いさせられるんだよ。多分、素なんだろうけど」
「それで告白してこのザマだよ。一瞬でも夢を見せてくるんだから悪魔だよな。」
マイちゃんの途切れることのない彼氏はこういうことだったのか、と思う。それよりもどこか現実じゃないようなふわふわとした思考の中自分がマイちゃんのことが好きであるという認識が身体中に回る。好き、好きだ。たしかにこれは、
「お前に話しかけたのはただの忠告だよ。マイのことが好きなら付き合いたいなんて思わない方がいい。上げて落とされんの結構きついから。俺の事好きなんじゃないかなんて思わない方がいい。よっぽど自信があるんじゃなきゃな」
いつの間にかその男はいなくなってて、俺はその場に立ち尽くしていた。身体に毒がゆっくりと回って回りきったみたいなジクジクした甘みがそこにはあった。…そっか俺マイちゃんのこと好きなんだ。
そんな他人からの忠告から自覚した恋心は、だからといって日の目を見ることは無い。マイちゃんは途切れず誰かと付き合っているし、学校で話しかけるなんてこともない。たまにすれ違って話してさようなら。幼なじみだからといって彼女のことを知り尽くしているわけでもないしなんなら好きな食べ物すら知らない。ただ幼稚園からかかわりがあって、意外と押しが強くて、シロツメクサが好きってことだけしかマイちゃんのことは知らない。それでも自覚した以上好きなのは好きだし目で追ってしまうのも辞められない。言われたらたしかに元カレ男ともよく目が合う。…自信なんてないよ、俺のこと好きなんじゃないかなんておもわないし。でも好きなこと自体は簡単にやめられないだろ。
高校生になって。奇遇にもマイちゃんとも同じ高校だった。だからといって特に話すって訳でもなく、帰りが重なったらたまに話すってくらいだ。学校ではそれ以外の同級生との会話はない。あまりにもクラスに馴染めなく友達なんていなかった。そして、マイちゃんは人気者になった。かわいいし、優しいし話しやすい。勉強もできて運動もできるとなれば人気者にならないわけがなかった。さらに住む世界が離れたな。と少し寂しいのと羨ましいので切なくなる。
「あ、ゆうすけくん。」
「…マイちゃん。今帰り?」
「そう。一緒にかえる?」
「帰ってくれるなら」
「そ。じゃあ一緒に帰ろ」
今日は運がいいらしい。マイちゃんと一緒に帰れるなんて。もうすぐテスト期間だねとか、食堂の好きなメニューとか、マイちゃんにとってはなんでもないだろう雑談をしながら家に帰る。そういえば、と思い切り出す。
「マイちゃん今月誕生日だったよね、おめでとう」
「そうだよ。もう16歳なんだよ?ありがとね」
今月中に1度でも会えたらおめでとうって言おうと、ずっとカバンにプレゼントを入れていたのだ。「ちょっとまってね」
といい、カバンをあさりプレゼントを取り出す。
「…わ、いいの?」
きょとんとしてパステルグリーンの包装がされた包みを受け取ってくれるマイちゃんは控えめにニコっと笑って聞く。
「ねえ、今開けてもいい?」
「…ちょっと恥ずいけどいいよ」
目の前でプレゼントを開けられるってどこかむずむずするな。ソワソワしながら包装を解く彼女を見る。
「おおーハンカチだ。…シロツメクサの刺繍、ゆうすけくんが選んでくれたの?」
「そう。プレゼント初心者だからありきたりなのは許してほしい」
シロツメクサの刺繍を少し眺めたあと、マイちゃんはゆっくり口角を上げて見たことないくらい柔らかく笑った。
「ゆうすけくん。ありがとう!大事につかうね」
いつもよりもどこか壁を感じない柔らかな笑顔に、ああ。このハンカチにして良かったな。なんて思って気分が良くなる。単純だ。
「私もポケットに飴はいってたからあげるね。ほんとにありがとう。私、シロツメクサ好きなんだ」
ちょうど分かれ道についたのでここで分かれる。じゃあねまた学校で。なんて言って、学校ではきっと話さないだろう。それでも今日彼女にこれを渡せたから良かったなと思う。彼女に手渡されたぶどう味の飴は、『マイちゃんから渡された』と言うだけで宝石かなにかのように特別に感じる。ああ、やっぱりすきだな。少し赤い日差しが作るカーブミラーの影に深い感傷を感じた。
▶ ▶ ▶
私がゆうすけくんの観察を始めたのは幼稚園の頃だった。お母さんがゆうすけくんママと仲良しで否応もなく私と彼は幼なじみとしてそれなりに時間を共にした。ゆうすけくんは小さいころから不思議な子だった。幼稚園にいる時もみんなと一緒に鬼ごっこをせずに遊具の近くでアリの行列を見ていたり、私が考えたこともないような疑問を大人に聞いたり、ぼけっとシーソーに一人で乗って雲を眺めていたりするような私には何を考えてるのかも分からないし予測もつかない不思議な奴だったので彼がアリを観察するように、私もゆうすけくんを観察してみるようになった。
待ってて
おかしいと思った。世の中には
良いお年を
薄暗い部屋でチカチカ点滅する、まあるい蛍光灯を眺める。今年はもう終わる。やり残したことなんぞは、できたことを数えた方が早いだろうほどにある。缶チューハイとスーパーで買った半額シールのついた弁当を袋から取り出して机に並べる。あいにく今年も年越しを共にするような仲の友人や恋人は作れなかったから、ひとりきりで寂しくいつも通りの夜を過ごす。テレビに映る歌手達は、流行についていけない自分は誰一人と知らない。昔はもっと楽しみだったような気がする。年が明けるのが。初日の出を楽しみにして、オールしようと心に決めて、年越しそばを食べていた。明日になったら新しい一年が始まるなんてとても実感湧かないし、いつもの日常と何ら変わらない。まあ、それでも年は越すのでどうにか実感を持たざるを得ないのだが。あー嫌になる。このまま過ごして寿命まで過ごしたら、なんの実りもない人生になりそうだ。人間、どこかでやる気を出す必要があるんだろう。どーにかなれーてか、どーにかしてくれ
星に包まれて
ただ少し逃げ場が欲しかった。それだけだった。それは本当に少しの間でよくて、多くは望んでなかったしこの息苦しさをエロスだと思うことによって生きながらえようとしていた。
それで、何の気なしに入った個人経営らしきBAR。思うところがあった訳ではない。ただ可哀想でアンニュイな自分に酔いたかっただけだ。それは、BARで1杯飲みながらため息をつこうと思っての行動だった。多くは望まない。ただ、『何者か』になりたかっただけだった。だが今の自分はどうだ?なりたかった何者かになれているだろうか。今の自分を客観的に振り返ると、怠惰でなんのやる気も出ずに、毎日を繰り返すのみだ。そんな自分が憎らしい