光の回廊
一人でいる時間が長かったせいか、私はあまり人とのコミュケーションが上手ではない。悲しいぼっちだった訳ではない。むしろ友達は多い方だったし遊びに誘われることも多かった。それを家庭の事情といい全て断ってきたのは自分だ。特に理由があったわけではない。実際には家庭の事情なんてものなどない。家族とすら良い関係を築けない程度の自分が遊びに行ったところで友人に与えられるものがなにひとつないと思ったのだ。それでも人との距離を測りかねるのはそうやって人との関係を避けてきた自分にあると思うと何が原因であれ全て自分が悪いと思えて来るのだった
明日への光
「ねえ、ずっと友達でいようね」
「急にどうしたん。心配しなくてもずっと一緒だよ。もし離れても、ずっと友達」
「、うん……」
こうやって、本当ではなくとも永遠を約束してくれるヤサシイ友達。“ずっと ”という言葉の重さを舐めてるとしか思えない。“ ずっと”だよ?それともこんな戯言を本当にしてくれるのかな。
私たちは大学生で中学校からずっと同じだった。大学は別々だけど一人暮らしをすることにして彼女のマンションの近くのアパートの1部屋を借りた。今日は私の引っ越しのお祝いとして、私の部屋で呑んでいた。ベランダで綺麗に見える月を見ながら私たちは酒でのぼせる頭を冷やしていた。
私はもうそろそろ寒くなってきたし、と部屋に入ろうとするその子の袖を掴んで可愛子ぶった。
「ねえ。さっきのそれ、『本当』にしてくれる?」
なんて言って、掴んだ袖の布地をきつく握りしめた。こんな試すような自分の行動の意地の悪さに、嫌気がさす。少しだけ触れる彼女の手首が夜風で冷えきって刺さるようだった。その行動に彼女は少したじろいだが、すぐに呆れたような顔で
「疑うのは勝手だけど、ソレを『本当』にできるかはうちらにかかってんじゃないの」
と言った。私は豆腐でもぶつけられた用な顔でぱっと手を離し言った。
「新しい解釈だわ。たしかにそうねー」
「お前はいっつもネガティブ思考すぎるんだよ」
「そんなにハッピーに生きれないもん」
「いま脳内お花畑つったか」
「そこまでは言ってない」
彼女は戻ろうとしていたのをやめてまた私の隣にきた。ポンポンと弾む会話にやはりとは思うが安堵と強い焦燥感が募る。どう表していいか分からないがなんていうか、そう。私は彼女に焦がれているのだろう。灯りに惹かれる虫のように。どこを切り取っても魅力的に映る彼女に対する気持ちは、春なのか、はてはただの友愛や独占欲なのか。
不意に彼女が私を覗き込み言葉を発する。
「ね、」
「なあに?」
彼女はこてと首を少し傾げ息を吐く。私は視線を自然に彼女に合わせる。
「お前のさそういうなんでも疑うとこ本当、めんどくさいけど好きだよ。」
好き。簡単に吐かれる好意に砂糖が溶けきらない紅茶を無理やり流し込まれたような気持ちになる。
「…私も好きだよ。ほんとに、ぜんぶ」
こうも簡単に向けられる好きが、気持ちの重さの違いを見せられているようで。嬉しいけどざらざらして少し居心地が悪い。
「あー信じてないな?…いいよ、『ずっと』が欲しけりゃ、私が毎日証明してあげる。ずっとが毎日続けば、それこそ終わりまで続けばそれは永遠だろ。」
言い終えて、私の手をスリと自分の頬に押し付ける。猫みたいで可愛い。じゃなくて、
「あのさもしかして、結構私の事すき?」
「は?そりゃあそうよ。」
「…んふふ」
「ちゃんとすきだから、だからそんな諦めたがってるみたいなことゆーなよ」
「…うん。ずっと一緒にしようね」
もう不安はなかった。変な劣等感も。あんなに悩んでたなんて嘘みたいで、それはただの杞憂だった。空を見上げると朝日が登り始めていてすこし空が明るくなっていた。また今日が始まる。この焦がれるような気持ちがどうであれ、友達でずっといられるならその正体なんてどうでもよかった。
星になる
「あのね、死んだら星になるなんて嘘」
「…あのさ、なんで?なんで今更そんなこと言うの」
「、怖気付いちゃった。ね。もうやめよう?」
「嘘っていうかさ、言っていいことと悪いことがあるでしょ?どん底にいる人間に付いていい嘘じゃないよ、それ」
「ごーめん。ねえ、やめる気にはならない?」
「わかってたよ。別に本当じゃなくたって良かった。ただ縋るものが欲しかっただけ。でも、与えておいて今更私から依存先を奪うの?」
「そう。縋るものがないならまた一から作ればいいじゃない。何も持ってないなら失うことはないし得るものの方が多いよ」
「わかんないよ。なんのつもりなの。私をどうしたいの。円満に殺したかったんじゃないの」
「別に。やめたの。そんなことするより君は生きた方がいいよ。きっと生きている方が死ぬよりは苦しいから」
「苦しめたいんだね。そこだけは変わらないんだ。」
「うん。できるだけ長く苦しんで。あなたなりの罪の償い方でしょ」
「もう疲れたよ。そう言われたらどうにもできないけどさ」
「がんばれ」
「他人行儀だなあ」
「だって、他人だもの」
遠い鐘の音
目が覚めるとみんなもう教室にはいなかった。また起こされなかったな、と思うも今日はこれ以上ゆっくりしてられない。鍵を職員室に戻して早く帰らなくては。窓から刺さる激しい西日が目に痛い。グラウンドで戦う運動部の群れが現実に引き止める。帰り支度をし、鍵を戻して門を出るとチャイムが鳴った。チャイムを追うように校歌が始まり、近隣住民の迷惑を考えていないのだろう、歩いて20分のところにあるコンビニにいてもまだかすかに校歌が聞こえた。ここに来なくなっても、自分の青春はどんなだったかを思い出す時にこの風景が脳裏をよぎるのだろう。夕焼けとチャイムと、遠くから聞こえる校歌。最寄りの駅、帰りによく寄るスーパー、コンビニ。自販機のサイダー。みんな過去になる時がくる。それはどこか遠い現実で、実感しがたいと思えた。
スノー
陶器の肌とりんごの唇。肌にはできもの一つ無く、大きな瞳はブラックダイアモンドのよう。長いまつ毛に華奢な身体。白雪姫はこういう人だったのだろうか。私が彼女にあだ名をつけるなら白雪姫と呼びたい。嘘みたいな美貌は確かに女王を嫉妬で狂わせることなど容易いだろう。狩人は彼女を助けるだろうし小人も喜んで同居を許す。たとえ死体だとしても王子は彼女の唇に口付けをする、彼女はそんな人だ。白雪姫は心優しいか弱い乙女だ。彼女もそんな美貌を鼻にかけす優しくふんわりとした人だ。美しい人が優しいと下に見られる。それでもまわりの人が白雪にトラブルが降りかかる前に遠ざけるから、彼女はいつも竜巻の目だった。飛び抜けて容姿がいいと女から嫌われるが、白雪は男からも女からも好かれた。彼女と話した人は色んな人から睨まれるが一週間は自慢できる。みんな白雪と話したかった。それでも彼女は同じマンションであるというだけで私を選び、義務教育と高校時代を異物を入れることなく過ごした。私は彼女のことが好きだったが、同時に酷く疎ましかった。好きな人はみんな白雪に思いを寄せ、私を近付くきっかけにする。隣に並ぶなんてごめんで、比べたくもない。加工を通しても、明らかにはっきりと優劣がつく。それなのにそんな気持ちを墓まで隠し通したくなるのは私も彼女の虜だから。その笑顔が私以外に向けられることがないのが、私に劣等感と優越感を刻みつけるのだ。