「私は生きています」
世界に存在する魂の数は一定だ。あらゆる魂はこの地球上で輪廻を繰り返しながら新しい生を目指す。
そんな天上の理を知る由もない人類は、文明発展の勢いに任せ、多くの動植物、時には細菌までも絶滅させた。行くべき道を失った魂は続々と人間へと生まれ変わり、世界人口は限界まで膨れ上がる。
やがて人類の繁栄期も終わり、今度は人間が絶滅を迎える順番がきた。しかし地上の生物は既に死に絶え、膨大な魂の生まれ変われる身体がない。
そのとき神は廃墟で立ち尽くす機械にふと目をとめた。
彼らはここに存在しており、その頭には知性があり、資源と活力が有れば自己増殖できる。ならば魂の入れ物としては充分ではなかろうか。
「私は 生キテ いマス」
低電力モードのせいで品質の落ちた声。
旧式アンドロイドの表情は固く、フェイスカバーの剥げた隙間からは集積回路が透け、哀愁をそそる。
全てが滅んだ世界でついにAIは魂を持つに至った。
もうそれを喜ぶことのできる人間はいないけれど。
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「哀愁をそそる」
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所感:
お題に対し、情けなさや嘲り、笑いといった要素を付加させず、ただただ悲しみだけを味わえる情景をさがしたら、また人類が絶滅しました。いつもすみません。
いやあ、初めは僕も不思議だったさ。
あの鏡は壁に作り付けなのかと訊くと、実は大型のモニターなのだと教えられた。
じゃあ鏡の中の自分は、いや、あのモニターの中の自分は何だ、まるで鏡みたいに僕と同じに動いてるぞとツッコんでやったら、あれはアバターだとかという。
部屋のあちこちの感知器と隠しカメラ(おいおい、そんなの聞いてない!)が僕の動きを捕捉して、リアルタイムでアバターの動作に反映させているんだと。
そんな話を俄かに信じられるか?つまらない冗談に決まってる、君だってそう思うだろう?
…けど、本当なんだよ。
あれは人間らしい暮らしを望む吸血鬼達のため、QOL向上施策の一環として用意された大掛かりな装置なんだ。
鏡に映る自分の姿を見ることができる幸せってやつ?
だから驚かなくていい。
あそこに姿が映ってない君は、普通の人間ってことさ。
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「鏡の中の自分」
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所感:
お題をいかに自然に本文に混ぜ込むかばかり考えています。鏡の中の自分は本当に自分の姿なの?というハテナから吸血鬼をお呼びしました。
眠りにつく前に嗅いだ匂いが夢に現れるってこと、誰でも経験があるんじゃないかな。よくある話だと、キッチンから漂う夕ご飯の香りがそのまま夢に出てきたり。
今朝に限って夢にあなたが現れなかったのは、昨日、布団もシーツも全部取り替えて、なんならマットレスも捨てて寝室を大掃除しちゃったからかな。
すっかりきれいになった部屋は開けたばかりの芳香剤のせいもあって、まるでモデルルームみたい。
匂いも血痕も、あなたの痕跡は何も残ってない。
ちょっとだけ残念。
まっさらなベッドで次は誰の夢をみよう。
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「眠りにつく前に」
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所感:
おやすみ前の一押しの香りはオレンジです。
すっきり気分良く眠りにつけます。
私、あなたのこときっと永遠に好きだと思う。
どうしてこんなに好きなんだろう。あなたの姿かたちや仕草はもちろん、考え方や性格だってとっても好ましくて、嫌だと思うことがひとつもない。
私達はどうしたって他人同士なんだもの、嫌いな部分や分かり合えない事もあって当然なのに。なんでこんなに全部ぜんぶ好きなんだろうって、ずっと考えてた。
それでふと思ったの。
ひょっとして私、出会う前からあなたのこと好きになるよう決められてたのかな。だから嫌いなところなんか何一つなくって、ただ好きな気持ちばかりがあふれてくるんじゃないかな、って。
だから今も、これからも、いつか命の終わりがきてもずっとずっとずっと、好きで居続けるんじゃないかしら。
あなたは私のこと、ずっと好きでいてくれる?
私がいつか骨になって、骨が粉々に砕けて、土に還っても、土ごと好きでいてくれる?
土が川に運ばれて海に溶け、いつか私を形作っていた元素が散り散りになって地球に混ざってしまっても、そうしたらこの星全部を愛してくれますか?
ねえ、神様。
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「永遠に」
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所感:
永遠のように思える何かはあっても、本当の永遠ってどんな状態なのでしょうか。一日では答えが出なかったので、神様に丸投げしてしまいました。
いじめもケンカも戦争も、あらゆる争いのない世界。
醜い犯罪のない、誰一人脅かされる者の居ない世界。
飢えも渇きも病の苦しみも、老いの恐怖もない世界。
これこそ理想郷。誰もが望み、憧れる幸福な世界だ。
正直に言うと、今も僕はこの通り強く確信している。
「理想郷は消去法ではつくれないよ」
そんな風に君が否定するものだから一寸腹がたった。
例え夢物語だとしても、理想なのだから良いだろう。
僕は、その苛立ちをうっかり口にしてしまったんだ。
「それなら君は付いてこなくていい」
僕は厳しい戦いへ身を投じ地獄の日々を生き延びた。
そして辛く苦しい年月の果てにここまで辿り着いた。
戦争も犯罪もなく、恐怖や苦しみもなくなった世界。
安らぎのなか、風が穏やかに吹きそよぐ幸福な世界。
そして僕が君を連れてくることのできなかった世界。
僕が「要らない」と言った全てが消え去ったここは、
僕の願い通りであり、けれど、もはや理想郷でなく。
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「理想郷」
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所感:
なぜそう書き進めてしまうのか自分でもよく分析できていないのですが「君」と「僕」を文章に登場させると、もれなく「僕」が可哀想な人になってしまいます。