モンシロチョウの羽根を背中につけている妖精は、秋になったらピタリと姿を見せなくなってしまう。どうしてなんだだろう。まさか彼らは本物の蝶々と同じくらいに寿命が短いのだろうか。それとも寒くなる前に渡り鳥の背中に乗って南の国へ旅に出てしまうのだろうか。
妖精たちは目が合うといつも草陰に隠れてしまうから、問いかけることもできないまま僕は学校帰りに毎日公園のベンチに座り、ひらひらと飛ぶ羽根の軌跡を目で追いかけていた。
そして僕が大人になるよりも先に、宅地造成のために公園が潰されてしまい、そのまま妖精たちはぱったりと居なくなってしまった。
こんな形で会えなくなってしまうのなら、怖がられても驚かれても、話し掛けてみれば良かったと思ったりした。でも、嫌われたくはなかったから。
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モンシロチョウ
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所感:
モンシロチョウ、場所によっては秋にもいたと思うので妖精達は寿命ではなくやっぱり南の国へ行ったのではなかったかと。
グラスの中で、ストローの触れたところからいびつに溶けていく氷のようだ。
思い出は何度も繰り返し触れてなぞるほど、あっさり擦り減っていってしまう。キラキラした貴石のようだった記憶はいつの間にか、角を失いどこにでも落ちている小石に変わってしまう。
あれは何かとても大切な瞬間だったのだと、ただそんな感覚だけは今もあるのに。あの日の自分がなぜそう感じたのかは、もう何もわからない。
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忘れられない、いつまでも。
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所感:
覚えているけれど、もはや全てが遠い。
そんな感覚を悲しみもなく受け入れている、その事実が少し寂しいとは思うのです。
白いシャツの真っ直ぐな背中。
肩甲骨の影を風が薄く揺らす。
あるはずもない天使の翼の幻。
無いものを見ようとするのは、
無いと分かっているからこそ。
もうあの背について行かない。
どこまでも追っても追っても、
命の終わりまで追いかけても、
振り向かれはしないのだから。
この気持ちが私の心のなかに
ひととき確かにあったのだと
私一人でずっと覚えていよう。
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初恋の日
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所感:
初恋といえば島崎藤村。
まだあげ初めし前髪の…ですね。
何ひとつ余すことなく、なんぴとたりと取り残されることなく、この世の全てがつつがなく穏やかに終わりを迎えられますように。
どうか。
どうかどうか、私も。
明日世界と一緒に消えてしまえますように。
何物をも迎え入れずに生きてきた私は、果たしてこの世に居ることを誰に認められているというのでしょう。
ああ、まさか全てが消え去ったあとにただ一人残されて、自分がこの世界の構成員ではなかったなんて今さら知らされたくなどないのです。
あるいは。
この空も、この街も、道行く人々も貴方も。
全部ぜんぶ私の生きる世界ではなかったのなら、そう、皆、どうぞご無事で。変わりない日を生き延びて。
何もかも明日になればわかること。
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明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。
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所感:
理詰めで考えると願いなどなかったのだけれど、そこからもう一段考えた結果がこれ。
結局、何かしら、希望が欲しいのだ。
同情、相槌、さしすせそ
「さぞ辛かっただろうね」
「仕方ないこともあるさ」
「好きに言わせておきなよ」
「正解なんて人それぞれ」
「それは大変だったね」
刺される、相槌、さしすせそ
「先にこっちの話、いい?」
「しらないよ」
「済んだ話でしょ」
「責任感ないね」
「それで?」
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Sympathy
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所感:
どうしたって分かり合えないものだからこそ、人は他人の気持ちを想像し続けて生きていく。それでいいと思うし、そうするしかないのだ。