「透明な羽根」
きっとまだ透明で見えていないだけで、私たちの背にも羽根はあると思う。
だって想像すれば、少しだけ感じられるから。
そっと開いて、鳥のように青空を飛び回る姿を。
だから今日も私は思い浮かべる。いつか白い羽根を羽ばたかせて、あの空から見える景色を、飛ぶ感覚を。
その時はきっと、一番にあなたに会いにいくから。
「灯火を囲んで」
パチパチと音を立てて小さな炎が明るさと暖かさを周りに与える。
「どう?少しは気分転換になった?」
横に座る君が静かに私に尋ねる。その穏やかな表情に、君の優しさが全部詰まっている気がして、思わず私の頬も緩んだ。
「うん。火を見てると、気持ちが落ち着く。ありがとう。」
私の言葉に安心したように君は笑った。
赤く光る炎も、私の心を癒してくれるけれど、きっと私1人じゃ寂しさが募るだけだろう。
君が一緒に火を囲んで笑ってくれるから、私はまた頑張れるのだ。
「冬支度」
バラバラになった扇風機の部品をそっと拭いながら、一つ一つはめて組み立てていく。
今年の夏もたくさんお世話になった扇風機に感謝を込めながら、押し入れへとしまう。
そして扇風機と入れ違いにヒーターを取り出した。
北風が窓を叩いて冬の訪れを告げている。
夏から秋へ。そして冬へ。
季節は少しずつ、でも確実に流れていく。
家の中も段々と冬の様相になってきている。
もう少し冷えたら、こたつも出さなきゃな。
「時を止めて」
あなたが隣で笑っている今が、とても幸せだ。
だから、神様、今だけは時を止めて。
あなたのいない未来なんて、迎えたくないから。
「行かないでと、願ったのに」
「俺、行こうと思うんだ。」
覚悟の決まった顔で、あなたは私に言った。彼が行こうとしている場所は遠く、無事に帰って来られるかも分からない。
「嫌だ。行かないで。お願い、そばにいて。」
何度伝えても、あなたの気持ちが変わることはなかった。私だって分かっている。きっとこれが最善の方法なのだろうと。
でも、私はあなたの傍にいられるのなら、死ぬことだって怖くはない。
それでも私の声は、願いはあなたに届かない。
「じゃあ。元気で、幸せになれよ。」
去っていく広い背中を、引き止めたいのに声が出ない。
ただあなたと2人で穏やかに暮らしたい。
そんな私の願いは叶うことなく、泡となって消えていった。