「吹き抜ける風」
隣を歩くあなたの顔を見つめる。あなたは何を言ったらいいのか分からなさそうに、顔を真っ赤にして、私から目を逸らして前を見ていた。
気まずくなってしまった2人の間には冷たい冬の風が吹き抜けて、いつもよりあなたが遠く感じる。そのことに何だか悔しさを感じて、あなたの手をとって握った。
驚いて私の顔を見るあなたに、私は満面の笑みを返した。
今はまだ、2人の間には風が吹き抜けるだけの間があるけれど、いつかあなたの体温をもっと感じられるくらい寄り添って歩きたい。
「記憶のランタン」
生きていくのは大変で、現実に打ちのめされて心の中はどんよりと暗くなっていく。頭によぎるのは、過去の失敗や苦い記憶。それらは心をより一層闇で包んでいく。
そんな時、あなたのことを思い出す。優しい笑顔、柔らかな声、抱きしめた時の温もり。今でも鮮明に思い出すことができる。あなたの記憶が、ランタンのように淡く柔らかく光って私の心を明るくしていく。
この温かさが、優しさが、心に灯り続けるから、私はまだ歩いていける。
「冬へ」
冷たい北風が、私の頬から、手から、体温を奪っていく。ほんの少し前までは鮮やかな紅葉を楽しんでいたのに、気がつけばほとんどが散ってしまっている。
冬へのカウントダウンは、知らないうちに始まっていたみたいだ。
やっと、寒さを口実に君とくっつくことができる季節が来る。
「君を照らす月」
「本当にちゃんと、帰ってきてくれる?」
暗闇が支配していた部屋の中に、月の光が入ってくる。さっきは見えなかった君の表情が、月の光に照らされて露わになった。
不安そうに唇をキュッと噛み締め、瞳は涙で潤み、雫が月明かりできらきらと輝いている。
「……うん。ちゃんと無事に帰ってくる。そうしたら一緒に暮らそう。」
もう少しだけ、月が雲に隠れていればよかったのに。
君のそんな表情を見てしまったら嘘をつくしかなくなってしまう。本当のことなど、言えるはずがない。
必死に嘘をつく僕の顔は、月の光に照らされて、君の瞳にどう映っているのだろうか。
「木漏れ日の跡」
鮮やかな緑が、太陽の光に照らされて、きらきらと輝く。地面に映し出される木漏れ日は、木々が風に揺れるたびに形や大きさを変えている。
雨が降れば地面に染みという跡を残すが、木漏れ日は何も残さない。太陽が雲に隠れると、何もなかったかのように消えてその形も大きさも分からなくなってしまう。
いつか私も、木漏れ日のように何も残さず、そこにいたことさえ誰にも知られずに消えてしまうのだろうか。
暖かくてきれいなはずの木漏れ日は、私の目には少しだけ寂しげに映った。