「君が隠した鍵」
君はいきなりやってきて、私の心の扉を開き、そして扉の鍵まで隠してしまった。君のせいで私は心の扉を閉めることが、できず、たくさんのことを知ってしまった。もう、戻ることはできない。
だから、そばにいてくれなくちゃ困る。
せめて鍵を隠した責任をとって、ずっとそばにいてほしい。
「手放した時間」
「私はまだ大丈夫だから。あなたはあなたのできる仕事をしてきて。」
君にそう言われると、うまく言い返すことができず、ただ頷いて仕事に向かうことしかできなかった。
仕事から帰ってきて君が微笑んでくれると、まだそこにいてくれていることにとてもホッとする。そんな毎日を繰り返していた。
けれどそんな日も長くは続かず、君はいなくなってしまった。
君の言うとおり、僕は僕の仕事をして色々な人を助けてきたと思う。でもその分、僕は君と過ごせる時間を手放してしまっていた。もっと話をして、君の声を、仕草を、笑顔を心に焼き付けていたかったのに。
あの時の僕の判断は、果たして正しかったのだろうか。
手放した時間は、二度と戻らない。
「紅の記憶」
血飛沫がパッと飛び散って、私を庇うように前に立っていた人が倒れていく。傷口から流れ出ていく鮮やかな赤が、彼女の命の終わりを示すように床を染めていく。
呆然としながら顔を上げると、この惨状を生み出した人物が次の狙いを私に定めてゆっくりと歩いてくる。
怖い。嫌だ。そんな感情よりも、大切な人を傷つけられたことへの怒りが湧き上がり、炎のように燃えていた。
その記憶だけが私の頭に強く刻みつけられ、その後のことはよく覚えていない。
血の赤と、怒りの赤。残酷なまでに鮮やかな2つの紅に染められた記憶は、今も私の心に巣食い、縛り続けている。
「夢の断片」
柔らかな朝の光で目が覚める。見慣れたはずの部屋が何故だか知らない部屋のように感じた。ついさっきまで違う世界にいたような感覚だ。
まだ頭の中に残っている微かな夢の断片を、逃さないように繋ぎ止めながら急いで紙に記す。
断片を組み合わせていくと、忘れかけていた夢の形が不思議と浮かび上がってくる。
見えてきた夢は思わず笑ってしまうくらい支離滅裂で辻褄の合わないものだった。
この夢の話を聞いたあなたはどんな反応をするのか、想像しただけで楽しい朝だった。
「見えない未来へ」
過去はいつでも鮮やかに輝いているのに未来は目を凝らしても何も見えなくて、いつも目を逸らして後ろ向きに歩いてきた。
時が経った今も未来は見えないままだけれど、隣には君がいる。
君が私の手を取って未来に導いてくれるから、私は前を向くことができる。
たとえその未来が闇に続いていたとしても、私はきっと後悔しない。