〈心の羅針盤〉
中学生の頃はまともだった私の心の羅針盤。
ちゃんと未来を指していて、
夢の実現に必要な道を確実に歩むことが出来ていた。
でも、高校生になり、私の羅針盤は狂い始めた。
第一目的地だった志望校合格を経て、
やる気がふっと消えてしまった。
勉強という正しい方向ではなく、
全く反対の、楽な道を指し示すようになった。
愚かな私は、心の羅針盤を疑うこともせず従い、
自分の間違いに気づいた時には
完全に迷子になっている。
中学生の頃まではクラスの誰よりも早く終わらせていた夏休みの宿題も、今は全くやっていない。
自習室で会った友達の、進み具合を見て後悔しても
家に帰るとSNSに溺れる毎日。
本物の羅針盤は磁石を当て続けたら直るけれど、
心の羅針盤を直す磁石はどこにあるんだろう?
私の羅針盤が正しい道を指し示すようになって、
私がまだ真っ白な夏休みの宿題に手をつける日は
来るのだろうか。
〈またね〉
後で書くかもしれません
〈泡になりたい〉
泡って不思議。
興味のない時には、水と同化して目立たないけれど
一度見始めたら、美しく光っていて、揺らいでいて、
すぐに弾けて消えてしまう。
子供の時みたいにずっとみてられる
人間も泡と似てるかもしれない。
人間なんて街中に溢れている。
興味がなければ
ただの背景のようにしか見えないかもしれない。
でも、一人一人よく見てみれば、
誰もが自分らしく生きていて、輝いている。
みんながみんないい人ばかりでは無いけれど、
悪い人と同じぐらい優しい人がいる。
人間や人と人との関係は
よく見なければつまらないものかもしれないけれど
きちんと向き合えば、泡のように儚く、美しい。
泡がすぐ消えるのと同じぐらい短い人生なのだから
その人生を美しく生きよう。
誰かが「綺麗だ」と思ってくれるような
生き生きとした人間になろう。
つまらない泡ではなくて
見ていて楽しい泡になろう
(急いで書いたので適当です)
〈ただいま、夏〉
思いついたら後で書きます
〈波にさらわれた手紙〉
〈8月、君に会いたい〉
8月になると彼女を思い出す。
暑い日の昼だった。眩しい太陽の下、暇だった私は一人海で泳いでいた。
ふと先を見ると、網がぷかぷかと浮かんでいた。中には大きな青いヒレ。ひょっとしたら珍しい魚かもしれない。好奇心が不安を上回り、私は網を持って陸へ戻った。
中のものを見た時、私は小さく悲鳴をあげた。そこにいたのは、足が魚のような人間、つまり人魚だったのだ。私は目を疑った。夢でも見ているのではないかと思った。というのも、私の住む島では人魚なんて全く知られていなかったからだ。
叫んで、逃げようとしたその時、さっきまで死んだように動かなかった人魚が突然声を出した。歌うようなその声は私の胸を安心感で満たした。
振り返ると、人魚がこちらを見ていた。今まで気が付かなかったが、私と同じぐらいの年齢の女の子だった。長い銀色の髪に、空色の鱗。彼女は晴れの日の海のように美しく輝いて見えた。
彼女がもう一度喋った。私の知らない、音楽のような言葉。彼女の表情から、「助けて」と言ってるのだろうと思った。
「大丈夫だよ。何もしないからね。」
怖がらせないように、出来るだけ笑顔で言った。まだ恐怖は完全には消えていなかったが、今は彼女を助けたいという気持ちの方が勝っていた。
幸い、彼女に怪我はなかった。ただ、誰かが落とした魚取りの網のせいで身動きが取れなくなっていたらしい。網を全部外すと、彼女は太陽のように笑い、海へ飛び込んだ。水平線へ消えていった尾鰭を見て、安心感と同時にほんの少し寂しさが残った。
それから2、3日経った頃、私はまたあの海に行った。砂浜でぼんやりと座っていると、あの歌うような声が聞こえてきた。いつの間にか、そこに彼女がいた。驚いている私の手を、彼女の真っ白な手が握った。何かを握らされたのを感じ、見てみると滅多に取れないご馳走、「泡の子」と呼ばれる深海の植物だった。思わぬプレゼントに唖然としていると、彼女はにっこり笑って泳ぎ去ろうとした。
「待って!」
急いで彼女を呼び止めると、ポケットに入れていた宝石を取り出した。洞窟で簡単に拾える物なので大した価値はない。それでも、網を解いたことと「泡の子」では全く割に合わないので少しでもお礼をしたかったのだ。彼女は宝石を見るとぱっと青い目を輝かせた。
次の日も、そのまた次の日も、彼女は「泡の子」を持って現れた。その度に私は色々な宝石を渡した。私と家族では食べきれなくなった「泡の子」を売るようになってから、私の家は随分裕福になった。彼女の服もだんだん豪華になっていったので、人魚の国では宝石は高く売れるものなのかもしれない。
だんだん私たちは一緒に過ごすようになり、身振り手振りで少しだけ話すようにもなった。同じ歳の子が少なく、いつも寂しかった私にとって、彼女との時間は特別だった。そんな日々が2ヶ月ほど続いてから、急に彼女が来なくなった。毎日毎日、朝も夜も待ち続けたがとうとう彼女は現れなかった。季節に合わせて棲家を変える魚達がいる。もしかしたら人魚もそうなのかもしれない。
一年が経ち、また8月がやってきた。それでも彼女は現れなかった。
紙に彼女と私の絵を描き、宝石と共に瓶に詰めた。瓶を海に投げ込むと、波が遠くまで運んでいった。
あの手紙が彼女の元に届きますように。
そして、もう一度会えますように。