待て
待て待て待て待て
ダメだよそれは
私、それは望んでなかったんだけど?
いや、たしかに応募はした
応募すれば採用される可能性もある
でも私はわざと、採用されるようなタイプのものを外してきたつもりだったのに……
応募だけして、採用された時のことを妄想して、夢を見てたいだけだったのであって、本当に採用されるなんて聞いてないよ?
でも私宛のメールが確かに届いている
普通に生きてて、届いたのが迷惑メールであってほしいと願うことがあるのか?
ある
断言する、ある
今がその時
厳正な審査の上、展示させていただくことに決定いたしました?
決定しないでほしい
だけど……辞退するのはなんか主催者側にも選ばれなかった人たちにも申し訳ないし、かといって私の全力の作品が人々の目に触れるのは耐えられない!
夢を見るだけのつもりが、なんでこんなことに……
クッ、これもわざと採用されないような作品にしてなお採用されてしまう、優秀過ぎた私の業というものか!
この優れた才能め!
この隠しきれない実力め!
夢は夢だから夢なんでしょ!
叶ったらそれは現実なんだよ!
つまらん!
あぁもう
ここまで来たらどっしり構えて、私の夢が現実となるさまをじっくり見てやろうじゃないの!
まったく
全部私が天才なのがいけないんだ!
俺、身代わりなんだけどな
誰も気づかないよ
本物はとっくに遠いところで気ままな生活を送ってるのに
今までバレずにずっとこのままだよ
たしかに、俺自身よくやれてるなとは思うけど
賢者でもない人間が賢者名乗って、嘘の神託をでっち上げてるこの状況
よく疑問の声が上がらないもんだ
まあ自惚れるようだけど、俺の他人になりきるような、そういう能力が優れているのかもしれないな
そもそも、賢者が本当に神託を得ていたか怪しい
聞いた感じ、勝手に都合よく祭り上げられただけみたいだし
神託の内容も、周りの空気を読んでいるのがバレバレだ
だから、偽物の俺でもうまくいくんだろう
こんな面倒なことになっても、賢者本人に恨みはない
状況も状況だったし、おそらく賢者は疲れ果ててしまったのだ
じゃなきゃ俺に役割押し付けて他所で自由を満喫しないよ
俺も俺で、本来なら身代わりをやめたいところなんだけど……
今は、一度身代わりとされたからには、本物がいない現在、頑張って賢者になってやろうじゃないか、という気になっている
どうせ乗りかかった船だ
もともと本物の暗殺を防いで、代わりに死ぬために用意されたのが俺だったのに、いつの間にか本物になる決意をすることになるとは、人生わからないものだな
どうせ本物の賢者は二度と戻ってこないんだし、ここからはきっと、俺流でやっても問題ないさ
賢者の話した神託は多分、賢者がご機嫌を取るためにあの連中に都合のいい内容を作り上げたものだろうな
あいつら、神託とか信じてないっぽかったし、自分の利益のために賢者を利用してたんだろ
反抗したら理由をつけて失脚させるつもりでな
だがもう、そうはいかない
俺はこれでも賢者のことは気に入ってたんだ
接してみたら優しいし、楽しい人だった
そんな賢者を追い詰めた連中に対し、俺は黙っていることはできない
かといって、派手に動けば敗北必至
ここはバレない程度に神託に毒を混ぜ、連中が気づかないようにジワジワと包囲網を構築
最終的に気づいた時には手遅れ、という段階でぶっ潰すとしよう
きっとうまくいく
改革を達成した暁には、少し休みでももらって、もう一度、本物の賢者に会いに行くかな
あー、気温だいぶ低いんだろうな
今日はあまりにも寒い
寒さが身に染みて……
とても、とても、とても、気持ちがいい!
体はもうガクガクしてるけど
冬にする格好じゃないけど
それがいい
「修行でもしてんの?」
いやいや、そんなんじゃないよ
ただ、快感を得るためにやってるだけ
この、身の危険を感じる寒さに包まれるのがどうしようもなく好きなんだ
「前から怪しいとは思ってたけど、やっぱり底知れぬバカだったか」
失礼なことを言う
私はバカじゃないよ
バカっていうのは苦しいのに痩せ我慢してやり続ける人間のことだ
私は気持ちのいいことを楽しくやってるだけだからね
「じゃあ異常者だ」
それは否定できない
でもさあ、異常者で言えばあなたも大概なんじゃないかなぁ
「ん~?
私のどこが異常者だって?」
スマホで自分の顔を見てみなさいよ
この状況でするような表情じゃないよ
私をなんつー顔で見てるの?
「ああ、そのことか
そんなに表情に出てた?」
それはもう
キレイなイルミネーションを見るが如き、キラキラした顔だったよ
顔と呆れの言葉がミスマッチすぎるね
「まあね
私は人がダメージ受けてるさまが好きだからね
あなたが苦しそうだったらなおよかったんだけど」
嗜虐的なやつめ
いや、この場合本人は見てるだけで何もしてないから、嗜虐的とは言わないのかな?
どちらにせよ趣味の悪い人だよね
私もよく友達やってるよ
「お互い異常者だから、相性がよくて友達になれたんじゃないの?
私達の友達になろうなんて物好き、他にいないだろうし」
普通の人間は肉体へのダメージを快感とは思わないし、人の苦しむ姿を楽しめないもんね
「そんな相手に心を許せるなんて、私達、最高の友達だよね?」
最高というか、最狂じゃない?
「それはそうだ!」
さて、このままだと寒さの快感から帰ってこられなくなるから、このへんで帰ろうか
「そうだね
私も、このままじゃ本当に嗜虐に目覚めそうだから帰る」
明日はどんな快感を得ようか
「明日はどんな姿で私を楽しませてくれるかな?」
俺は20歳だ
なに、そうは見えない?
ほう
ではいくつに見えるというのだ?
80歳くらいには見えると?
失礼な
まだまだ俺は若いというのに、それはないだろう
俺はお前らと年齢は変わらんぞ
たしかにな
同年齢の人間に比べて、ちょっとガタが来てるし
流行りの曲はわからず、昭和の曲をよく聴くような俺だ
わからない若者言葉もたくさんある
だが、20歳であることに変わりはない
誰がなんと言おうと、俺は20歳なんだ
ん?
とても20年しか生きてないようには見えない?
貫禄がすごい?
ハッハッハッ
そんなことを言っても何も出ないよ
まあ、だがひとつ訂正させてくれ
俺は20歳だが、20年しか生きていないわけじゃないぞ
もっと長い時を生きてる
20年生きてるから20歳なんだろうって?
いやいやいや、そうとは限らないんだ
長く生きていても、年齢を重ねない場合ってものがあってな
そんなに珍しくはないが
まあ早い話が、俺の誕生日が2月29日だって話さ
4年に1度しか存在しない日が誕生日
つまり、4年に1度しか年齢という数字の上では、年を取らないのさ
うん?
公的には歳を重ねてる?
あのな
公的機関の言うことがこの世の正しさじゃないんだ
俺がうるう年にしか年齢を重ねないと思うのなら、それが真実なんだよ
そういうことだから、同じ20歳として、爺さんと仲良くしてくれや
あっ、いや違った違った
爺さんじゃない
俺は若者だ、若者
三日月女って知ってる?
いわゆる都市伝説ってやつなんだけど
口が三日月みたいに横に長く裂けてるんだって
「それ口裂け女じゃない?」
もとは手術中医者に口を切り裂かれた人で、怒り狂ってその医者の口を裂いて殺したとか
「口裂け女だね」
怨霊だったり、気が狂った人間だったり、パターンも複数あるんだけど、足がとてつもなく早いことは間違いないらしい
「やっぱり口裂け女だよ」
目の前の人に、マスクをした状態で私キレイ?って聞いてきて、キレイって言われたらこんな顔でも?って自分の口を見せて、恐怖した相手を追いかけて惨殺するんだってさ
「紛うことなき口裂け女じゃん」
ポマードが苦手だって話があったなぁ
「口裂け女でしょ」
べっこう飴が好物なんだよ
「完全に口裂け女」
『私のことかぁー!』
「うわぁびっくりした!」
『さっきから口裂け口裂け言って、冗談じゃないわよ!』
「嘘ぉ!?
本物が来た!」
もしかして、三日月女さん!?
『そうです私が三日月女
口裂け女はあとから勝手に誰かが広めた名前
元の私は三日月女なのよ!
おしゃれな名前で気に入ってたのに!
口裂け女なんていう安直な名前に!』
それはムカつきますね
「正式名よりスラングが広まるって、なんか納得行かないですよね」
『そうなのよ!
そこであなたたちに頼みがあるの!
私の正式名称が三日月女だとみんなに広めて!
再びおしゃれな名前の都市伝説として返り咲きたいのよ!』
そういうことなら、頼まれました!
まずはネットで三日月女の名称を拡散です!
SNSならうまく使えばすぐ広まりますよ!
他にもなにか方法を考えましょう!
「できることはいろいろありそうだよね」
『ありがとう
では、任せたわよ!
自分のことだから、私もできることはする!
一緒に、三日月女の名を再び世に知らしめてやりましょう!』
おー!
「おー!」