君に会いたくてしかたない
どうして君は私の傍にいないの?
どうして私は君の傍にいないの?
無理
我慢できないよ
君に会えない時間が辛い
体が震える
写真を見たって満たされない
壁一面にたくさんの君が写ってるのに、全然嬉しくない
パックに入れた君の毛を眺めても、苦しみが増すだけ
本物の君じゃないとダメ
でも君はここにはいない
そうだ、いないなら会いに行けばいいんだ
もうなんでもいいから、部屋を飛び出して今から会いに行こう
待ってて
今から君のもとへ向かうから
思いっきり抱きしめて、それから、それから
アハハハハハハ!!
合鍵で扉を開ける
すると、そこに君はいた
私は思い切り抱きしめる
君も嬉しいよね
私が来て嬉しいよね
だって、こんなにも尻尾を振ってるんだもん
ただいま、ワン太郎
久々の実家は、ワン太郎の匂いだった
嘘だろ
パスワードが違うだと
パソコンで書き溜めた日記が開かない
閉ざされた日記になってしまった
メモにあるパスワードは、日記のものだと思ったんだけど、なんのパスかは書いていない
どうやら違ったみたいだ
このメモだと思ったのに
別に大したことは書いてないと思うけど、何年かぶりに見てみようと思ったのだ
今は紙の日記帳に書いているから、文の書き方も違うだろう
そういうところも楽しもうとワクワクしながら開けようとしたら、このザマだ
しかし、昔の俺はパスワードを書いたメモのヒントをテキストファイルに入力、それをどこかのフォルダにわかりづらい名前で保存していたはず
記憶を頼りに、ヒントを探す
たしかこのフォルダだったはず
フォルダを開くと、いくつか並ぶテキストファイルの中に、明らかに怪しい名前のファイルが
「dwsp」
パスワードを英語で略して逆にしただけだった
わかりづらいといえばわかりづらいが、非常にわかりやすい名前
開くとヒントが載っていた
龍の立つ場所だそうだ
すぐにわかった
飾ってある龍のフィギュアの下に敷いてあるプリント紙
そこにパスワードが書いてある
そうだった
思い出した
そしてこの時、日記について嫌な予感がしたが、俺は好奇心に押されて不安を無視し、パスワードを確認した
よし、これで開くぞ
俺は早速、日記をダブルクリックした
…………
これはいかん
俺は青ざめた
なんでかって
とても他人様にお見せできるような内容ではなかったからだ
当たらなくていい予感は見事的中
この日記ヤバいぞ、だいぶ
どんな内容だったのか?
それはもう……痛いし嘘だらけ
それだけ言っておこう
本当に、誰かに見せるわけにはいかない文章の数々だった
あまりにもあんまりな、日記か疑わしいレベルの問題作
この日記を書いた時の年齢がそうさせたのだと思う
俺はファイルをそっと閉じる
捨てるのはさすがにもったいないので、俺は再度封印することに決めた
このひどい内容が気にならなくなるまで、決して開けないようにしよう
「美しい」
ひとりの男性が、僕の作品を見てそう言った
僕は嫌な気分になった
彼はいったい何を美しいと感じたのか
僕の作品は出来が悪く、お世辞にも上手いとは言えない
なのに、僕の父が高名な芸術家だからと、まるで僕も才能があるかのように周りが持て囃し、個展まで開いて今に至る
僕は作品作りが好きだ
だからといって、七光で評価されるのは嫌だ
それは僕への評価ではなく、父への評価だから
そして、好きだからこそ、自分の実力が個展なんかを開くに値するものではないとわかる
断ればよかったのだろうけど、言い訳に聞こえるかもしれないが、押しに弱く、了承してしまったのだ
みんなの目当ては僕じゃなく父の名声
きっとあの人も、父の才能を見て、無理やり僕の作品を評価したのだろう
「さすがは、かの六畑現之助のご子息
実力がとても高い
溢れんばかりの才能を感じますね」
周りの人もそんなことを言っている
本気で言ってるのか?
僕の作品に対して?
おかしいと思っても同調圧力を感じて言えないか、本当に見る目がないか、どっちかなんじゃないか?
しかし、美しいと言った男性が次に呟いた一言に、僕は驚いた
「いや、別に才能は感じないし、ハッキリ言って未熟だよ」
「え?
いや、しかし、これは六畑さんのご子息の作品で」
「六畑さんが優れた作家なのは知っている
だが、それとご子息の才能は関係ないよ」
「し、しかし、桜地さんも美しいと言っていたではありませんか」
僕は面白くてニヤニヤしてしまった
桜地さんと呼ばれた人がさっき美しいと言った真意はわからないが、知ったかぶっていた周りの人が、僕の才能を否定されて狼狽えるさまは笑える
そうだよ、桜地さんの感想が本来の僕が受けるべき評価なんだよ
しかしその後、桜地さんは思いもよらないことを話し始めた
「ああ、僕が美しいと言ったのは、作品が上手いってことじゃないんだ
たしかに未熟だけど、全ての作品の端々に真剣に努力したあとが伺える
一度大きく評価された人は、自分のスタイルに縛られて、保守的な作品になったりもするんだけど、これは自分を高めるための挑戦を感じるよ
この作者は、作品を作ることを本気で楽しんでるんじゃないかな?
こうして作品に向き合う心はとても美しいと思うし、幸せなことだよ
今は未熟でも、その気持ちを持ち続けていれば、才能も開花するかもね
僕も、初心を思い出せた
来てよかったよ」
周りの人は呆然としている
僕も、呆然となった
この人の言葉は、僕の心に強烈な衝撃をもたらした
そうだよな
上手くなくても、プロになれなくても、自分が好きで楽しんでいられれば、幸せなんだ
僕は、僕の好きなように作品作りを楽しんで、自分を高めていこうと改めて思えた
桜地さんには感謝だ
あとで知らされたけど、桜地さんは別の名前で活動している超有名な人だった
名前を聞いて卒倒するかと思ったほどのレベルだ
この世界は美しい
今決めた
みんなすぐ醜いとか言いたがるし、実際悪いことが日常茶飯事でよく起こるけど……
だからといってネガティブな思考でいなければならないわけじゃない
私はポジティブなことに目を向けてみようと思う
大げさなことじゃなくていい
今朝見た動画が面白かったとか
美味しいものを食べられたとか
友達といったカラオケではっちゃけたとか
そんなのを積み重ねて行けば、十分世界が美しく見えるんじゃなかろうか
ネガティブなことがあるなら、ポジティブを増やすことを考えて、相殺できればよし
プラスになれば最高
世の中そういうものかもしれない
ところで
そんな私でも、どうしようもない世界の醜さを見せつけられた時には激しい怒りをたぎらせた
あれは昨日のこと
見事な土砂降りだった
普段なら嫌な気持ちになるところだけど、新発売のケーキを買って気分良く自宅へ向かっていたのだ
そのさなか、車が私の横を過ぎる時、水たまりに突入して、はねた水しぶきが襲い掛かってきた
あまりに突然のことで驚いた私は、よりによってケーキを落下させたのだ
さらにふらついて建物にもたれかかった瞬間、自転車が急いでいたであろうとわかるけっこうなスピードでケーキをひき逃げしたのである
落としただけなら、形が崩れただけで済んだだろう
自転車にひかれたら、それはもう食べられない
あんなに楽しみにしていたのに
私はあの瞬間にこの世界の醜さを悟った
この世は基本的に不幸になるようにできているのだと
私の幸せなど、ケーキが潰れただけで容易く崩れ去るのだと
そして、幸せになるには相応の実力と運が必要なのだと
まあ、今日になったらすっかり機嫌を直して、見ての通りこの世は美しいとか、真逆のことを平然と言ってのけるくらいになったんだけどね
それくらいがちょうどいい
ともかく、ネガティブなことを言ってるとネガティブな考えへと引っ張られて幸せを取り逃すだろうから、ほどほどにしといて、ポジティブを探して行こう
どうしてこうなった
私は非常に困惑している
いつの間にかゲームの世界に入り込んでいたのだから
さて問題です
私はどういうゲームの世界へ転移したでしょう?
定番のファンタジー世界?
ブブー、違います
じゃあSF世界?
それも違う
現実と変わらぬ現代アドベンチャー?
残念、ハズレ
世界観不明なパズルゲーム?
全然見当外れです
たぶん、なんじゃそりゃ、ってなるゲーム世界
正解は、ゲーム制作ツール
まあ、正確にはゲームじゃないけど、一応ゲーム扱いはされている
レーティングだって一応ついてるし
それは置いといて……
ひどすぎる
転移した意味がない
PCで作業するのと何が違うというのか
神様気分を味わえとでも?
と、最初は思ってた
けど、完成させたあと、異変は起きた
テストプレイや修正を繰り返し、いよいよ制作完了となって、自分で改めて最初から最後までプレイヤーとしてクリアした直後、キャラクターが勝手に行動し始めたのだ
知らない物語が始まった
まるで、ひとつの世界として本当に存在しているかのように
そして、私はその世界に対して機能を使って介入できたのだ
どうやら、本当にこの世界の神になってしまったらしい
それから長い時を、私は神として過ごした
私の操作するキャラクターを介して人々の前に現れたり、様々な現象を起こし、世界を管理する日々
そして、その日はやって来た
この世界の住人は、神に頼ることをやめ、自らの力で道を切り開いていくことを望んだ
独り立ちというやつだ
私がそれを了承すると、私はようやく現実に引き戻された
なんだか、長い夢を見ていたような感じだ
ゲーム世界の記憶はハッキリとしているものの、現実味がない
それに、とても長い時間ゲーム世界で過ごしたわりに、転移する前の出来事はよく覚えているし、ついさっきまでの出来事といった感覚
あれは、夢だったのだろうか?
PCのデータを見てみる
ゲームは完成していた
プレイしてみると、クリアまで覚えのあるストーリーが続く
やはり夢ではない
転移後に完成させたとおりのゲームだった
しかし、エンディングの最後、見覚えのないメッセージが表示される
「私たちの世界をありがとう」
これは、あの世界の住人たちからの感謝のメッセージなのだろう
私はなんだか温かい気持ちになりながら、完成したゲームをゲーム投稿サイトへアップロードした