雪のように、落ち葉のように。
その想いは降り積もる。
一日二日じゃこうはならない。
何年も前から少しずつ、少しずつ。
やがてそれは一滴の雫が岩を削るように、事態を一変させる。
募る想いはマグマのように、いつか爆発する日を待っている。
何をそんなに驚いてるの?
今日がその日だったという、ただそれだけの事。
あなたはいつもヘラヘラと、私の想いに気付きもしないで。
今日がその日だっただけ。
さようなら。
そうして私は――。
END
「降り積もる想い」
中学時代のセーラー服のリボンが好きだった。
制服を着た時にしか触れないあの独特の、ツルツルとした感触。
私服では絶対に選ばない素材で、あのリボンを綺麗に結べた日はなんだかいい事が起こる気がした。
スカートを好んで履かなくなって久しいけれど、この歳になってようやく制服があることの意味や、あの素材の質感の意味が分かってきた。
そして今、好きな服を自分で選ぶことの出来る喜びと、時代、場所、人、目的によって服を選ぶことの大切さが自分の身に置き換えて分かるようになってきている。
いつかインバネスコートを颯爽と着こなせる人間になりたい。その下にはサテンのリボンを結んだブラウスを着よう。そして楽しげに、私は街を歩くのだ。
END
「時を結ぶリボン」
手のひらに乗った小さな紙切れ。
拙い字で書かれた「たんじょうび おめでとう」の文字。もうだいぶしわくちゃで、端の方は少し破れてしまっている。
「·····」
あれは何年前だったか。
無邪気で、屈託が無くて、その笑顔を見るだけでまるで自分が浄化されていくようだった。
今はもう、その全てが遠い夢のようだ――。
これだけは無くしてはいけない。
そんな思いを抱えて、男は戦場へと旅立った。
END
「手のひらの贈り物」
当たり障りの無い会話をしながらいつも思ってる。
うるさい。
おしゃべり。
関係ない。
興味無い。
仕方ない。
口じゃなくて手を動かせ。
ああ、うるさい。
本当に、なんで黙るということが出来ないんだろう。
END
「心の片隅で」
真っ白に染まった世界はほのかに輝いて見えた。
四日前に降り出した雪は止むことなく降り続いている。町も、森も、道も、何もかもを飲み込んで埋め尽くす白い雪は、世界をまるごと埋葬しようとしているかのように男には思えた。
「寒い?」
腕の中の体を一層強く引き寄せる。
「別に·····静かでいいよ」
そう答えて目を閉じた。
寒さはあまり感じていない。
それよりも耳が痛くなるほどの静寂が二人を包んでいる。道を歩く人の靴音も、生い茂る葉が擦れ合う音も、町のざわめきも、隣家の食事の団欒も、何も聞こえない。降り続く雪は命が蠢く音までをも飲み込んでしまっている。
このまま二人、眠るように死ねたらきっとこの上なく幸せなのだろう。
だからそう答えたのに、かえってきたのはようやく絞り出したような、苦しげな声だった。
「·····ごめん」
何を謝ることがあるのか。
何も間違ってなどいないのに。
ぽたりと頬に落ちた雫が、涙だと気付くのに少し時間がかかった。
「謝ることなんか無いよ」
手を伸ばし、濡れた頬を指で拭う。
「本当に、静かでいいと思ってるから」
戻れない場所まで来てしまった。
それでもこの選択を間違いだとは思えなかった。
今は目の前にいる彼だけが、すべて。
だから自分は、この上なく幸せなのだ。
「·····好きだよ」
ようやく言えた。
雪に閉ざされた世界で、互いの温度だけがただ一つのよすがとなっていた。
END
「雪の静寂」