良いお年を~、と打とうとしてる間に年が明けました。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
END
「良いお年を」
日本はプラネタリウムの数がやたら多いそうだ。
投映機材も世界有数の技術力を誇っているらしい。
何度か行ったが、その度に不思議な感覚に囚われる。
真っ暗なドーム。
見上げれば一面の星。
投映される星の姿以外何も見えず、自分の体さえ闇に溶けてしまったような錯覚に陥る。
その中に響くガイドの低く穏やかな声と静かなBGM。
きらきらと明滅する星をぼんやり見ていると、本当に宇宙空間に漂っているような気がしてくる。
私たちのこの、星に対する憧れはなんだろう?
夜空に輝く小さな星達に、私たちは何を見出しているのだろう?
強く、弱く。
熱く、冷たく。
赤く、青く。
輝く星達はくすくすと小さく笑うだけで何も答えてはくれなかった。
END
「星に包まれて」
古いラジカセのスイッチを押すと、ノイズ混じりの音が流れてきた。
しっとりとしたスローテンポの曲が流れる。なんという曲かは分からなかった。
「踊ろう」
手を差し出され、僅かに戸惑う。
その手を取るべきか悩んでいると、なかば強引に引き寄せられた。
「揺れてればいいから」
錆び付いた音に合わせてぎこちなく肩を揺らすとくふ、と小さく笑う声。
「それでいいよ」
相手は僅かに目を伏せて、心地良さそうに男に身を預ける。最小限に絞ったライトが、二つの揺れる影を壁に映し出す。
言葉は無い。
互いに触れ合う場所だけが、火がついたように熱い。
「君だけだ」
花びらがひらりと落ちたような、そんな声だった。
肩口に寄せられた唇がぽつりと漏らした声。それは普段からは想像もつかないほどに余りに儚い声だった。
「この地獄には、もう君と私しかいないんだ」
官能的に体を揺らしながら全てを明け渡したようなその声は、男の胸に強い衝動を呼び起こす。
「離さないで」
その言葉に「当たり前だ」と短く返す。
――薄氷の上で二人、死ぬまで踊り続けよう。
END
「静かな終わり」
〝あなたの人生を曲線グラフにしてみて下さい〟
それに何の意味があるのか。
上手くいっていた時期と下降していた時期を視覚化して客観的に見るため、と誰かが言っていた。
けれど、そんな簡単なもので表せるほど私の人生は単純じゃない。
私の〇〇年は一本の線を上下させるだけで説明出来るようなものじゃない。
私の人生は私しか知らない長い旅で、その結末はまだ私自身ですら分からない。
その旅が私の心に何をもたらすのかも。
旅はまだ途中なのだから。
END
「心の旅路」
一匹の大きな龍が横たわっている。
彼はたった一匹の、運命の番を求めて世界中を旅していた。その大きな体を、悠久の時を生きる精神を、人智を超えた力を受け止め、共に生きてくれるたった一匹を探していた。
ある国では神と崇められ、ある土地では厄災と恐れられた。人々が彼にまつわる物語を一つ完成させると、彼はまた別の場所へと旅立っていった。
まだ番は見つからない。
どれだけの年月が過ぎたか、数えるのも馬鹿らしくなってきた頃、彼は一人の人間に出会った。
長く生きることに疲れ果てた彼を、その人間は恐れもしなければことさら崇めたりもせず、ただその疲れを癒すように優しく触れた。
龍に与えるには少なすぎる食事。何年かかるか分からない鱗の掃除。人間はそうすれば彼は心地よいだろうと考え得る全てのことを自分から率先してやった。
山にたった一人で暮らしていた人間は、同じ人間に村を追われていた。不思議な力があったからだ。だがその人間は村人に恨み言を言うこともなく、一人は気楽でいいと龍に向かって笑った。
龍は、自分の番になる者は同じ龍の姿をしていると思っていた。だがそうではないのかも知れないと思う時が徐々に増えてきた。
鱗が波打つ大きな体に背を預けて眠る人間は、彼の心に大きな変化をもたらしていた。
悲劇は突然起こる。
龍と暮らす人間に恐れをなした村人が、龍の目を盗んで人間に毒を飲ませたのだ。
龍は怒り狂い、村を襲った。口から冷気を吐き出して一つの村をまるごと氷に閉じ込めた。
だが長く生きた龍はそこで力尽きてしまう。
彼は人間の元へ戻ると既に息をしていないその体を自分の体に巻き込んで、ゆっくりと横たわる。
毒を飲まされ、苦しんだ筈のその人間の顔は、不思議と穏やかだった。
「疲れたな·····」
龍は一言そう言って、ゆっくりと目を閉じる。
「そうだね」と、人間も言ったような気がした。
龍は最後の力を振り絞り、自分の体を氷へと変えていく。抱き込んだ人間の体ごと。
やがて大きな大きな氷の塊になった一人と一匹は山の中腹で美しく輝く氷湖となった。
「まるで大きな鏡みたいだね」
何百年も経ったある日、空から氷湖を見下ろしてそう言った者がいた。
永遠に溶けないその氷の中に一人の人間がいることを、知る者はもういない。
END
「凍てつく鏡」