時を繋ぐ糸(オリジナル)(異世界ファンタジー)
宿の部屋で一人頬杖をつきながら、ラッツはぼんやり考えていた。
昔の仲間が亡くなって10年。旅の仲間はもう作らないと自分に誓って、確かにこれまで誰とも一緒に旅をしてこなかった。
それがどうだ。
少し前に滞在した城塞国家で、監視という名目でついてくる事になった男がいる。
実は国の秘密を知ってしまった彼を追放する意味での厄介払いだったんじゃないかと思っているのだが、クソ真面目な彼は王を信じてひたすらついてくる。
そしてもうひとり。
この旅が始まるきっかけの出来事のすぐ後に偶然出会い、互いに少し助け合っただけの獣人がいる。
旅の目的はお互い違うのだが、情報収集が必要なことと、向かう方角が一致していた。
互いに異なる村や町を訪れ、その次の街で合流し、情報交換すれば効率的だ、という話になり、数ヶ月おきに先々の街で合流しているのだが。
これが案外楽しかったりするのだ。
どちらかの目的が達成されれば終わり。
どちらかの進路が変更になる情報が出れば終わり。
どちらかがペースを大幅に変えてしまえば終わり。
どちらかが命を落とせば終わり。
ただの口約束なので、いつでもやめられる。
互いに目的達成が最優先であり、このままの時間が続けば良いなどとは微塵も思っていない。
しかし、この見えない何かで繋がっているという感覚が、なんとなく心地よい。
未来の事はわからないけれど、細々とでも続いていくと楽しそうだな、などと夢想するラッツであった。
落ち葉の道(914.6)
四季があり、落葉樹のある場所でしか味わえないものがある。
落ち葉の道。
当然、砂漠にはないし、常に氷に覆われているような極寒の地にもない。
木々が生えるのに適さない火山や大理石の山々にもないし、常緑樹ばかりの場所にもない。
落ち葉がなければ、腐葉土を踏みしめるフカフカという感触を味わう事もないし、枯れた葉と土の混ざったにおいを嗅ぐこともないし、紅葉に感動する事もなければ、掃除に困ることもない。
逆もしかり。
その場所でしか味わえない感覚や気づきがある。
己が「普通」だと思っている経験が、よそでは全く普通ではないという事は、沢山あるはずだ。
ネットで検索すれば何でも画像で見られるし、安易に色々知る事ができる時代だけれど、生の経験や感覚は大事にしていきたいと思う。
君が隠した鍵(オリジナル)
side女
彼氏の自宅でのこと。
彼がシャワーを浴びている今がチャンスだった。
最近ちょっと言動がおかしい。
浮気を疑っていた。
彼氏と言っていいものか。
金持ちが集まる街コンで出会った人だった。
10歳年上で、大人しくて面白みのかけらも無い人。
しかし、お金があるのは本当で、ここもタワマンだ。
正直、お金目当て。
パパ活、援助交際だと思っている。
とはいえ、あんなに冴えない男なのに、こんな若くて可愛い自分以外にもお金を使われていたら不愉快だし、プライドも傷つく。
家中のタンスや机の引き出しを物色していたら、仕事部屋だろうか、モニターのたくさん設置してある部屋の机の引き出しから、可愛いキーホルダーのついた、家の鍵らしき物を発見した。
私だって合鍵を渡してはいないのに。
一瞬で怒りで頭が真っ白になった。
自分が鍵を渡していないのは、別れる時に押しかけられたら困るからであり、自宅の場所も教えていない。
しかし、それはそれ、これはこれである。
彼を問い詰めるため、鍵についていたキーホルダーを外して、鍵のみタンスの後ろに捨ててやった。
シャワーから出てきたら問い詰めてやる。
side男
シャワー室から出てくると、リビングで彼女が仁王立ちして待ちかまえていた。
「どうしたの?」
「これ!」
彼女が手を突き出して見せてきたのは、鍵につけていたはずのキーホルダーだった。
家探ししたのか。
少なからず動揺する。
「誰!」
「………」
「私以外に誰と付き合ってるの?!誰と合鍵交換なんてしてるの?!この家の鍵も誰かにあげてるの!?」
彼女は顔を真っ赤にして怒っている。
僕は口元に手をやって、漏れそうになる笑いを噛み殺した。
彼女が自分のことをキモい男とSNSに投稿しているのを知っている。
お金目当てで近づいて、ちょっと親切にしてやったら食いついて、マジチョロい。大金を貢がせてやると呟いていたのを知っている。
僕の前で健気な可愛げのある女子を演じているのを知っている。
貢いでもらうために見え透いた嘘をついて媚びているのを知っている。
なぜならその都度SNSで成功したと呟いているのを見ているから。
彼女のアカウントを僕が知っている事を、彼女は知らない。
「私とどっちが大事なわけ?私とは遊びなの?白状しないと、鍵の場所教えてあげないわよ!」
彼女はまくしたてる。
僕は薄っすら笑って困り顔。
だって、彼女が隠した鍵は、僕がこっそり作った彼女の家の合鍵だから。
まぁ、また作れるから良いんだけどね。
手放した時間(オリジナル)
1日が24時間である事は変えられない。
24時間でできる事は限られている。
無駄を廃し、効率よく生きていかなければ。
ご飯を作る時間がもったいないので出来合いを買う。
待ち時間が無駄なので外食や遊園地には行かない。
CMが無駄なのでテレビは生で見ない。
テンポの遅いドラマやアニメは早送り。
通勤時間がもったいないので仕事は在宅。
物を買うのが面倒なので、必要なものはランキング検索してネット買い。
永遠を誓うわけでもない一時的な恋人や友達との遊びに無駄な時間を費やすのがもったいなく、誘いを断り疎遠に。
結果、余白なく変わり映えのしない生活に疲弊した。
感情が死んで、己の好悪がわからなくなった。
世界が灰色に見えた。
自分も灰色に見えた。
無駄と切り捨ててきたものは、本当に無駄だったのだろうか。
誰かが時間をかけて作ってくれた物を消費しているだけの自分は、果たして「生きている」以外の何をしているのだろう。
手放してしまった無駄と思われる時間の中にこそ、人を人たらしめている要素があったのかもしれない。
今更ながらそれに気づいた。
とはいえ、無駄だと思う心はなかなかに矯正できず。
「時間」を上手に使うのは難しい。
紅の記憶(914.6)
紅って何だろうと、改めてネット検索してみた。
日本国旗🇯🇵の色とあるが、出てくる色見本はピンクっぽくて、国旗とは違う色に見える。
紅は「鮮やかな赤」とあり、色の範囲が広そうだ。
「紅」で思い浮かぶのはX JAPANだけれど、特にファンではないので特別な記憶もない。
創作だと夕日か血の色になるのかなぁと思うけれど、赤との違いが思いつかない。
赤ではない単語…口紅、紅茶、紅葉、紅一点…。
そういえば自分、唇が荒れがちなのと、コロナ禍からのマスク習慣のおかげで、口紅はもう10年くらい使っていない。
昔は良く海外ブランドの口紅をお土産でいただいたものだが、匂いがキツく、塗るとずっとくさいので、申し訳ないことに、全く使わなかった。
鼻の真下に塗るモノに、なんであんなキツイ匂いつけるかね…。
そんな、使わなかった、口紅の記憶。