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2/14/2026, 10:54:59 AM

バレンタイン(TOV)注:微腐

どこかの国の風習で、今日は好きな人にチョコレートを贈る日らしい。
ダングレストの人々はお祭り騒ぎが好きなので、そんな商売になる楽しいイベント、すぐさま導入された。
街をフラフラ歩いていると、それなりに顔の広い俺様にも声がかかる。
「あら、レイヴン、ちょうど良かった。これどうぞ」
「義理チョコ〜?でも嬉しいわ、ありがと」
両手で持てない数を渡されて、ホクホクでアジトに帰ってきた。
「さてと」
俺様はようやく、主目的である調理場に立つ。
今日は好きな人にチョコをあげる日ではあるが、日頃の感謝を伝える日でもある。これは両方を兼ねて贈り物に気持ちを託せるチャンスだった。

「ただいま」
依頼をこなして、夕方、ユーリがアジトに帰ってきた。たちこめる甘い匂いに瞳を輝かせる。
「あ、お帰り、青年」
「この匂い、クレープか?」
「そそ、さすが甘党、匂いだけでわかるのね」
レイヴンはたっぷりチョコがけクレープをユーリに差し出した。
「今日はこういうお祭りだからね」
「おお、愛の告白か」
冗談とわかっていても、その指摘にはドキリとした。
「そうよー!わかってるじゃない」
いつも通りに振る舞えたと思う。
ユーリはじっとこちらを見ていたが、甘いものの誘惑には勝てなかったらしい。すぐにクレープに齧り付いて、瞳を輝かせた。
「うめぇ!」
「そりゃ良かった」
ユーリはモグモグと口を動かしながら、レイヴンの方に手を差し出した。
その手の上に、何かがのっている。
「ん?」
「こういう祭りなんだろ」
なんと!
ユーリが、ラッピングされた箱を差し出していた。
「ええ〜!おっさんにくれるの??」
「まぁ、甘いの苦手らしいからどうかと思ったけどな。これならそこまで甘くなくて、酒のつまみに良いらしいぜ?」
店員にわざわざ聞いてくれたのだろうか。
俺様のために?
嬉しい。
嬉しい。
満面の笑みに崩れそうになる顔を、なんとか持ち堪えて普段通りを装う。
それでもウキウキする気持ちは抑えられなかった。
「それじゃ、乾杯でもしますかね」
いそいそと、お酒を準備する。
酒の席となれば、未成年の少年少女は立ち入れない。
それも嬉しかった。
「乾杯」
ふたりはチョコを肴に、酒のグラスを合わせた。
ユーリは真剣な顔をして、レイヴンの目を見て、
「好きだぜ」
と言った。
「…クレープが、でしょ。いや、チョコが?」
「ははっ」
ユーリは否定も肯定もせず、屈託なく笑った。

2/13/2026, 1:50:36 PM

待ってて(オリジナル)(異世界ファンタジー)
(お題:「花束」の続き)

闘技場で戦う毎日から解放され、自由になった。
突然得た自由に戸惑ったが、とりあえず寝泊まりできる部屋と、少しのお金と、外の知識を得た。
ここは、空高くそびえるバベルの塔、その60階層。
各階に様々な研究施設があり、上層ほど優秀な者がいるという。
なので、各階層、易々と行き来はできない。

チーム戦を共に戦った後、行方知れずとなったライを探して、リンクとレッジは聞き込みを開始した。
やがて、彼は今この階層におらず、かつては観戦側にいて、おそらく上層階からの客だったであろう事が判明した。
「そんな人、牢に放り込んで戦わせる?!」
「まぁ、変人っぽかったしなぁ…」
レッジの言に異論なく、思わず納得してしまうリンクであった。

問題はふたりが上層に行けない事であった。
許可が降りない。
正攻法では、100年くらい奉仕して色々と役立って、キメラレベルをあげないと上に行けないという。
なので、レッジは塔の壁面を登ることを提案した。
「…レッジって空飛べたんだ?!」
「いや?飛べないけど?」
地上60階である。落ちたら命はない。たぶん。
外壁に足場はなく、定期的に見張りが飛んでいた。
「俺が先行して、良いところで頑丈なロープ垂らすから、登ってくるといい」
置いていかれるかと思ったが、そう提案してくれて、嬉しかった。

レッジは隠密の技に長けていた。
各階層、不法侵入を果たし、警報を避け、情報を収集し、食料や衣服をくすねてくる。
おかげで半年ほどかけて順調に80階まで到達した。
緑豊かな光差す庭園で、ふたりはついにライと再会した。
「ライ!」
駆け寄ると、こちらを振り向いた彼は不思議そうな顔をして、
「どなたですか?」
と言った。
姿も声も名前もそのままなのに、ふたりの記憶を持っていなかった。
衝撃のあまり問い詰める事もできず、すごすごと隠れ家に帰り着いたふたりは、途方に暮れた。
「あいつ、もしかして複数いるのか?」
「だとしたら、俺らを知ってるライをどう探すか」
「手当たり次第見つけて声かけていくしかないか」

とはいえ、そっくりさんも気にはなる。
彼の元に何度も通っているうちに、彼と共にいる盲目の結界治癒魔法師、ヨウと友達になった。
やがて陰謀に巻き込まれ、ヨウの命が危うくなった時、三人はまた力を合わせ、彼女を救出したのだった。
その間の、言動も、思想も、ふたりが知っているライそのものであった。
(本当に別人なんだろうか?)
リンクは疑問に思う。
そして事件が終息したところでまた、ライが消えた。

理由はヨウが知っていた。
彼は情報を集める器であると。
もっと上層に彼を使役している人がいて、その人の研究の一環らしい。
「だからたぶん、あなた方の記憶が抜かれてしまったんだと思います」
おそらく次は私の記憶も、と、ヨウは悲しそうに言った。
「何だそれ!!」
リンクは吠えた。
怒りがふつふつと湧いてくる。
「ライは納得してるのか?」
レッジが聞くと、ヨウは、
「そういうものだと思っているみたいです。でも、最近は毎回ぽっかりと心に穴が空いたみたいな気持ちになって、訳もわからず寂しいって言ってました」
「はぁ?!あいつ!!」
「記憶は取り戻せるのか?」
リンクは激昂したが、反対にレッジは冷静にヨウに聞いた。ヨウは少し考えて、
「おそらく。記憶を流す器があるって言ってましたから、残ってはいると思います。逆流させれば戻せるんじゃないかと」
「よっしゃ!」
リンクはガッツポーズをし、レッジはヨウの手を取り、一緒に行こうと誘った。盲目の彼女を守る人が必要で、それは自分たちだろうとふたりは思っていた。
足手纏いになる事を心配したヨウだったが、結局は一緒に来てくれる事になり、嬉しそうに笑った。

リンクは心の中でライに語りかける。

待ってろよ、ライ。
私たちとの事を、あれこれ思い出させてやる。
だから寂しいなんて言うな。
これからずっと、皆で一緒にいよう。

そうなれば、きっと楽しい。

2/12/2026, 11:57:00 AM

伝えたい(オリジナル)

伝えたい。
けれど、どう伝えて良いかわからない。

満員電車に乗り込んだ朝だった。
スマホに落としていた視線を上げたら、目の前の女性の後頭部に洗濯バサミがついていた。
己の目を疑って、二度見した。
まごう事なき洗濯バサミだった。
後ろ姿なのでわからないが、おそらく若い女性だ。
オシャレだろうか。
わざとだろうか。
寝癖直しか何かでつけて、外し忘れてる?
理由はわからないが、一応注意はしてあげたい。

けれど、彼女は僕に背を向けているし、間に他人の肩がある。この距離で話しかけたりしたら、周りにも知られる事になる。それは恥ずかしいだろう。
スマホ画面に文字打ちして見せれば良いが、やや不審者だ。かなり手を伸ばす羽目になり、左右の人には知られるだろう。
てか、周りは誰も気づいていないのか?
誰か言ってやれよ。
僕はとてもソワソワしたが、誰もがスマホに集中しているようで、彼女に話しかける人は皆無であった。
覚悟を決めてスマホのメモ機能にポチポチ打っているうちに、駅に着いた。
そうか、このタイミングで近づいて声をかければ良いじゃないかと気づき、扉が開いたのに合わせて彼女の方に寄ろうと足を踏み出したところ、
「何しやがる!押すんじゃねぇよ!」
前横にいた、肩が邪魔な男性に因縁をつけられた。
その隙に、洗濯バサミの君が振り返りもせず、駅のホームへと排出されていく。戻る様子はなく、降車駅だったらしい。
あああああ…。

僕の善意は、伝えられないまま萎んで消えた。
ドンマイ。

2/11/2026, 11:36:53 AM

この場所で(オリジナル)(異世界ファンタジー)

牢に最後のメンバーがやってきた。
魔法使いのようなフードマントの男だった。
放り込まれた勢いで壁際までゴロゴロ転がって、壁に激突していた。
どんくさい。
「大丈夫か?」
レッジが手を差しだすと、彼は苦笑しながらその手を握って起き上がり、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。私はライといいます。よろしくお願いします」
育ちの良さがうかがえる挨拶だった。彼はいったい、何のキメラだろう。
「俺はレッジ。あっちにいるのはリンク。共にソロで500勝した同士だけど、あんたもか?」
「そう、みたいですね」
みたいとは何だ。リンクは眉をひそめた。
入れられる牢の場所は毎回ランダムだった。レッジとはたまに一緒になる事があって面識があったが、彼とは会った事がない。
「1000勝すると自由になれるそうですね」
自由になったら、何がしたいですか。
彼は唐突に、そんな事を聞いてきた。
レッジとリンクは思わず顔を見合わせる。
「…毎回勝つ事に必死で、後の事なんて考えた事もなかったな…」
夢など持っても、敗北して死んだら意味がない。
そもそも生み出された目的からして、この場所に立ち続けること、戦闘において優秀な成績をおさめることのみが本分だった。
一応「1000勝したら自由」という、都市伝説のような話を聞いたことはあるが、これまで一度も該当者は出ていない。それほど試合は毎回過酷で、新しく生み出されるキメラは優秀で脅威だった。
ソロで一定数勝ち残ると、今度はチーム戦になる。
チームで使えるかどうかのテストだった。
メンバーが減ると補充が入る。
チームの連携が取れなくなって、あるいは仲間に足を引っ張られて、自滅していく者が多かった。
それほどに、生き残る事は難しい。
「…そんな寝言は生き残ってから言いな」
リンクは吐き捨てるように言った。
彼は魔法使いだろうか。接近戦に弱そうで、すぐ死にそうだ。親しくなっても何も良い事などないだろう。
とにかく、今日これからの戦闘に勝たなければ。
リンクは大斧を肩に担ぎ上げ、闘志を奮い立たせた。
「…格好良いなぁ」
眩しそうにリンクを見て、彼は微笑んだ。
「ああ?」
「頑張りましょうね!」
ガッツポーズをしてみせる彼になぜだか腹が立って、ぶん殴ろうとしたが、レッジが素早く救出してしまった。
この鬱憤は試合で晴らそうと思う。



ライはキメラではなく、外の人間だった。
闘技場で彼らの戦いを見物し、衝撃を受けた。
その必死さ、残酷さ、生命力の輝き、強さに。
特にリンクとレッジの戦いに感銘を受けた。
惚れたと言ってもいい。
リンクは女性の姿でありながら圧倒的な腕力と桁違いの炎と迫力で、毎回派手に勝利していた。
レッジは姿を捉えられないほどの素早さで相手を翻弄し、命を取らない戦法に余裕と優しさを感じた。
前のめりで彼らの戦闘に見入って応援していたのだが、そんな時、耳に入ってきた声があった。
観戦している造物主達が、1000勝後の自由について嗤っていた。希望をチラつかせて絶望する彼らが見たい。どうせ誰も勝ち残れるはずがない。そのように対戦を組んでいるのだから、と。
懸命に生きる彼らに対して、侮辱も甚だしい。
猛烈に腹が立った。
ライは彼らに食ってかかった。
1000勝したら必ず自由を約束しろ、と。
それを言えるだけの後ろ盾がライにはあった。
なので、チーム戦に自分が参加する事も了承させた。
「キメラの性能テストなのですから、出しゃばることはやめてください。もし魔法を一度でも使ったら即やめていただきますからね。上にバレるわけにはいかないので末端には知らせませんから、待遇は保証できませんよ。でも、死なれても困ります。絶対死なないでくださいよ」
キメラ開発の責任者はオロオロしながらそう言った。
いざという時は魔法で身を守る事を約束して、ようやく参加を許された。

そうしてライは、キメラを装って憧れの二人のもとへ向かったのだった。


(2日前のお題「花束」に続く)

2/10/2026, 2:24:57 PM

誰もがみんな(オリジナル)(異世界ファンタジー)

私はふと顔をあげた。
目に入るのは、岩や土壁ばかり。
(外の世界には何があるんだろう)
誰もが皆、そんな夢想にはつきあってくれない。
私はこんな時、いつもひとりだった。

ここは魔石を採掘する巨大洞窟である。
溶岩が流れる危険な場所で、我々は足枷をつけられ、坑夫として働いていた。
武装したヒト族に使役されている。
要は奴隷だ。
私含めて、使われる側の多くは半獣だった。
ヒトとは言語が違うため、意思の疎通もままならない。待遇改善を訴えても、反抗的だと鞭打ち投獄されるばかり。
大人は皆、期待したり夢を持つ事を諦めてしまった。

けれど、私は違う。
皆に安心安全な生活をさせてやりたい。
そしていつか、外の世界にも行ってみたい。

外がどんなところか知らないけれど、今よりはマシであろうと、何かあるたび、ぼんやりと夢想していた。
現実逃避ともいう。
と、そこへ、今日は珍しく声がかかった。
《こんにちは》
《こんにち…》
挨拶を返そうとして、私は驚愕のあまり口をあんぐり開けてしまった。
岩の上からひょっこり上半身をのぞかせてこちらを見ていたのが、同族ではなくヒト族だったからだ。
(まさか、ヒト族が我々の言葉を話したのか?)
今までに会ったどのヒト族も、我々に言語があるなどと思ってもいないようだった。あるいは全く興味がなかったか。なのに。
《くち、あいてる》
彼はにっこり笑って、そう言った。
私は慌てて口を閉じた。
《ことば、わかる?》
《なんで…》
《きみと、はなし、したい》
《私と?》
《きみ、なかま、だいじ。これから、よく、したい。わたしも、よく、したい。おなじ。はなし、する、もっと、よくなる》
我々を使役する側のヒト族が何を言っているのか。
意味がわからなかった。
《あんたは何者なんだ。言葉は誰から教わった》
《私、ヒト。30にちまえ、きた。しごと。言葉、みて、きいた。教わった、ない》
言葉を間違えて使っていないとするならば、30日前に仕事でここに着任して独学で言語を学んだと。
(天才か!?!)
私は警戒度MAXで彼に対峙した。
言葉が理解できるなら、ただの唸り声としか認識していない他のヒト族と違い、暴言や罵りなど、もろもろバレているという事である。
彼は岩の上からよちよちと危なっかしく降りてくる。
顔の綺麗な、ひ弱そうな青年だった。
他のヒト族のように武装していない。
《……鞭も持っていないのか》
あまりにも無防備で、逆に心配になってしまった。
彼は悲しげな表情を浮かべ、私にそっと触れてきた。
先ほど仲間を庇って鞭打たれた傷に。
《ごめん、きみ、わるくない。私、なおす、まほう、ない。ごめん》
治癒魔法がないと言うことは、他の魔法が使えるのだろう。それで武装が不要なのかと合点した。
不快な手をはたき落とし、睨みつける。
《何が目的だ》
《…さっきいった》
《具体的に》
そう言うと、彼はうーんと唸った。上方に視線をやり、言葉を探し探し発言する。
《具体的……。ぼうりょく、ない、きけん、ない、まなび、する、そと、いく》
《外?!》
私は思わず食いつく勢いで問うていた。
そうだ。ヒト族は外の世界を知っているではないか。彼らに聞くという手があった。
しかし言うなれば敵である。
考えた事もなかった。
《教えてくれるのか?!外の世界を》
興奮して尋ねると、彼は深刻な顔で静かに頷いた。
《外いく、むずかしい、でも、教える、できる》

私は、己の世界が大きく広がっていくのを感じた。
それは、希望。
会話ができる。意思疎通ができる。情報を得ることができる。要望を伝えることができる。
もしかしたら、話し合う事もできるかもしれない。
それは、なんて未来。
彼が信用に足るヒト族かはまだわからない。
けれど、何にせよ損にはならないのではないか。
そんな気がした。

私は右手を差し出し、握手を求めた。
上官に対して無礼な振る舞いであったが、彼にとっては嬉しい出来事であったらしい。満面の笑みを浮かべて、私の手を取った。
「あっ、痛っ」
《あっ!はたいてすまなかった》
私のはたいた手が、赤く腫れ上がっていた。
ヒト族はこれだからひ弱で困る。
《うちに来ないか。汚い家だが手当くらいできる》
彼は笑顔で頷いた。

これが、深く友誼を結ぶ友であり恩人でもあるヒト族との、初めての出会いだった。

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