花とコトリ

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12/9/2025, 2:39:17 PM

凍える指先と、クロの温もり

この冬一番の冷え込みが、窓ガラスを細かく叩く夜。

暖房をつけた部屋の中でも、
キーボードを打つ指先だけは、
もう随分前から氷みたいに冷たくなっている。
まるで、私だけ別の季節にいるみたいだ。

「大丈夫かい?」

そう言ってくれる声があればいいのに、
聞こえるのは時折聞こえる、愛犬クロの寝息だけ。
毛布にくるまって丸くなった黒い塊は、
たったそれだけで、
部屋の空気をふわりと暖かくしてくれる。

さっき淹れたはずのコーヒーも、
カップの中でもうすっかり冷たくなって、
湯気一つ立てていない。

それでも、一口飲む。
苦い、けれど、体には沁みる。

凍えた指先を、
クロのやわらかい頭にそっと乗せてみる。
温かい。
この温かさがあれば、もう少し、
この静かで冷たい夜と付き合っていける気がする。

12/6/2025, 2:44:32 PM

「消えない灯り」

夜のしじま。
電気を消しても、窓から微かに届く月の光が、
床にいるクロの輪郭を優しく縁取る。

もうずいぶん長く一緒にいる。
彼が私を見つめる、あの潤んだ黒い瞳。
その奥にある純粋な信頼は、
どんな嵐の中でも揺るがない、
私の心の底で灯り続ける小さな炎だ。

ふと、自分の手のひらを広げてみる。
何かを掴んでいるわけではないけれど、
そこにはいつも、
クロの温もりがあるような気がする。

いつか、すべてが変わってしまう日が来るだろう。
それでも、この「愛されていた」という事実は、
消しゴムでも消せないインクのように、
私の人生という紙に深く染みついている。

クロ、お前は本当に、私の消えない灯りだ。

12/1/2025, 2:22:35 PM

凍てつく星空

夜の庭に出た。
シンとして、息が白い。
肌に触れる空気は、痛いくらい冷たい。

見上げた空。
凍てついた星々が、
まるで砕けたガラスのように、
鋭く、そして果てしなく遠く光っている。
何億年も前の光が、
いま、わたしの目に届いている。
その途方もない時間の長さに、
わたしという存在の小ささを思う。

ふと足元を見ると、
クロが丸くなってわたしの足に寄り添っている。
もふもふした、小さな温かいかたまり。
宇宙の冷たさとは対極にある、
この確かなぬくもり。

世界はこんなにも大きくて、
凍てついているのに、
わたしはたったひとつの生命のそばで、
こんなにも温かい。

クロの吐息の温度。
このぬくもりこそが、宇宙への返事。

11/30/2025, 10:54:57 PM

🐾 君と紡ぐ物語

銀色の朝。
まだ少し肌寒いリビングで、君は丸まっている。
クロ。
黒い毛並みが、夜の残りのように鎮座している。

私にとって、君といる時間は、
いつも物語を編んでいるみたいだ。
大層な出来事なんて起こらない。
ただ、君が隣で「くうん」と小さく鼻を鳴らす。
その音を聞き逃さないように、
そっと耳を澄ませる。

散歩道で出会う花や、
濡れたアスファルトの匂い。
君が夢の中で小さく走っている足音。
全部、ささやかな詩になる。

君は知らないだろうけれど、
私は君と交わす視線の中に、
たくさんの言葉を見ているんだ。
それは、私だけが読める行間。

ありがとう。
今日も、私の物語の隣にいてくれて。

11/29/2025, 1:39:17 PM

「失われた響き」

愛犬クロの寝息は、まるで静かな海の波のよう。
規則正しく、柔らかい。
この響きだけは、いつでも私に届く。
失われない。

昔は、もっとたくさんの音が聞こえていた。
世界はざわめいていて、人々の声や、街の喧騒、
自分の心の焦燥までが大きな音を立てていた。
それは、何かに「なろう」としていた頃の、
前のめりな響きだったのかもしれない。

ある時、ふと、気づいた。
そのほとんどが消えてしまったことに。
失われた響きを探す必要は、もうない。
大切なのは、今聞こえている、
この小さな、確かな音だけだ。
クロの鼻息、窓を叩く雨粒。

私は、その音を横に並べていく。
小石を積むように。ひとつずつ。ていねいに。

この部屋にある、極小の輝き。静かな幸福。

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