しるべにねがうは

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11/10/2024, 11:55:51 AM

すすき

「団子はねぇの?」
「お月見は先々月に終わりましたわよ」
「…………いやススキあるなら団子がセットだろ?」
「お花見はお弁当がないとできないと思ってる人ですわね」
「だって花瓶にススキ飾るんだろ」
「行事がなくても花瓶に植物飾りますわよ」
「団子は」
「お腹減りましたか」
「いやだって団子があると思ってたから……」
「あると思っていたものがどこにも無いと分かった時の虚無感って大きいですよね……」

ぐう、と腹の虫が2人分。
夕日が差し込む廊下に伸びる影も2人分。

「台所になんか無いか…?」
「つまみ食いは減点30ですわよ!!」
「それたまったらどうなんの?飯抜き?」
「明日の朝のココアがなくなります」
「思ったよりしょぼい罰だった」
「マシュマロ入りですのよ!!」
「じゃあ俺だけで行くからいいよ」
「ずるいですわ尾上君だけ!!私もお腹が減りました!というか貴方のせいですわよ!お団子お団子って言いましたもの!」
「どっちを取るんだよ、今日のつまみ食いか明日のココア」
「諦めませんわ、両方です!」
「嫌いじゃ無いぜその強欲」

台所を目指して廊下を進む。笹本さんはまだ買い出しに出てるからつまみ食いなら今のうちだ。バレなければバレない。
玄関に差し掛かったところでガラリと戸が引かれた。
帰ってくるの早すぎだろ!?血の気が引いたが、そこに立っていたのは意外な人物だった。
特徴的なうねりの赤い髪、首に墨色のヘアバンド。

「何悪巧みしとんねん……」
「あ、蛸嶋君だ」
「蛸嶋君こんにちは」
「挨拶できて偉いなァ、ちゃうねん、俺は石蕗さんに頼まれて来たんやけど…おらんの?」
「呼んだら来ますわよ」
「柳谷女史だけやろそれ」
「何持ってんの蛸嶋君、団子?」
「よう分かったな!?エスパーか自分」
「マジ!?!?」
「あ、LINEきた…『お疲れ様です、お嬢様と尾上君と分けてください』……いやなんやのあの人急に団子買って来て欲しいて…」
「え、俺ら食べていい団子?」
「巧妙な罠かも知れませんわよ尾上君、油断大敵ですわ」
「自分なんやとおもてんねん…あ?ススキなんに使うん、月見?団子ってこれか?」
「ここにも月見にススキ派が」
「石蕗がOKだしたなら減点なしですわね」
「団子やるから場所貸してえな。月見すんやろ、縁側行こうや」
「月見過激派だ」
「文句言うなら団子無しやぞ」
「蛸嶋君万歳!」
「よッ、月見奉行!」
「初めて聞いたわその呼称」

その後、縁側にブランケットを広げ花瓶と団子を並べ、月が出るのを待った。新月の日だったのでススキを見ながら団子を食べて終わった。

「俺ら何するって話してたんだっけ」
「ススキを見る会では?」
「寒い」
「お嬢様、カロリーオーバーですので明日のココアは無しです」
「さ、笹本ぉ!?そんな殺生な!!」
「無しです」

11/8/2024, 4:14:22 PM

いみがないこと

「うふ。それはまた、おかしな話ですのね」
『返す言葉もない。柳子さん、』
「いいんですの、そんな気がしていましたので。ええ、お気になさらず」

にこやかに和やかに穏やかに朗らかに。
しかしお嬢の声色は硬く冷たく氷点下である。
表情も感情が抜け落ちたひどいものだ。

『この埋め合せは必ず』
「……物を贈るのはもうやめていただいて結構ですのよ。無理をさせているでしょう。高価なものは扱いに困りますし、持つべき人は他にいますわ」
『私は、君に似合うと思ったから、君につけてほしいと思って』
「うふ。戦場で?」
『柳子さん』
「戦場は言いすぎました、訂正します」
『そんな事はない、ですよ』
「でも冥土には持っていけませんのよ」

モノも、お金もいらない。
心一つしか持って行けない。

「なんて、これが最後の会話になるのはいけませんわね」
『……申し訳ない』
「良いんですの、この日の為に用意したサンドイッチもケーキもお紅茶も、みーんなうちのもので食べてしまいますので!京志郎様はのど飴とみかんと生姜湯でも飲んで健康に備えてくださいまし。体は資本ですわよ」
『あれ、まだそんな兆候ないんですが。声とか風邪っぽいですか』
「少しだけ鼻声かと。忙しさも立場もあるとは思いますが、ご自愛くださいな」
『敵いませんね』
「女性の洞察力を甘く見てはいけませんわよ」
『肝に銘じます』
「よろしい。では息災で。愛していますわ、京志郎様」
『柳子さんも怪我や病気に気をつけて。僕も愛しています、柳子さん』

ツーツー、と通話終了の音がする。
ガチャリ、とお嬢はそこで受話器を置いた。

「さて尾上君、オヤツの時間ですわよ」
「いや食い辛いわ」
「数時間前まではあんなに食べたがっていましたのに…」
「昨日の夜からなんかウキウキで準備してたから…ローストビーフのサンドイッチとかあるし…」
「メインのお客様が欠席ですからね、片付けませんと」
「…………いつもこうなのか?」
「そうですね、ざっと10年ほどですわよ」
「最後に会ったのいつ!?!?」
「10年以上前ですね」
「そんなサラッと……」
「事実ですもの」
「悲しくねぇの?」
「悲しいし寂しいですわ。今度こそ会えるかもと期待しながら準備しますし。」
「浮気とかじゃねぇの」
「昼ドラの見過ぎでは…?」
「だって10年て、同年代だよな…?何でそんな忙しいんだよ」
「椿財閥の直系ですし、忙しさはお互い様ですので。」
「どこの何?」
「興味ない範囲の話と自分に関係ない話って本当に知らないで生きてますよね。椿財閥は医療系への出資や研究を主に経済を回す財閥です。柳谷も傘下ですわ。」
「……結構デカいとこ?」
「それなりに」
「なんでお嬢がその…椿の直系の婚約者に、って話になんの?」
「父同士の仲が良かったそうで。現代だと家同士の格とかそこまでありませんし」
「……勝手に自分の将来の相手を決められるの、嫌じゃない?」
「私達お互いが初恋の相手ですので。」
「都合良すぎだろファンタジーかよ」
「顔合わせの時ダメならまた考えよう、程度の事だったと思いますわよ、今回はうまく行ったというだけで」
「はーん…」
「ピンとこない顔をしていますわね……」
「ピンとこないから……」
「さ、石蕗と笹本も呼んでお茶会です、今回も自信作なのできっと喜んでくれると思いますわ」
「めっちゃ準備してたもんな」
「ええ、次回はもっと美味しく作ります」
「……嫌いになんねぇの?」
「運が悪かっただけですので。それに京志郎様の心を信じていますから」

寂しさの翳りをまったく見せない笑顔でお嬢は言う。

「例えずっと来れなかったとしても、私はずっと待つだけですし、その期間は無意味なモノではありませんのよ」

11/7/2024, 3:12:00 PM

あなたとわたし

後日書きます!!枠だけとらせていただきますー!

11/6/2024, 1:26:58 PM

柔らかい雨

あめにもまけずかぜにもまけず。
あの詩を全部読んでいる人はどれほどいるだろう。
まだであるなら是非ご一読を。

最後の一文が、僕に一つ勇気をくれる。

あめにもかぜにも負けそうな僕だけれど、
どんな僕になりたいか、そうなりたいと願い努力する事、それは誰にも否定できない僕の財産だ。

やさしいひとになりたい。
つよく、やさしいひとでありたい。

11/3/2024, 1:44:27 PM

鏡の中の自分

観音開きの三面鏡。がっしりとした木製の鏡台には、笹本が揃えてくれた基礎化粧品や傷薬、私の肌にあうハンドクリームやリップクリームなどが収まっている。引き出しには石蕗から貰った押し花の栞、そして京史郎様からいただいた爪紅、髪飾り。
幼い頃は苦労して登っていた椅子も、今では普通に座ることができる。お母様も、ここでお化粧したりしたのでしょうか。

お母様は私が生まれた時に体を悪くして、そのまま言葉を交わすことなく儚くなってしまった。
そうして生まれた私も体が弱かった。
せめて男児であればと思ったことが一度や2度ではなかったのではないでしょうか。

せめて男児であれば跡を継げたでしょう。
せめて健康であれば繋がりを持てたでしょう。
せめて母だけでも生きていれば未来があったでしょう。

生まれたのが病弱で女の私でなければ何か変わっていた。
何かもなにも、何もかも違っていたでしょう。

しかしお父様に直接聞く機会はもうなくなってしまった。
お父様も既にお母様と同じ場所にいる。
愛妻家であったから、きっと幸せに暮らしていらっしゃると思う。

鏡に映るは小娘1人。荒れた唇にリップクリームを塗って、豆が潰れて硬くなった手に軟膏を塗る。
私が普通の女の子であれば、きっと母親と笑い合いながらこのドレッサーを使っていたでしょう。髪を結ってもらって、何色のリボンが似合うとか、合わせていたのでしょう。
けれど今鏡に映っているのは、暗闇で刀を振り回し、泥と血と土に塗れた子供である。

お母様。きっと私は死ぬまでこの鏡台に、幸せな親子を映す事ができないです。私では。

どうしようもなく胸の内が空っぽに思えて、堪らず三面鏡を畳んだ。最後に見えた鏡の中には、泣きそうな顔の少女が映っていた。

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