今回のお題から数回分、長編っぽく続くお話です。
昔々、だいたい数十年前のおはなしです。
異世界からの移民の大量流入が原因で滅びに至りそうな世界がありまして、
炎と雷と光のせいで死んでしまった花畑の真ん中に、
ぐったり、1匹のドラゴンが倒れておりました。
ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
そして、その世界を一番愛していたドラゴンでした。
その世界の一番偉い人が、近代化と繁栄を目当てに機構との避難民受け入れ協定を結んだ途端、
大量になだれ込んできた移民が、
世界の豊かな資源を根こそぎ採掘して、工場だのビルだのを大量に建て始めて、
世界のバランスを一気に崩し、多くの魔法動物の心魂を、濁らせてしまいました。
『この世界は、別世界の先進技術で繁栄する!』
偉い人の魂胆がガッツリ裏目に出たのです。
愛する世界を守るために、ドラゴンは移民たちを追い出そうとしました。
だけど移民たちはドラゴンを、大量の不思議なアイテムで縛り付けて、ズッタズタにやっつけて、
ドラゴンの魔力も魂も、全部ぜんぶ、電力に変換しようとしました。
ここで、事故が起こったのです。
ここで、ドラゴンの心魂が汚染されて、ドラゴンを狂わせてしまったのです。
狂ったドラゴンは移民が作ったものすべてを焼き払い、叩き潰し、
結果として、「移民の技術が無ければ機能しなくなってしまった世界」は、ぐっちゃぐちゃに壊れてしまったのでした。
『この世界は、悪しきドラゴンに滅ぼされた』
移民も原住民も、絶望のどん底に落ちました。
全部ぜんぶ壊し尽くして、傷を負って倒れ込んで、
ようやくドラゴン、正気に戻りました。
もう、生きている異世界の移民はどこにも居ません。
もう、動いている異世界の機械は何もありません。
その「異世界」無しには、
この世界は1週間も生活できないところまで、依存してしまっておりました。
そこに現れたのがルリビタキ部長。
「あーあー。また一部の利己的な移民が、世界をひとつ壊しかけた」
前回投稿分に登場したルリビタキではありません。
そのルリビタキの、先代のルリビタキです。
「酷いな。
この世界は、僕のお気に入りの花畑があったのに」
酷いや。本当に、ひどい。
まだ息のあるドラゴンの前に立って、先代ルリビタキ、言いました。
『性懲りもなく、また俺を捕まえに来たのか』
満身創痍のドラゴン、管理局を知りません。
先代ルリビタキを新しい敵と勘違いして、弱々しく、威嚇します。
『ここにはもう、お前たちが欲しがるものは何も無い。出ていけ』
威嚇があんまり弱々しいので、ルリビタキ、ちっとも怖くありません。
ドラゴンを撫でて、嫌がられて、それでも撫でて、
「寂しいこと言うなよ。取り引きしたいんだ」
自分の名刺を――出したらそれを、ドラゴンにパクリ。食われて吐き出されてビッチャビチャ。
『ヨソモノの思い通りになどならん。失せろ』
それでも先代、にっこり笑って言うのです。
「僕は世界線管理局、法務部執行課、特殊即応部門のルリビタキ。
縄張り意識が酷く強い、『幸せの青い鳥』。
お前が管理局に身を売るなら、僕たちの収蔵品でこの世界を元に戻して、ヨソモノも全員追い払おう。
3食昼寝付き。おやつも完備だ。
この世界はお前の選択次第でやり直せる。
悪いハナシじゃないだろう。なぁ、どうだろう」
その後のドラゴンのハナシは、また次回。
続くったら、続くのです。
どうしてキノコ派とタケノコ派は衝突するのか、
どうして唐揚げはレモンの有無で割れるのか、
どうして【例の焼き菓子】は呼び名が20も30も存在しているのか。
食べ物には多くの「どうして」が存在して、なにより議論の種となっておりまして、
今回ご紹介するおはなしもまたそんな「どうして」のひとつでありました。
最近最近のおはなしです。
ドチャクソにフィクションなおはなしです。
都内某所、某アパートの一室に、藤森という雪国出身者が住んでおりまして、
諸事情から「ここ」ではないどこかの世界から訪問してきた、ドラゴンだのハムスターだのが、
勝手に入ってきて、藤森の作る低糖質低塩分料理をむしゃむしゃしたり、買い置きしていたミックスナッツをモゴモゴしたり。
それでもちゃんと代金は払っておったのでした。
その日も藤森の部屋には、モラルというかルールとして、ちゃんと人間に変身して身なりを整えたドラゴンが、お邪魔しておって、目玉焼きをもぐもぐ。
「うまい」
ドラゴンは光と炎と雷のドラゴンなので、
ぶっちゃけ特に何を食べずとも、日光と水と、ほんの少しの糖分さえあれば、
数日、数週間、普通に活動できるのです。
だけどドラゴン、ひょんなことから「うまいものを食べる」という娯楽を覚えてしまいまして、
ここ●●年は、誰かに作ってもらってものを、もぐもぐ幸福に食っておったのでした。
ところでこのドラゴン
先日藤森の職場の図書館に
自分の部下と一緒に仕事で入館したのですが
その図書館の飲食スペースで
なにやら5人10人ほどの若者が
真剣に、それはもうドチャクソ真面目に、
目玉焼きは何が最適解かで、議論しておりまして。
どうして目玉焼きは醤油派が多数なのでしょう?
どうして目玉焼きは、次点が塩や塩コショウで、
その次からはウスターソースにケチャップ等々、
荒れに荒れておるのでしょう?
どうして?
ドラゴンはドラゴンなので、ぶっちゃけ人間たちのケンカのことは、よく分かりません。
ですが、図書館の複数人が、あまりにも真剣に
「うなぎのタレ一択」だの
「一味マヨが意外と美味い」だの
「何故みんなレモン塩を推さないんだ」だの
いろいろ静かに激突しておったので、
少しだけ、気になったのでした。
「何故だ、藤森。
どうして焼き卵ひとつでそこまで議論になる」
「そう言われても。私にも、どうにも」
「何故だ」
「知りません」
「お前はどれなんだ」
「だいたい醤油か塩コショウですね」
ふーん。
ドラゴンは藤森から目玉焼きのおかわりを貰って、
半熟というより7割8割程度熟の黄身に向かって、
ドラゴンが最近覚えた調味料、柚子胡椒を少しだけ、つけてみたのでした。
「珍しい組み合わせですね」
「そうか」
「好きなんですか、トウガラシとか、辛味系」
「心が落ち着かないときは、こいつの辛味の痛みを詰め込んで、抑え込む。
あとは単純に、好ましい味として適量を食う」
「はぁ」
もぐもぐ、もぐもぐ。
ドラゴンが美味しそうに卵を食べるのを、藤森はぼーっと見ています。
ドラゴン自身から、元々食物摂取がそれほど必要無いことは、藤森も聞いておりました。
だけど藤森にはどうしても、どうしても、
このドラゴンは、食いしん坊にしか見えません。
「本当に食事は最低限で良いんですか」
「不要だ。水と光さえあれば問題無い」
「どうしてそれなのに、私のところに」
「美味いものを覚えた。それだけだ」
「甘い物がキライなのは?」
「キライではない。甘過ぎるものに良い思い出が無いだけだ。食えないワケでもない」
「思い出?」
「思い出だ」
礼の代金は置いておく。 また来る。
人間に変身したドラゴンは、「思い出」のハナシを置きっ放しにして、藤森の部屋から出ていきます。
「思い出か」
藤森は、食いしん坊ドラゴンがどうして食いしん坊になったのか、気になって仕方ありません。
「思い出か……」
どうしてだろう。 どうしてだろう。
藤森は数分、ひとりして考えておったとさ。
前々回から地味に続いておったおはなしも、今回でようやくひと区切り。
最近最近の都内某所に、後輩もとい高葉井という女性がおりまして、
前々回あたりのおはなしで、幸福な推しの夢を数時間、諸事情により見ておったのでした。
「めっちゃリアルだったの」
「そうか」
「もう、8K16Kくらいの高画質で、無圧縮くらいの高音質で、ツー様が私に、コーヒー」
「そうか」
「めっちゃ、リアルだったの……」
「高葉井、」
「何故かキャンパーだったし、焚き火の民だったけど、言動全部解釈完全一致だったの……」
「高葉井。寄贈本がだいぶ貯まってきてる。
仕分けか装備のどちらかを頼みたい」
「リアル……」
「こ う は い」
ポワポワ、ぽわぽわ。
推しが夢に出てきて、大歓喜の高葉井です。
幸福な夢を見て、なにより久しぶりに十分な量の睡眠をとりましたので、長年の睡眠負債も軽減!
頭がとっても、スッキリしています。
良い体調で家を出て、良い気分でバスを待ち、
心体双方軽やかに、自身の職場に到着です。
高葉井は都内の私立図書館に勤めておりまして、
そこは、夢に出てきた推しが登場するゲームの、
まさしく、原案と原作が爆誕した聖地でした。
「やっぱ人間、寝なきゃダメだよ先輩」
「そうか」
「寝れば夢の中で推しと会えるんだよ先輩」
「今なら寝なくてもツバメさんとは会えるだろう」
「そっちは公的なツー様。こっちは私的ツー様」
「はぁ」
「また会いたいなツー様」
「頼むから仕事をしてくれ高葉井」
できるなら今日もあの夢を見たい
とか、
なんならずっと、あの夢を見てたい
とか、
いっそずっとずっと、あの夢だけを見てたい
とか。
高葉井のポワポワは長くながく続きます。
そりゃそうです。
高葉井の夢に出てきた推しを、高葉井はずっとずっと、だいたい中学生くらいの頃から、
専門用語も解釈も見解も何も知らぬままに、
ただ一心に、推しておったのです。
その推しが超現実的な夢に出てきたとあっては、
そりゃあ、脈拍数も血圧も、上がるのです。
「先輩の近所のあの稲荷神社にお参りしたら、またツー様、夢に出てきてくれるかな」
「なぜ」
「だってあそこ、ご利益ありそう。本物のコンちゃん居るもん。叶えてくれそう」
「はぁ」
「神様仏様子狐様」
「稲荷は中途半端に頼ると後が怖いらしいぞ」
睡眠大事。夢大事。推しは更に大事。
ポワポワ幸福に口角の上がる高葉井は、
ポワポワ幸福に図書館の仕事をこなして、
外を見て、天上を見て、上の空になります。
「こうはいさん」
「大丈夫だいじょうぶ仕事はしてる」
「高葉井さん」
「だから仕事はしてるってば先輩」
「私です高葉井さん」
「はいはい新しい寄贈本はそこの箱にどうぞ〜」
ポワポワ、ぽわぽわ。高葉井は夢見心地。
そのわりに図書館の仕事はミスなく為しています。
まったく器用なものです。
「あの。高葉井さん」
「はいはい後輩の高葉井は推し夢を燃料に絶賛高速仕事中ですよー」
推しは高葉井の燃料として、極上高品質であるらしく、高葉井の仕事は一気に片付いてゆきます。
「おまえ、ツバメさんが居ると仕事が早くなるな」
「なりまーす。ルー部長も居れば爆速でーす」
気がつけば高葉井、見た夢を燃料にして、
その日の仕事の7割を、午前中で終わらせます。
「夢っ!おやすみ!」
「メシはどうするんだこうはい……?」
「知らない!夢!夢を見てたい!」
「はぁ」
昼休憩にはどこからともなく、枕を出してポフン。
秒でイントゥーザドリームしましたとさ。
「夢を見てたい」がお題のおはなしでした。
おしまい、おしまい。
【世界線管理局 収蔵品
『睡眠負債ゼッタイ許さないマクラ』】
夢と現実が混ぜこぜになった結果として滅んだ世界より回収・収蔵された。
元々は枕と毛布と、それからマットレスとの三点セットで登録されていたが、
マットレスと毛布は収蔵後、行方不明。
枕に頭をのせ、眠ることで効果が発揮される。
睡眠負債が消失するまで、使用者にとって幸福な夢を、場面を変えシチュを変え見せ続ける。
睡眠負債の解消が目的であり、幸福な夢は完全に手段でしかないものの、
手段の方を目当てにした貸与申請が殺到したので
現在は貸与厳禁指定が為されているものの、
いつの間にか洗濯されていることが多々ある。
<<いつの間にか洗濯されていることが多々ある>>
――――――
前回投稿分と繋がるおはなし。
都内某所、某アパートで、後輩もとい高葉井という女性がグースピかーすぴ寝ておりまして、
高葉井の枕はいつの間にか、高葉井の物ではなく、
とっても高級そうな別の物に変えられていました。
そうです。
冒頭の睡眠負債絶許枕です。
「幸せそうだねぇ」
高葉井の枕をこっそり変えたのは、
高葉井のメイクのお師匠にして、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の収蔵部局員。
ドワーフホトというビジネスネームのお嬢様。
ドワーフホトが管理している絶許枕が、相変わらずどこぞの誰かに使われておりまして、
いつもならば洗濯されて戻されるのですが、
今回は洗濯ナシで戻ってきておったのでした。
洗濯機に突っ込む前に、せっかくだから高葉井に、ちょっと良い夢でも見せてあげよう。
ドワーフホトは思いまして、こっそり、本当に、こっそりと、高葉井の枕を変えたのでした。
そしたら2時間3時間グースピ。
さっぱり起きません。
ずっとこのまま、それこそお題どおりに、
眠り続けそうな勢いでした。
「でもそれだけ、たぶん、寝不足なんだねぇ」
世界線管理局収蔵品「睡眠負債ゼッタイ許さないマクラ」で眠る高葉井は、尊い推しの夢の中。
推しと焚き火を囲んで、推しからコーヒーを貰って、推しが焼いたカリカリベーコンなど食べます。
幸福な時間を過ごしていることでしょう。
「でも、そろそろ、枕のお洗濯しなきゃ〜」
ごめんね、ごめんねー。
高葉井のお師匠は高葉井の、枕をスッスと取り替えて、普通の枕に戻しまして、
こっそり、職場の管理局に帰ってゆきます。
高葉井はお師匠のイタズラに気づきません。
ただただ夢の中で、推しと一緒。
ずっとこのまま、ずーっとそのまま、
夢の中に居たいと願って願って、幸福チート夢枕の効果が消え去って起きて、
気がついたら、正午まで寝ておりましたとさ。
前回投稿分と繋がる、ずっとそのまま見ていたかった夢のおはなしでした。 おしまい。
私、永遠の後輩こと高葉井の、
永年の推しが「自称ニワカキャンパー」だった、
……という夢を見た。
「まぁ、少なくとも確実に、経験は浅い方ですよ」
何かの諸事情で宿泊先の、稲荷神社の宿坊の、
モノホンの漢方医の御狐様から追われたらしくて、
東京に仕事に来てた推しが、夜の屋外キャンプ場にご降臨あそばされた、
夢を見た。
夜だからか、他のテントから距離を置いてるからか、何かもっと別の理由か、
彼がここにロープを張って、なにか分厚くて丈夫な布でテントみたいなのを作って(なんかタープがどうとか言ってた)、
焚き火して、コーヒー沸かしてるのを、
誰ひとり、気付かないみたいだった。
すごい解像度だった。
すごいリアルで、すごい高音質で、
すごい、VRを超えたナニカだった。
「光の関係です」
「ひかり」
「そこに吊り下げているランタンで、多くの客から逆行になっているのです」
「はぁ」
「ランタンを移動させて順光にしますか?」
「やめてとめてくださいガチでやめてください、
しんじゃう、わたし、しんじゃうッ
笑わないでくださいよガチでホントにガチに言ってるんですからホンキでナシでお願いします」
ツー様とかツく部長とか呼ばれている推しは、
某管理局の法務部に勤めてて、即応部門っていう部門の副部長だか、副部門長だかをしてる。
管理局はビジネスネーム制を採用してて、
推しが貸与されてるネームは、ツバメ。
だから一部のツー様推しは、「ツく部長」と呼ぶ。
なおここではツー様に付随する二次創作的な右とか左とか上とか下とかは語らないものとする
(お察しください)
「さぶい」
「冬は苦手ですか。高葉井さん」
「寒さが見に染みてきてます」
「そうですか。それは良かった」
「ヨカッタ……??」
さぁ、どうぞ。
推しのツー様が焚き火から、吊り下げてたヤカンみたいなものを下ろして、タパパトポポ。
ツー様の上司のルー部長が普段使ってるというマグを失敬して、コーヒーを淹れてくれた。
「良かった、でしょう?」
私の推し、夢の中のツー様が言った。
「おかわりが必要なら、いつでもどうぞ」
キャンプ場の夜の寒さが身にしみてくるのも、
寒さが身に染みてる状態で温かいマグを持つのも、
温かいマグからコーヒーを胃袋に収めるのも、
全部ぜんぶ、私の夢だ。
夢の中で私とツー様は、まるで毛布の中にとどまる優しいぬくもりのように、
ぬくもりの、ように——…
…——「毛布にくるまってて良かったっけ?!」
アサデスヨコウハイ!オキナサイ!
ツー様のアラームボイスで目がさめた。
毛布からバンって跳ね起きたから、体が毛布の外の室温に馴染んでなくて、
夢の中の例のキャンプ場と違う意味で、寒さが身に染みてきた。
朝だ。
お手製アラームボイスが鳴った。
私の頭は半分寝ぼけてて、半分強制覚醒してた。
スマホのトップに貼り付けてるカレンダーを見た。
今日は、おやすみの日だった。
「は…… はぁぁ……」
そうだった忘れてた。寝てて良いんだ。
いつものアラームを消し忘れたんだ。
私は大きなため息を吐いて、もぞもぞ。毛布の中に潜って戻って、コテン。
休日だから、二度寝を決め込んだ。
「アラーム消しとけば良かった」
ちょっと毛布の中から暖気が逃げただけなのに、
毛布の中はそれでも、一瞬にして冷えた。
推しへの執念と執着とその他諸々とで、再度推しの夢を引き当てたけど、
日頃の不摂生のせいか、
寝て起きたら一気に正午まで時間が進んでた。
良い夢は見れたけど、私の休日の残り時間は、
すごく、すごく、減ってしまってた。