ハクメイ

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2/6/2026, 11:14:07 AM

そこは薄暗い地下室だった
細い灯りを元に、ぼろっちい服を着た男が、あぐらをかいて下を向いていた。
男は、片手でドライバーを持ちながら、もう片方の手で丸い時計を手にしている。
カチャカチャと音を立て、ドライバーの種類を変えながら、時計の基盤をいじり続けている。
はー、とため息をつき、それを続けること数十分。

「はー!おわったぁ…!」
満面の笑みを浮かべ、鼻をいじる。
「俺でも直せちまうんだな。にしてもこれ、本当に"時を巻き戻せる"時計なのか?」
自分が直した時計を、まじまじと見つめ
「まぁいいか!何もなかったら、それはそれで」
と、自分の中で答えを出し、立ち上がる。

時計の針を直接触り、逆回りに無理矢理にと動かす。
もういいだろう、とツッコミを入れる辺りでその指は止まり、手を離す。
すると、針は勢いよく時計回りに動き出し、プシューと音を鳴らし始めた。
「うぉ!きたか、きたか!?」
男は時計に顔を近づける。針がぶつかりそうなぐらいに
しかし、その顔は途端に落ちた。

ごとりと、生首だけが、床に血をぶちまけながら。
数秒遅れて、身体もぐしゃりと床に倒れた。
首から、血のみずたまりが形成された。
男の首を千切った何かは、獣のような唸り声をあげる。

四足の獣は、その死体を容易く完食し、次に床に落ちた時計に食らいつく。
ライオンが骨付きの肉を食べるかのように、音を立てながら、それは数秒で体内に吸収された。
獣は、使命を果たしたのか、いつのまにか部屋に生まれた、穴に入り、姿を消す。

部屋に残ったのは、薄暗いランプと、床に残った血溜まりだけだった。


お題『時計の針』

2/5/2026, 11:32:29 AM

言葉じゃ言い表せない高揚感
動きじゃ収まらない罪悪感
それでも溢れ、高ぶる想い。

僕は、何をしているのだろうか。
あの子に告白して、振られたから?
それで夜の街に繰り出して…誰かに話しかけられて…
思い出せない。いや、思い出さなくてもいいか。
今はこの気持ちに浸っていたい。幸せなんだ、とても。
だから、邪魔をしないでくれ!


「こちらα、現場に到着。
目標の狂者を発見。駆除を開始する」
無機質な音と共に、複数の天使達が武器を構える。
そこは左右に、ネオン輝くビルが立ち並んでいた。
ビルにはたくさんの光る看板がかけられ、綺麗なドレスをきた者達が、心配そうに覗いている。
その道のど真ん中で、往来を邪魔するように、ビルの半分ぐらいの大きさをした、獣が立っていた。

巨大な羊が、二足歩行をしたような姿だった。
口から涎を垂らし、服は千切れ、全身の赤い羊毛が刺々しく生えている。
戦隊モノの悪役のように、赤黒いオーラを放っている。
目は焦点が定まっておらず、天使達の忠告が、耳に入っていないようだった。

「あーあ、あれは助からないね」
真の黒幕のように、嘲笑うかのように。
ビルの上で、騒動を見下ろす誰かが、そう言った。


お題『溢れる気持ち』

2/4/2026, 10:54:03 AM

そこは、地獄だった。
比喩ではなく、言葉の通り。
蘇ることができなかった者達が、最終的に辿り着くこの世の果て。
血のような川が流れ、怨嗟の声が延々と聞こえる。

一人の女性が、そんな川のほとりを歩いていた。
裸足で、服がボロボロで、髪はパサパサで。
女性はうわごとのように、何かを呟き続けている。

「あなた、あなた、あなた、あなた」
「あなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあな」

それは呪言となって、川をさらに汚していた。
口が止まることはなく、永遠に続く川のように、永遠とその口から言葉が放り出されていた。

もしかしたら、真実のキス。なんてロマンチックなことをしたら、この未練は消えるのかもしれない。
だが、後ろからそんな人は追いかけてこなかった。

お題『Kiss』

2/3/2026, 10:30:16 AM

「1000年先も、一緒に遊ぼうね!」
ピンクのランドセルを背負った君が、そう言った。
桃色の目で、眼差しを向けた。
僕は、うん。と返して、ゆびきりげんまんをした。

1年後
君は進級して、中学校に通い始めた。
会うことはぐっと少なくなったけど
それでも僕達は、休日に遊びに出かけた。

10年後
僕達は大人になった 付き合った
君は大学に入学して 僕は働いた
会う時間は増えた 同じ家だったから
これからどうしようかと、たくさん未来を話し合った。

100年後
君は死んだ 僕も死んだ
だけど僕は、思者(死者)として蘇ってしまった。
君の体を取り込んで、『約束』の想いだけが、心臓として体を動かし続けた。

1000年後
世界はあっという間に変わった
他人と話すことも無くなった。一人旅を続けていた
自分自身の体を抱きしめる 君を、抱きしめる。
誰も覚えていない歌を歌った 授業で歌ったあの曲を
遊ぶように、体を動かしたくなるように、元気に。

これで、約束を叶えられたのだろうか。
誰も答えてくれやしない 求めても、いない。
ただ、僕が。
君を1000年覚えている者として、死にたかっただけだ。

お題『1000年先も』

2/2/2026, 10:58:54 AM

そこは、花畑だった。
青空の下に咲き誇った、小さくて、色とりどりの花々。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
白紙のような髪の毛を足まで伸ばし、下に咲く花のような目を、空に向けている。

「私は誰?」
「私はなんでここにいるの?」
「私は…私は」

誰も、その言葉に返事をしてはくれなかった。
花も、空も、少女の視界に映る全てが、無視を決め込んでいた。

そんな少女を、双眼鏡で見つめている誰かがいた。
「少女の様子は」
双眼鏡で見つめていたその人物は、隣にいる者の質問に答える。
「おそらく、成功しています。記憶はないかと」
「だろうな。彼女の記憶は全て、花にさせたからな。
あの花畑は、計画の成功を表している。」

まるで自分の功績を、吟遊詩人に語っているかのように、そいつは詳しく喋った。
双眼鏡を持つ男性は、不満を言葉にせず、ただ息を吐き、もう一度少女を双眼鏡で見る。
そこには、立ち尽くす少女と、花畑だけが残っていた。

お題『勿忘草』

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