懐炉 @_attakairo

Open App
12/4/2025, 9:24:20 AM

それはとても静かにやって来る。
目の合った野生動物が後ずさるように。
クラシカルな街路灯が順にともり始めたときのように。
降りしきる細雪がアスファルトに吸い込まれてゆくように。
とても静かに積もるので、誰も予兆に気がつけない。

追いついたとおもったら、それは晩秋だったりする。
つかまえたとおもったら、それは浅春だったりする。

どうにも捉えどころのない。
それが厳寒の麗しさである。

【冬の足音】

12/3/2025, 9:06:42 AM

呼び出されるように待ち合わせて、映画を観た。
ずっと気になっていた映画。前に話したの、覚えててくれたんだ。
「その話ばっかでうぜぇから」
並んだ席を二枚発券。チケットの作品名を何度も眺める。
君も、じっと目を凝らして。
「『たゆたえ!鮭の漂流記』……なんだよこれ本当に」

上映後のランチで感想会。鮭が鮫におそわれるシーンが素晴らしかった。あと網にかかったところで泣きそうになるし……
力説してると手が止まっちゃう。
君はなんともいえない顔。でも相槌を打ってくれる。
「いいからさっさと食え」
デザートのパフェとケーキは半分こ。

夕暮れが近づいたから手を繋ぐ。
隣を見れば逸らされる。
こんな日がまたあればいいな。ふと思う。
思っていると、繋いだ手とは反対に、何か差し出されていることに気がついた。
高級感のある黒塗りのケース。

「中はカラだから」

よくある映画のよくあるシーン。
そのはずなのに、やっぱりどこか君らしい。
これから行くとこで選ぶからと、押しつけられたそれを開くまえに、君に飛びついた。

【贈り物の中身】

12/1/2025, 1:03:10 PM

ちかり。流れて消える。
前方の人影がわずかに揺れ、追いますか? と声がした。
さらに前方に揺れる影。いや、見送ろうと応えている。
会話が終わり。
天をのぞんで影々は揺らめき、そのたび星空はスクリーンとなって。
尚々遠くに思えてならない。

ちかちかり。

立て続けに流れ、消える。そこでまた、追いますか? と誰かがいった。炎々揺らめく。応えはない。

見送ろう。
我々を導くのは星ではない。
底を見よ。きしむ湖上の地の底を。投影とはなにか?

真正を映すものか?

応えはない。

各々足元に気をつけるべきだ。灯芯が冷え切らぬよう。

【凍てつく星空】

11/30/2025, 4:01:15 PM

あらすじを読んで 満足するような
軽くて薄っぺらで 量産的な
そんなものだって投げ捨てたのに

ぺらぺら流して 結末も見ないで
ほんとは誰が主役とか 脇役とか悪役とか
興味持てずに周りの矢印が消えていくのを

俯瞰してペンを回すだけ
はじまりからおしまいまで
出来事は全部決まってるのに

外伝 裏話 後日談 何も望まれていないのに


それでも生きたいと思うのはなんでだろう?

必然なのに 出逢えてよかったと思うのは
運命なのに 意味を付け足してしまうのは
本の厚みは変えられないのに
知らない未来を探すのは

これ以上心残りを置いていきたくないよ
今更なんて言ってほしくないよ

誰かが書かないと進まないよ
もうその誰かはここにいるの

【君と紡ぐ物語】

11/30/2025, 3:01:08 AM

城内食堂の振り子時計がとまっている。場のなによりも象徴的だった。
埃積もったテーブルクロス、放置された燭台。
ロウはただれて乾いた姿。

時が留まることは無い。今、こうして靴底を鳴らす人間だって居る。
しかしこの場で歩みを止め、息を止めたなら。

どうだろう。

ホールに広がり下りる段差。
冷気を逃さない回廊も。
静寂に満ち満ちて、耳が痛くなる程に…………聴こえてくる。



――済まないが少年、今の時刻を教えては貰えないだろうか。友人との待ち合わせに遅れそうでね……
――十五時を二分ほど過ぎました。
――有難う。この辺りに屋外時計は見当たらないが、どうして分かるのだね。
――遠くで三回、鐘が鳴ったから。
――ああ、チャペルで式を挙げているんだろう。君の左ポケットの懐中時計はより正確な答えを知っているよ。
――…………。
――お前さん、名は?
――知りません。在りません。
――向かいの洋菓子店のパンを食べた事は?
――有りません。

――少し待っていなさい。



空風が吹き抜ける。
……秒針は動いていただろうか。
踵を返すと、枯れ枝が擦れて鈴の音を鳴らした。

【失われた響き】

Next